最低賃金制度改善研究会、最低賃金委員会の規模縮小、専門委員会の機能強化を提案

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最低賃金制度改善研究会は5月、最低賃金委員会の委員構成を改編するための提案書を発表した。最低賃金の決定プロセスは1988年に最低賃金制度が導入されて以来、一度も変更されておらず、今回の改編案が実現すれば初の見直しとなる。以下に概要を紹介する。

専門家が最低賃金決定体系の改善策について議論

韓国の最低賃金は、最低賃金委員会の審議・議決に基づき雇用労働部長官が決定する。委員会は、労働者委員、使用者委員、公益委員がそれぞれ9人ずつ、計27人の委員で構成されている。毎年8月5日に翌年度の最低賃金額が告示され、1月1日から12月31日まで、全業種・全地域で一律に適用される。この最低賃金決定過程は、1988年の最低賃金制度導入以来、一度も改定されていない(注1)図表1)。

最低賃金委員会の本会議(27人全員が参加して審議する会議)では、ほぼ毎年、労使間の交渉が決裂し、実質的に公益委員によって最低賃金額が決定される状況が続いている。1988年以降、労使の交渉によって最低賃金額が決定したのは、わずか7回にとどまっている。このため、政府は最低賃金制度の根本的な改編が必要と判断した。

雇用労働部は2024年11月に「最低賃金制度改善研究会」(以下「研究会」)を発足させた。同研究会は、制度の改編に向けて最低賃金制の機能や構造について議論することを目的としており、最低賃金委員会の前・現職の公益委員を務めた専門家9人で構成されている。同研究会は2025年5月、審議結果をまとめた提案書を雇用労働部に提出した。以下で主な内容を紹介する。

図表1:最低賃金決定プロセス
画像:図表1
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出所:労働政策研究・研修機構「資料シリーズNo.239コロナ禍における諸外国の最低賃金引き上げ状況に関する調査―イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、韓国―

委員会規模を27名→15名に縮小

研究会は、近年の最低賃金委員会での審議がまとまらない主な原因は委員会の人数の多さにあると指摘し、最低賃金委員会の規模縮小を提言している。現在の韓国の最低賃金委員会は計27人で構成されており、この人数は、委員会方式で最低賃金を決定する諸外国の中でも特に多い(図表2)。

図表2:諸外国の最低賃金委員会の人数 (単位:人)
画像:図表2

出所:最低賃金制度改善研究会による提案書をもとに作成

提案書では委員構成の改編案として、①専門家中心方式、②労使公規模縮小方式、の2案を提示している(図表3)。案①は、計15人の専門家のみで委員会を構成する案で、委員は労働者側、使用者側、政府がそれぞれ推薦した候補者の中から三者の協議によって選定される。案②は、労使公の構成比率は維持しつつ、人数を各5人、計15人に縮小する案である。なお、両案は同等の選択肢として提示されており、優先順位は設けられていない。

図表3:最低賃金委員、専門委員人数構成改編案
  現行 案① 専門家中心方式 案② 労使公方式
最低賃金委員会 労使公各9人 公益専門家15人 労使公各5人
計27人 計15人 計15人
専門委員会 2つの専門委員会
(生計費/賃金水準)
2つの専門委員会
(賃金水準/制度改善)
同左
生計費:労使公各4人
(計12人)
賃金水準:労使公各5人
(計15人)
労使公各3人
(計9人)
労使公各2人
(計6人)

出所:最低賃金制度改善研究会による提案書をもとに作成

研究会はあわせて、最低賃金委員会の傘下組織である「専門委員会」の機能拡大を提案した。専門委員会とは、最低賃金委員の一部で構成され、本会議での審議に先立って関連事項の分析・審議を行う組織である。現在は「生計費専門委員会」と「賃金水準専門委員会」の2つが設置されている。構成人数は、生計費専門委員会が労使公各4人の計12人、賃金水準専門委員会が各5人の計15人である。

研究会は、現行の区分を見直し、「賃金水準専門委員会」と「制度改善専門委員会」の2つを設置することを提案している。賃金水準専門委員会では、本会議にかける前に労使の最低賃金額要求案を最大限調整する。制度改善専門委員会では、業種別適用の可否や、プラットフォーム従事者などの特殊形態従事者への最低賃金適用といった制度的課題を議論する。構成人数は、案①は労使公各3人、計9人、案②は各2人計6人としている。これにより、専門委員会の役割を現行の基礎資料の審議を行う補助的機能から、本会議の課題を事前に議論・整理する中核的機能へと転換するねらいがある。

加えて、委員の選定方法についても見直しが必要と指摘している。現行制度では、労働側委員は労働組合、使用者側委員は使用者団体によって推薦された者が委員に就任する(注2)。ただし推薦団体は、労働者側が全国組織の労働組合、使用者側は全国規模の使用者団体に限られている。研究会は、このような選定方法では、委員が推薦団体の立場を優先するため、実際に最低賃金の影響を大きく受ける高齢・若年労働者や中小事業に勤務する者の実情が反映されにくく、今後は委員構成の多様化が必要であると提言している。

業種別区分適用は実現可能

研究会は、最低賃金の業種別適用の可能性にも言及している。最低賃金法では、特定の業種ごとに異なる最低賃金を設定することが認められている。業種別適用は、最低賃金制度導入初年度の1988年に一度のみ実施された。当時は企業の支払能力を踏まえ、製造業の一部業種に限り異なる額が適用された。それ以降は、全業種一律の最低賃金が適用されている。しかし、2018年及び2019年に大幅な賃金引き上げが実施されて以降、中小企業などは支払能力の限界を訴え、業種別適用を主張するようになり、毎年最低賃金委員会において主要な争点の一つとなっている。

研究会は、業種ごとに異なる最低賃金を適用することは可能との見解を示している。具体的には、特定の業種が労使間の合意のもとに最低賃金額を定めた場合、それを最低賃金委員会が審査・承認する方式を提案している。その際、対象となる業種や労働者の範囲、異なる額とする根拠を明確にすることが求められる。

請負労働者、プラットフォーム労働者への適用には否定的

昨年の最低賃金委員会において、労働者側委員は請負制労働者を最低賃金の適用対象とすべきである主張した。現在、請負労働者やプラットフォーム労働者、特殊雇用形態従事者(注3)は最低賃金適用外とされている。この主張の根拠は、最低賃金法及び施行令に、請負制などで労働時間の把握が難しい場合には、生産量や成果に基づいて最低賃金を別途定めると規定されている点にある。

一方で研究会は、これらの労働者への適用拡大は困難との見方を示した。現在の最低賃金制度では、適用対象は勤労基準法上の「労働者」に限られており、請負労働者らはこれに含まれないためである。ただし、請負労働者の「労働者性」が認められた場合には、最低賃金委員会で審議することは可能であると述べている。

最賃額算出基準の見直し

現行制度では、最低賃金委員会が、労働者の生計費、労働生産性、所得分配率などの指標を総合的に判断して決定している。これに対して、労働者側は世帯生計費、使用者側は企業の支払能力を追加するよう求めてきたが、いずれも実現していない(注4)

研究会は、新たに経済成長率や物価上昇率などの指標を追加することを提案している。これらの生活に関連した指標を追加することで、社会的合意の得られやすい最低賃金額の設定が可能になるとの考えによる。なお、労使が要求する世帯生計費及び企業の支払能力については、専門委員会で検討する必要があるとしている。

雇用労働部はこの提案書を元にさらなる制度改編案を作成する方針である。ただし、実際の適用には法改正が必要となるため、時間を要する見通しであり、今年度の最低賃金は現行制度に基づいて決定される予定である。

来年度に向けた論点は、業種別適用と適用対象拡大

2025年5月末時点で、最低賃金委員会本会議は第3回まで開催されている。今年度の最低賃金委員会では、労働者側が求める最低賃金適用対象の拡大と、使用者側が求める業種別適用の可否が主な争点となっている。

労働者側は、請負労働者を対象とした最低賃金に関連する実態調査の結果を提出した。この調査によれば、配達ライダーと運転代行の報酬は、時給換算でそれぞれ平均7,864ウォン及び6,979ウォンとなり、2025年の最低賃金額(10,300ウォン)を下回っていた。

一方、使用者側は業種別適用の必要性を主張している。使用者委員は、アメリカの関税危機で事業主が打撃を受ける懸念を示し、小規模自営業者らが遵守可能な最低賃金とすべきであると主張した。特に食品・宿泊業等の業種は脆弱であるとして、より低い最低賃金額の適用を求めている。

第2回本会議では、労働者委員が制度改善研究会について「公益委員の越権行為が行き過ぎている」と批判する場面もみられた。

最低賃金は雇用労働部長官の依頼から90日以内に審議することと定められており、2025年の期限は6月28日である(注5)

参考資料

参考レート

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