障害者雇用促進計画(2025~2027年)と就職の現状
国務院弁公庁は6月30日、「障害者雇用促進三か年行動計画(2025~2027年)」を発表した(注1)。同計画は、政府機関や企業による障害者の雇用・起業支援に加え、障害のある大学生や、農村部の障害者、視覚障害者など特定の対象者への雇用支援の強化を掲げている。さらに、補助金・奨励制度の活用を通じて、障害者の雇用促進を図ることを目的としている。主要な措置は以下の通りである。
障害者雇用促進計画(2025~2027年)の概要
1.政府機関による障害者雇用支援
省・市レベルの行政機関(編制(注2)50人以上)および事業系政府組織(編制67人以上)に対しては、障害者のための採用枠を新たに設け、障害者を少なくとも1人雇用するよう求め、2027年末までの達成を義務づけている。また、採用に際しては、年齢や戸籍に関する条件を緩和し、正常な職務遂行に支障がない限り、身体的条件に関する過剰な要件を課すことはできない。さらに、雇用状況に関する統計の作成と情報公表を義務化した。
2.企業による障害者雇用支援
企業に対しては、各地で障害者を対象にした特別雇用イベントを年1回以上開催するよう求めるとともに、国有企業にはその参加を義務付け、担当者に対して中国身体障害者連合会(注3)主催の雇用主研修への参加を求める。また、企業に対して、障害者に適した採用ポストの開拓を奨励する。さらに、障害者雇用率制度(注4)に基づき、その履行状況を通常の企業報告に盛り込むか、別途、専用の社会的責任報告書を作成し、定期的に公表することが求められる。なお、障害者を積極的に採用する企業に対しては、関係法令に基づき、税制上の優遇措置や金融支援などを着実に実施する。
3.障害者の起業・フレキシブルな働き方への支援
障害者を対象とした起業インキュベーション施設を設置する。「インターネット+就業・起業」モデルを活用し、オンラインプラットフォームを通じて、利用料の減免、販促支援、注文配送の優先配分、無料研修の提供など、就業・起業支援を推進する。また、公設市場や夜市、公設の自動販売機、PUDPステーション(宅配受取所)や朝食店などの便民施設(注5)においても、障害者が出店できる機会を一定数確保し、屋台使用料の減免などの支援措置を講じる。あわせて、起業する障害者に対しては、融資の支援も強化する。
4.補助的業務の雇用機会の促進
「補助的業務の雇用」とは、就職年齢に達しているものの、競争的な労働市場への参入が困難な知的障害者、精神障害者、重度の肢体障害者を対象とした雇用形態である。就職意欲を前提に、労働時間・業務負荷・賃金水準・労働契約の締結においては、一般の労働者と比べて柔軟な運用を認め、集中的に生産労働の機会を提供する。障害者が参加できる生産・運営プロジェクトを各地で整備し、補助的雇用機関の設立や、社会福祉法人による運営支援も進める。さらに、オンラインとオフラインの両方を活用し、公共イベントや観光施設、ECサイトを通じて、補助的雇用機関が生産した製品を対象としたチャリティー販売を定期的に実施する。
5.特定対象者(障害のある大学生、農村部の障害者、視覚障害者)への就職支援
障害のある大学生には個人ごとに就職支援台帳を整備し、公共職業紹介機関や障害者支援機関による個別指導を実施する。事業系政府組織などの行政機関や企業は障害のある大学卒業生を採用活動での優先対象とし、オンラインとオフラインの就職サービスや就職支援イベントを実施する。農村部の障害者に対しては、農村に暮らす障害者家庭への定期訪問を行い、農村の困難な状況にある障害者を対象とした実用技術研修事業を継続的に実施する。農村EC・ライブ配信・農村レジャー観光業など新たな雇用形態を支援し、宅配や物流などの就職を後押しする。障害者を雇用する地元の雇用拠点に対しては、金融や政策面での支援を強化する。また、視覚障害者には、マッサージ医院の建設や資格取得支援、視覚障害者マッサージ機構の多店舗展開・ブランド化の促進など、視覚障害者の専門的職業に関する支援を盛り込む。
6.障害者の就業支援サービスの向上
障害者に対しては、少なくとも1回の就職支援を行う。さらに、過去3年間にわたり障害者の雇用義務を果たしていない企業には、雇用主研修を実施する。障害者の雇用に潜在的な可能性を持つ企業に対しても、定期的な訪問を通じて雇用拡大を働きかける。あわせて、各地域においては就業指導員の養成や、障害者職業能力評価制度の整備も進める。
7.職業能力向上の支援
障害者の職業教育を強化するため、特別支援学校における職業教育部(クラス)の新設を促進するとともに、一般の中等職業学校における特別支援部門(クラス)の設置を支援する。市場ニーズに応じた障害者向け職業訓練を推進し、対象者には補助金を支給する。あわせて、訓練拠点の整備も強化する。さらに、障害者の技能競技大会の開催や、非遺産技能に関わる継承支援(注6)など、多様な職業能力向上策を展開する。
8.障害者に対する就職権の保護
障害者の就職権(就職する権利)を侵害する行為に対しては、監督体制を強化する。また、企業が報告する障害者雇用数については、審査をより厳格に行う。企業は障害者の採用に際して戸籍等の追加的な制限や条件を設けてはならない。あわせて、障害者雇用保障金制度の適正な運用を徹底する。さらに、人材紹介会社および労働派遣会社に対しては、信用管理および品質評価制度を導入し、監督体制を強化する。最低生活保障を受けている障害者は、再失業後に条件を満たす場合、最低生活保障への再加入を可能とする。就職が困難な障害者はすべてを雇用支援の対象とし、関係機関が重点的な支援を行うものとする。
身体障害者の就職・職業訓練・社会保障の現状
障害者の就職権を法的に保障するため、中国政府は1990年に「障害者保障法」を制定し、2007年には「障害者就業条例」を公布した。これを機に、障害者の就職に関わる諸課題に対応するための一連の法律や制度を段階的に整備してきた。
2024年には、人力資源社会保障部および中国障害者連合会が「障害者就職促進に関する就職サービス強化のための通知」を発表し、障害者の法定雇用義務の履行徹底と就職サービスの充実を通じて、障害者の就職機会の拡大と権利保護の促進に努めている。同年、国家発展改革委員会などの関係部門も「雇用機会の拡大・技能向上・環境整備を通じて障害者の就職支援を積極的に推進する通知」を発出し、障害者の就職機会の拡大や技能向上、職場環境の改善を図ることで社会参加を促進し、包括的な支援体制の強化を図っている。
中国身体障害者連合会が発表した「2024年障害者事業発展統計公報(注7)」(2025年5月6日)によると、2024年末時点で全国の都市・農村部における資格保有障害者の就職者数は914.4万人に達した。新規就職者数は51.2万人で、都市部で14万人、農村部で37.2万人が新たに就職した。
農村部の困難な状況にある障害者には、26.6万人に実用的な技術職業訓練を提供した。全国2,941か所の障害者就職支援基地では、3.9万人の就職を支援している。また、視覚障害者を対象としたマッサージ従事者の育成も進められ、保健マッサージでは14,585人、医療マッサージでは10,286人が訓練を受けた。さらに、保健マッサージ機関は22,771か所、医療マッサージ機関は1,259か所に達しており、初級職務資格取得者は1,279人、中級資格取得者は237人となっている。
社会保障の面では、2024年末時点で2,748.9万人の障害者が基本年金保険に加入し、1,246.1万人が年金を受給している。60歳未満の被保険者のうち、重度障害者は703.8万人、非重度障害者は277.2万人が保険料の補助を受けている。
注
- 中国政府サイト(2025年06月25日)
国务院办公厅关于印发《促进残疾人就业三年行动方案(2025—2027年)》的通知(本文へ)
- 「編制」とは、日本の公的機関の定員に相当し、中国において政府機関、事業系政府組織、公立学校などの公的機関が正式に設ける職員枠、またはポジションを指す。この編制に含まれる職員を「公的に認められた人員」として位置づけており、その対象となった者は、安定した雇用や待遇を保障される。(本文へ)
- 中国語(英語)の名称は、「中国残疾人聯合会(China Disabled Persons Federation)」である。(本文へ)
- 『障害者就業条例』(2007年 中国語:「残疾人就業条例」)第8条に基づき、使用者は一定の割合で障害者を雇用し、適切な職種や業務を提供しなければならないと定められている。障害者の雇用割合は、当該事業所の常用労働者総数の1.5%を下回ってはならず、具体的な割合については、各省・自治区・直轄市の人民政府が、地域の実情に応じて定めるものとする。(本文へ)
- 「便民施設」とは、住民の生活を便利にするために政府や地域が設置・整備するサービス施設のこと。(本文へ)
- 「非遺産技能」とは、形のない伝統文化のことで、例えば、地域の食文化や年中行事(民俗芸能)などを指し、障害者が地域に根ざした技能を学び、仕事や社会参加につなげることを目的としている。(本文へ)
- 中国残疾人聯合会(2025-05-08) “2024年残疾人事业发展统计公报
”(本文へ)
参考文献
- 中国政府網、中国残疾人聯合会
2025年7月 中国の記事一覧
- 障害者雇用促進計画(2025~2027年)と就職の現状
- 休息・休暇をめぐる争議の増加と働き方改革、残された課題
関連情報
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