2026年1月に最低賃金を平均約7.2%引き上げ
 ―国家賃金評議会決定

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2025年8月

政労使と専門家で構成する国家賃金評議会は7月11日、経済発展の段階に応じた4つの地域区分ごとの最低賃金について、2026年1月に地域別平均で約7.2%(月額)引き上げる改定案を決めた。最賃額が最も高い「地域1(ハノイ、ホーチミン両市の都市部など)」では、現行より約7.1%増の月額531万ドン(時間額2万5,500ドン)に引上げられる見込みである。改定案は首相の承認を得て、正式に決定される。

1年半ぶりの改定に

ベトナムの最低賃金は、経済発展の程度に応じた4つの地域区分ごとに示される。従来は年1回、原則1月1日に改定されていたが、コロナ禍による経営環境の悪化などを受けて2021年1月の定期改定が見送られた。その後は、2022年7月、2024年7月にそれぞれ改定されていた。今回(2026年1月)は1年半ぶりの引き上げになる。

コロナ禍後の平均改定率を見ると、2022年7月、2024年7月とも約6%の引き上げだった。平均約7.2%という今回の引き上げ率は、過去2回の改定率をやや上回る。

改定の議論

最低賃金の改定にあたっては、政労使の委員らで構成する「国家賃金評議会」が審議する。「政」は内務省(2025年3月の中央省庁再編で、旧労働・傷病兵・社会問題省(MOLISA)の所掌事務を継承)、「労」はベトナム労働総同盟(VGCL)、「使」はベトナム商工連盟(VCCI)などから、それぞれの代表者各5名が参加する。これに労働・経済・社会経済分野の専門家2名が加わる。委員長は「政」の内務副大臣が就く。評議会は審議のうえ改定案を決定し、政府(首相府)に提出する。首相はこれをもとに改定額を決定し、政令として公布する。

現地報道によると、6月26日の第1回審議で労働側(VGCL)は、労働者の最低生活水準を確保するためだとして、9.2%と8.3%という2つ率の引き上げ案を提示した。これに対して経営側(VCCIなど)は3~5%の引き上げにとどめるべきだと主張。また、評議会事務局(技術部)は6.5~7%の引上げ率を提案し、三者の意見が対立した。

7月11日の第2回審議では、2026年1月から各地区平均7.2%引き上げる案を採決することになり、委員16人(17人の委員のうち、委員長を除くとみられる)のうち13人が賛成(3人は棄権)し、承認された。委員長のグエン・マイン・クオン内務副大臣(評議会委員長)は「国家発展に向けた経済発展、そして(ベトナム共産)党が掲げる今年の8%、さらに今後数年間の2桁成長という目標に見合った、適切で前向きな引上げ率である」と評価。VGCLのゴ・ズイ・ヒュー副議長(評議会副委員長)は「今回の引上げ案はVGCLの期待に応え、全国の組合員と労働者の願いに合致するもの」との見解を示した。VCCIのホアン・クアン・フォン副会長(評議会副委員長)は「雇用主は、最賃引上げに対応するため、業務内容の見直しを行うとともに、経営能力の向上、適切な業務の割り当て、科学技術の活用など、経営環境の改善に向けて強い決意で取り組む必要がある」と述べ、企業側の対応強化の必要性を訴えた。

各地区の改定内容

各地区の引き上げ率を見ると、最も水準が高い「地域1(ハノイ市やホーチミン市の都市部)」は月額で約7.06%(改訂後の最賃額は531万ドン)、時間額で約7.14%(同2万5,500ドン)アップしている(図表1)。なお、最賃の時間額は、月額を208時間(26日×8時間に相当)で除した値をもとに算出している。

図表1:ベトナムの地域別最低賃金(2026年1月1日発効予定)
地域 改定前(上段:月額、下段:時間額、単位:ドン) 改定後(上段:月額、下段:時間額、単位:ドン) 引き上げ額 引き上げ率
地域1(ハノイ市、ホーチミン市の都市部など) 4,960,000 5,310,000 350,000 7.06%
23,800 25,500 1,700 7.14%
地域1(ハノイ市、ホーチミン市の郊外など) 4,410,000 4,730,000 320,000 7.26%
21,200 22,700 1,500 7.08%
地域3(地方の省の都市部など) 3,860,000 4,140,000 280,000 7.25%
18,600 19,900 1,300 6.99%
地域4(地域1~3に含まれない農村部など) 3,450,000 3,700,000 250,000 7.25%
16,600 17,800 1,200 7.23%
平均 4,170,000 4,470,000 300,000 7.19%
20,050 21,475 1,425 7.11%

出所:法律図書館(THƯ VIỆN PHÁ PLUẬT)ウェブサイト 新しいウィンドウ参照

地方行政の再編と最賃の表示地域レベルの変更

2025年7月1日に、従来の63の地方自治体(57省及び6中央直轄市)を、34の地方自治体(28省及び6中央直轄市)に再編する地方行政改革が行われた(注1)。地方行政機能を効率化するため、従来の①省Tỉnh・中央直轄市Thành phố―②市(中央直轄市以外)Thành phố・県Huyện・郡Quận―③社・坊phườngという三層構造の地方自治体を、①省Tỉnh・中央直轄市Thành phố―②社・坊phường・特区đặc khu、という二層構造に改めている(図表2)。なお、末端レベルの自治体(旧第三層、新第二層)は、地域住民の生活に密接に関わる「コミュニティレベル」といわれる。

図表2:ベトナムの地方自治行政の再編と地域別最賃の表示地域レベルの変更
画像:図表2

注:太枠が地域別最賃の表示地域レベル(旧第一層の省・中央直轄市内が単一の最賃区分の場合、第一層の省・中央直轄市単位で表示)。旧第二層の市は中央直轄市以外。

出所:政府電子新聞(Báo Điện tử Chính phủ)などをもとに筆者作成

これまで、各省・市内のそれぞれの地域が、地域別最賃の4つの区分のうち、どの区分に該当するかという点について、単一の区分しかない省や中央直轄市以外は、中間の第二層(市、県、郡)レベルで示されていた。2026年1月から適用する地域別最賃は、基本的に、再編後の省(中央直轄市)内のコミュニティレベル(社、坊、特区)ごとに表示されている(政令128号=128/2025/NĐ-CP(注2))。

なお、同政令によると、地方自治体再編に伴い、事業所の所在する地域(コミュニティ)の現行最賃が改定前よりも低くなる場合、雇用主は、政府が新たな規定を発令するまで、2025年7月1日より前の区分に基づく最賃の水準を維持しなければならない。

公務員の「基準賃金」

ベトナムには、上述した4区分の地域別最賃とは別に、公務員を対象にした「基準賃金」という全国一律の法定最賃がある。2024年7月1月改定の現行水準は月額234万ドンとなっている(注3)。「基準賃金」は、公務員ではない一般労働者に対しても、その20倍を社会保険料算出基礎月額の上限とするなどの形で影響を与えている。

「基準賃金」もコロナ禍で2020~22年の3年間は、据え置かれた。その後、2023年7月1日に、それまでの月額149万ドンから同180万ドンに引き上げられていた。

参考資料

  • 日本貿易振興機構、ベトナム政府電子新聞(Báo Điện tử Chính phủ)、法律図書館(THƯ VIỆN PHÁ PLUẬT)、ラオドン(BÁO LAO ĐỘNG)、NNA、各ウェブサイト

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