2025年の世界の雇用増加予測を700万件下方修正
 ―ILO雇用・社会見通し2025年5月更新

カテゴリ−:雇用・失業問題労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2025年8月

2025年5月、国際労働機関(ILO)は、「世界の雇用・社会見通し:トレンド2025年5月更新版(World Employment and Social Outlook: May 2025 Update)」を発表した。これにより、2025年の雇用増加予測は、当初見込みの6,000万件から5,300万件へと下方修正された。以下で概要を紹介する。

経済成長の不振により回復が停滞

この下方修正は、国際通貨基金(IMF)が2025年の世界GDP成長率を3.2%から2.8%へ引き下げたことを受けたものである。IMFは、地政学的緊張の継続や貿易の混乱等による世界経済の不確実性の高まりを、この引き下げの要因として挙げている。

これに伴い、ILOは2025年の世界全体の雇用増加予測を当初の1.7%から1.5%へと0.2ポイント下方修正した。これにより、雇用増加数は当初予測から約700万件少なくなる見通しである。ILOは、この成長鈍化が雇用の質の低下につながることを懸念しており、特に安定した雇用機会の減少によって、非正規雇用など不安定な雇用に就く労働者が増加するおそれがあると警告している。

さらに、世界の雇用には、アメリカ経済の動向が大きな影響を及ぼしており、ILOの推計によれば、2023年時点でアメリカの消費需要に直接的または間接的に関連した雇用に就いている労働者は8,400万人に達しており、これらの労働者はアメリカの関税引き上げ政策の影響による雇用喪失リスクを抱えている。

過去10年で雇用は堅調に成長

また、2014年から2024年にかけて、世界の総雇用は13.2%、労働者1人当たりの生産量は17.9%、GDPは33.5%増加した。新型コロナウイルスの落ち込みから完全には回復していないものの、全体的には堅調な成長が続いている(図表1)。

図表1:総雇用、労働者1人あたりの生産量、GDPの推移(2014年を100とした場合)(2014年から2024年)
画像:図表1

出所:ILO(2025)

ただし、ILOは経済成長が新規雇用を創出しても、必ずしも雇用の質が向上するとは限らないと警鐘を鳴らしている。雇用契約が締結され、労働者が定期的に働き、定期的に報酬を得る「フォーマル就業」と、法的枠組みで保護されず、社会的保護を十分に受けられない「インフォーマル就業」は、2014年から2024年までほぼ同じペースで増加した。2018年まではフォーマル就業の伸びがインフォーマル就業を上回っていたが、新型コロナによるパンデミック後は、インフォーマル就業の回復力が強く、2024年はフォーマル就業の伸びを上回った(図表2)。現在、世界の労働者の57.8%、約20億人がインフォーマル就業に従事しており、ILOは経済成長をフォーマル就業の拡大に結びつけることが重要な課題であると指摘している。

図表2:フォーマル就業指数とインフォーマル就業指数の推移(2014年を100とした場合)(2014年~2024年)
画像:図表2

出所:ILO(2025)

一方、労働所得分配率は過去10年間でわずかに低下し、2014年の53.0%から2024年には52.4%となった。労働所得分配率とは、GDPに占める労働者の所得の割合を示す指標である。この低下は、経済成長による利益が労働者に十分に還元されていないことを示している。

仕事の高技能化

ILOは、2013年~2023年の10年間で世界の雇用の職業構成が大きく変化し、高技能職へとシフトしていると指摘する。

ILOは国際標準職業分類(ISCO-08)に基づき、各職業群に求められる技能水準に応じて、世界の雇用を「高技能職」、「中技能職」、「低/中技能職」の3区分に分類している。高技能職には「管理職」、「専門職」、「技師・準専門職」が、中技能職には「事務補助員」、「サービス・販売従事者」、「技能工・関連職業従事者」、「設備及び機械の運転・組立て従事者」が、低/中技能職には「農林漁業従事者」、「単純作業従事者」が含まれる(注1)

2013年時点では、高技能職が18.9%、中技能職が37.8%、低/中技能職が43.2%という構成比であった。これに対して、2023年には、高技能職が20.1%、中技能職が39.7%に上昇し、低/中技能職は40.2%へと低下した。これにより、世界の雇用が全体として高技能化していることが明らかとなった。

男女別にみると、この傾向は特に女性の高技能職への進出によるものであり、高技能職に従事する割合は2013年、2023年のいずれも男性より女性の方が高く、増加率も女性が上回った(図表3)。所得水準別では、高所得国が高技能職へのシフトを牽引している。

図表3:性別・技能別にみる職業構成の比較(2013年・2023年)
画像:図表3

出所:ILO(2025)

労働者の半数以上で職業と教育水準にミスマッチあり

職業構造の変化と並行して、世界の労働者の過半数は、職業に求められる教育水準と自身が保持する教育水準が一致しない「教育不足」または「教育過剰」の状態にある。教育不足は、労働者の教育水準が職業の要件を下回る場合を指し、教育過剰は労働者の教育水準が職業の要件を上回る場合を指す。2023年時点で、職業要件と教育水準が一致している割合は47.7%に過ぎず、教育不足は33.4%、教育過剰は18.9%であった。

ILOは、労働者の身につける技能の質が課題とっていると指摘している。例えば、データサイエンス等の変化が激しい分野では、教育内容が需要に追い付いていないおそれがある。こうした技能の陳腐化を防ぐためには、習得した技能が実際の労働市場で活用できるか、また異なる職業や国でも通用するかといった点を考慮した教育の提供が求められるとしている。

参考資料

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