雇用労働部、最低賃金決定制度の改編案を発表

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  • 国別労働トピック:2019年6月

雇用労働部は2019年2月27日、最低賃金決定制度に関し、①最低賃金決定過程を区間設定委員会と決定委員会に二元化すること、②労働者の生活保障と雇用・経済状況をバランス良く配慮するため最低賃金決定基準を追加・補完すること――を主な内容とする最低賃金決定制度の改編案を発表した。しかし、改編案を反映した最低賃金法改正案が3月臨時国会で成立しなかったため、2020年1月1日から適用される最低賃金は従来どおりの方式に基づいて決定される。

最低賃金決定制度の見直しに関する議論

韓国の最低賃金は全国一律で適用される。最低賃金は、雇用労働部長官の要請に基づき最低賃金委員会(公労使各9名の委員で構成)が最低賃金案を審議・議決し、雇用労働部長官が毎年8月5日までに最低賃金を決定・告示する(翌年1月1日から適用)。

文在寅政権発足後の大幅な最低賃金の引き上げ(2018年16.4%、2019年10.9%)に伴い、最低賃金決定をめぐる労使間の意見対立が深刻化してきた。このため、韓国政府は最低賃金決定制度をより合理的で公平で社会的に受け入れ可能な制度に改善するため、制度の見直しに向けた手続きを進めてきた。雇用労働部は2019年1月7日、最低賃金決定体系改編試案(表1)を発表し、その後、国民の意見を集約するため、専門家による討論会及び専門家のほか、若者、女性、中高年等の各界代表、マスコミが参加する国民討論会などを開催した。また、2019年1月21日から2月8日までオンラインによるアンケート調査を実施し、9,539人から回答を得た。

最低賃金決定過程を二元化

雇用労働部は2019年2月27日、最低賃金決定体系改編試案に関する国民からの意見集約、関係政府機関や政党との協議を経て、最低賃金決定体系の改編案を発表した(表2)。改編案では、最低賃金の決定過程を「区間設定委員会」と「決定委員会」の2段階に分けることとした。

最低賃金の範囲を設定する「区間設定委員会」は9名の専門委員で構成される。政労使が各5名、計15名の候補者を推薦した後、労使が順次各3名を排除する方式を通じて委員を選定する。区間設定委員会は、新たに追加・補完された決定基準に基づき、統計分析、現場モニタリング(通年)等を実施し、客観的かつ合理的に最低賃金引き上げの審議区間(上限と下限)を設定する。

最低賃金を決定する「決定委員会」は、労働者、使用者、公益それぞれの代表各7名、計21名の委員で構成される。公益委員には国会が4名、政府が3名をそれぞれ推薦する。現行は政府単独推薦だが、公益委員の多様性を確保するため、推薦権を国会と共有する方式に変更した。労使委員の選定に関しては、若者、女性、非正規労働者、中小企業、中堅企業及び小商工業者代表を必ず含むよう明文化される。

表1:最賃賃金決定体系改編試案と改編案の比較
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出所:雇用労働部2019年2月28日付報道資料

表2:最低賃金決定体系改編案
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出所:雇用労働部2019年2月28日付報道資料

最低賃金決定基準の追加・補完

現行の最低賃金決定基準は、労働者の生計費、類似労働者の賃金、労働生産性及び所得分配率である。

改編案では、労働者の生活と経済状況をよりバランス良く考慮するよう義務づけるILO最低賃金決定条約(第131号)等を参考にして、現行決定基準に賃金水準、社会保障給付状況等、雇用に及ぼす影響、経済成長率を含む経済状況等の項目を追加・補完した。

雇用労働部の試案では、決定基準に「雇用水準」と「企業の支払能力」が含まれていた。企業の支払能力に関しては、アンケート調査で異論が寄せられ、専門家からも客観性や具体性が足りず再検討が必要との意見が提起されたため、基準には含めず、雇用への影響や経済状況等に関する指標で補完することとした。また、「雇用の水準」を「雇用に及ぼす影響」に変更した背景には、雇用の量だけでなく雇用の質的な側面を含む多様で全般的な影響を考慮して最低賃金が決定されるよう包括的に修正する意図があったという。決定委員会は、区間設定委員会が設定した審議区間内で議論し、最低賃金案を議決する。

最低賃金決定制度改編案の評価

雇用労働部は、最低賃金決定体系の改編により、過去に繰り返されてきた労使による消耗論争を相当程度減少させ、最低賃金を決定しているのは政府であるとの根拠のない批判が解消されると主張する。最低賃金決定の合理性と客観性が高まることによって公労使合意が促進され、最低賃金に対する社会的受容性が高まることを期待している。

韓国経営者総協会は改編案に関し、「経済界は、政府の提案について、労使間の対立により客観性と公平性を欠いていると批判される現行の最低賃金決定制度を改善する有意義な方策であると評価する。しかし、企業の支払能力が最低賃金決定基準から除外されたこと、委員会の公益委員の推薦に労使団体の意見が反映されないことは遺憾である」との見解を示した。

全国民主労働組合総連盟(民主労総)は、「労働者の直接参加を排除した区間設定委員会を通じて最低賃金引き上げ水準をあらかじめ制限することにより、労使当事者が直接参加する決定委員会を無力化させるものである。最低賃金法の目的は、低賃金労働者も社会参加できるよう賃金の最低水準を保証するものであり、最低賃金決定基準として「雇用の及ぼす影響」を前提にすることは最低賃金法の趣旨に反する」と批判した。

参考資料

  • 雇用労働部報道資料(2019年2月27日付)
  • 雇用労働部ウェブサイト
  • 韓国経営者総協会ウェブサイト
  • 全国民主労働組合総連盟ウェブサイト
  • ハンギョレ新聞電子版(2019年5月23日付)

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