縮まらない東西の賃金格差

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2025年10月

東西ドイツ統一から30年以上が経過した現在、かつて物理的に存在した「壁」はすでに取り払われたが、所得における“見えない壁”は、なおも残されている。連邦統計局などがまとめた最新の「社会報告2024(Sozialbericht 2024)」によれば、東西ドイツ地域間には依然として明確な可処分所得の差が存在し、特に上から10%の最上位の所得層ではその格差が顕著である。全体の生活水準は着実に向上しているものの、所得構造に根付く東西の不均衡は容易には解消されず、真の意味での統一にはなお課題が残ることが浮き彫りとなっている。

東西統一後の賃金格差の推移

連邦統計局(Destatis)、ベルリン社会科学研究センター(WZB) と連邦人口研究所 (BiB)が共同でまとめた「社会報告2024」では、1990年から2022年にかけての旧東西ドイツ地域における月間世帯可処分所得の推移が示されている(図1参照)。

図中の濃いオレンジは旧西ドイツ地域、黄色は旧東ドイツ地域を表している。各ブロックの幅は、所得分布における中間層(全体の80%:上位10%および下位10%を除いた層)を表しており、ブロック内の太い黒線はそれぞれの中央値を示している。また、ブロックの上下にある点線は、最も裕福な上位10%および最も貧困な下位10%の層を示し、生活水準のばらつきや所得格差の広がりを可視化する指標となっている。

図1:東西ドイツにおける月間の世帯可処分所得(実質)の推移(1990-2022年)
画像:図1

出所:Sozialbericht 2024.

図1からは、1990年の東西ドイツ統一から30年以上が経過する中で、両地域の所得水準が大幅に上昇したことが読み取れる。1990年代初頭には、旧東ドイツ地域の月間可処分所得の中央値は約1200ユーロだったが、2020年〜2022年にはおよそ1800ユーロにまで増加している。旧西ドイツ地域においても、同期間に約1600ユーロから約2000ユーロへと伸びており、いずれの地域でも生活水準の向上が見られる。

格差は依然として解消せず

しかし注目すべきは、両地域間の「格差」が依然として解消されていない点である。統一以降、旧東ドイツではあらゆる所得層において、可処分所得が常に旧西ドイツを下回っている。特に、所得階層の下位10%に属する層は、統一直後こそ急速に旧西ドイツの水準に接近したものの、2000年代以降の景気後退期には再び格差が拡大する傾向が見られた。また、全体的に見て、最下層の所得は東西ともに長期的に横ばいであるのに対し、上位10%の所得層では顕著な上昇が確認されている。

さらに、旧東ドイツにおける所得分布は中央値付近に集中する傾向があり、極端な高所得層・低所得層の割合が相対的に少ない。これは、中間層が比較的均質に存在する、いわば「平坦な社会構造」が一定程度維持されている(あるいは、かつて存在していた)ことを示唆している。

総じて、旧西ドイツでは長期にわたり所得格差が徐々に拡大している一方、旧東ドイツでは統一当初こそ比較的平等な分布が保たれていたものの、時間の経過とともに格差が広がり、現在では旧西ドイツの水準に近づきつつある状況にある。

再統一から30年以上が経過し、世代交代も進む中で、東西間に残された格差は依然として顕著であり、完全な統合への道のりは今なお続いている。

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