「社会保険料未納の合意は無効」
 ―最高人民法院が明確化

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  • 国別労働トピック:2025年8月

最高人民法院は8月1日、「労働争議案件の審理における法律適用問題に関する解釈(二)」(注1)(以下、「解釈二」)を公表した。今回の司法解釈は、競業避止義務、福利待遇、社会保険紛争などに焦点を当て、法律適用の基準を統一することを目的としている。特に、社会保険納付の履行義務は大きな関心を集めており、社会的議論も高まっている。本解釈は9月1日より施行される。

社会保険料未納合意の無効認定

「解釈二」第19条第1項は、事業主と労働者が「社会保険料を納付しない」と合意した場合、あるいは労働者が事業主に承諾した場合であっても、人民法院(裁判所)はその合意や承諾を必ず無効と認定すると定めている。最高人民法院民一庭副庭長の呉景麗氏は、事業主が納付を避ける理由として「人件費削減」「現金支給による代替」「労働者側の加入意欲の低さ」などを挙げた。しかし、いずれの場合も合意は無効であると強調している(注2)

実際には、労働者が社会保険料を納付しないことに同意、または承諾する場合がある。一方で、事業主と労働者の力関係に格差があるため、労働者が仕事を得るために事業主の方針に従わざるを得ず、必ずしも本心からの同意ではない場合がある。他方で、一部の労働者は社会保険料の個人負担分や事業主負担分を現金化して当面の利益を得るため、社会保険料を納付しないことに同意したり、事業主に対して納付しないよう求めることもある。

しかし、社会保険料を納めないという合意は、労働者が真に同意していたかどうかにかかわらず、いずれの場合も効力を持たない。この考え方は裁判実務においてすでに定着しており、「解釈(二)」第19条第1項により改めて明確化された。

労働者の権利と補償

同条第2項では、事業主が社会保険料を未納のままにしている場合、労働者は「労働契約法」第38条第3項に基づき契約を解除し、経済補償を請求することができる。最高人民法院民一庭の張艷法官によれば、労働者への経済補償の支払いルールは次の通りである。労働者は勤務1年ごとに1か月分の給与を受け取る権利を有し、勤務期間が6か月未満の場合は半月分の給与が支払われる。

第3項では、事業主が社会保険料を追納した場合、労働者に対して社会保険補償の返還を求めることができると規定されている(注3)。行政機関が企業に社会保険料の追納を命じた際、企業がその費用を一時的に補助する形で労働者に支払っていた場合も、企業は当該金銭の返還を請求できる。

「解釈二」第19条は、労働者保護を強化すると同時に、企業による「不加入合意」を口実とした責任逃れを封じる役割を果たしている。その一方で、社会保険料負担の増大が企業の雇用行動に影響を及ぼしていることも否定できない。

背景にある社会保険料負担の重さ

企業が社会保険料の納付を忌避する背景には、制度上の大きな負担がある。現在、中国の多くの地域では社会保険料率が高く設定されており、企業にとってその負担は極めて大きい。こうした状況が、企業が社会保険料の拠出義務を果たさない要因となっている。

中国における社会保険料の負担割合は地域によって異なるものの、全体的に高い水準にある。例えば、北京市では事業主負担が26.5~28.2%、労働者負担が10.5%で、合計は約37~38.7%に達する。上海市は事業主が25.7~27.4%、労働者が10.5%で合計約36.2~37.9%、江蘇省では事業主が24.7~27.9%、労働者が10.5%で合計約35.2~38.4%となっている。浙江省では事業主が27.5%前後、労働者が10.5%で合計約38%、陝西省は事業主が24%前後、労働者が10.5%で約34.5%とやや低めである。四川省と広東省はいずれも事業主が26.5%前後、労働者が10.5%で合計約37%となっている。

このように、主要都市や省において社会保険料の合計負担率は34〜38%程度に集中しており、その大部分を企業が負担している。その結果、企業にとって社会保険料は大きなコスト要因となり、雇用や賃金政策に強い影響を及ぼしている。

サービス業界を中心に広がる「退職者採用」

最近、中国の雇用現場では、新しい動きが加速している。マクドナルドやユニバーサル・スタジオといった大手企業が相次いで「退職者(定年退職者)」の公開募集を発表し、北京や浙江省など各地で、レストランスタッフや清掃スタッフなど代替性の高い職種を中心に採用が進められている。退職者を雇用する場合、企業には新たな社会保険料の負担が発生しない。退職者はすでに基本的な社会保険に加入し年金を受給しているためである。その結果、企業は社会保険料の追加負担を避けられ、コストを大幅に抑えることができる。

マクドナルドは退職者を対象に積極的に採用を行っている(注4)。応募条件として、女性は50歳以上、男性は60歳以上で退職年齢に達していること、さらに週3日以上勤務できることが必須とされる。同社は待遇面も明確にしており、国家法定休日には3倍の賃金を支給し、土曜日には無料の食事を提供する。社員割引制度の適用や、商業保険(注5)の加入機会も用意し、安心して働ける環境を整えている。マクドナルド中国は取材に対し「法律および政府の指導に従い、正社員には社会保険を納付している。同時に柔軟な雇用形態の一環として退職者再雇用を行っており、彼らには法令に基づいた報酬と商業保険を提供している」とコメントした。

ユニバーサル・スタジオ北京も退職者に向けて具体的な職務を提示している(注6)。主な業務は店舗内サービス全般で、商品の紹介・販売、販売記録や在庫点検、帳簿の照合である。また、開店・閉店作業や清掃などの店舗運営も担当する。応募者は正式な退職証の取得、中学校以上の学歴、シフト勤務への対応力が求められる。勤務時間は1シフト4〜8時間で、時給は30元に設定されている。加えて、長時間の立ち仕事に耐えられる体力も必要となる。

定年退職者を再び労働市場に取り込むことで、企業は社会保険コストを回避できる。この流れは今後も広がると考えられる。しかし一方で、経済の低迷や大卒者の就職難、失業者の増加といった現状を踏まえると、この仕組みが持続的な雇用システムとして定着するかどうかは不透明である。さらに、退職者の再雇用を推進する中で、現役労働者の雇用や社会保障との整合性をいかに図るかも、今後の重要な政策課題となる。

参考文献

  • 中国法律検索システム、中国国務院新聞弁公庁、人民網、新京報、第一財経、聯合早報ほか。

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