半導体研究開発職における特別延長労働認可制度、認可期間を6か月に延長
雇用労働部は3月、半導体産業の研究開発職に限り、特別延長労働認可制度の認可期間を従来の最長3か月から6か月に延長する、「半導体研究開発特別延長労働認可制度補完策」を発表した。以下で主な内容を紹介する。
認可手続きが複雑で利用は低迷
「特別延長労働認可制度」とは、特別な事由によって法定延長労働時間を超過する場合に、労働者の合意及び雇用労働部の認可を受ければ、さらに週12時間の延長労働を可能とする制度である。韓国の週労働時間の上限は、法定労働時間40時間に法定延長労働時間12時間を加えた週52時間であるが、この制度を利用すれば最大で週64時間の勤務が可能となる(法定労働時間40時間+法定延長労働時間12時間+特別延長労働12時間)。
特別な事由には、災害・事故や人命保護、急な設備の故障等の突発的な事態、通常時と比べて業務量が大幅に増加した場合等が含まれる。これらに加えて、半導体を含む一部業種において国家競争力の強化および国民経済の発展のために必要と認められる場合には、素材・部品・装備の研究開発等を行う場合も利用が可能となる(注1)。
認可期間は事由によって異なるが、研究開発職の場合は最長3か月であり、3か月を超える場合は3回まで延長が可能である(図表1)。延長には再審査が行われ、①延長の必要性、②延長期間及び労働時間の適正性、③対象労働者の適正性、④労働者の健康保護措置、のすべてを満たす場合に認可される。
施行規則 | 事由 | 最長認可期間 | 年間延長可能期間(事業所単位) |
第1号 | 災害等 | 4週間 | 事由の解消に必要な期間 |
第2号 | 人命保護等 | ||
第3号 | 突発的事態 | 90日 (海外建設業派遣労働者は180日) |
|
第4号 | 業務量の急増 | ||
第5号 | 研究開発 | 3か月 | 3回まで延長可(最長12か月) |
出所:雇用労働部「特別延長勤労説明資料」をもとに作成
この制度では、対象となる労働者に、次の措置のうちいずれか一つ以上の健康保護措置を講じることが義務づけられている。①特別延長労働時間を週8時間以下とすること、②勤務日終了後次の勤務開始時までに連続して11時間以上の休息を付与すること、③制度実施期間中または終了後に期間に応じて相当する休暇を付与すること、である(注2)。また、労働者は申出により健康診断を受けることができ、事業主はその旨を労働者に通知する義務がある。
申請手続きは、事業主が所定の様式に必要事項(業種、期間、対象労働者数等)を記載し、労働者の同意書とともに管轄の地方雇用労働庁に提出した後、内容が適切であれば雇用労働庁が認可するという流れである。処理にかかる期間は書類受付から3日間以内で、電子申請も可能である。申請の時期は、制度実施期間が2週間に満たない場合のみ、実施後1週間以内の申請が認められているが、2週間を超える場合は必ず事前に認可を受けなければならない。
制度実施期間中の賃金については、勤労基準法に従い、時間外手当、夜間手当、休日出勤手当が基本給に加算して支給される。また、休憩・休日についても同法の規定が適用される。
なお、半導体研究開発職における本制度の申請件数は、2024年にはわずか32件と非常に低調であった(注3)。政府はその理由として、厳しい認可条件や認可期間の短さ等を挙げている。
認可期間を3か月→6か月に延長
政府は3月12日に開催された大統領権限代行主催の長官会議において、関係部署合同で「半導体研究開発特別延長労働認可制度補完策」を発表した。これを受けて、雇用労働部は同補完策を反映した「半導体研究開発特別延長労働認可制度業務処理指針」を3月14日より施行した。本指針は、国際競争への対応を目的として、半導体研究開発職に限定した特例制度を新設し、その活用促進を図るものである。主な内容は次のとおり。
まず、認可期間を最長3か月から6か月に延長する。あわせて延長時の認可期間も最長3か月から6か月に延長する。ただし、特例を利用する場合は、特別延長労働の上限が通常の制度とは異なる。通常であれば期間中は週64時間勤務(うち特別延長労働12時間)が許可されるが、特例を利用する場合には、はじめの3か月は週64時間まで、その後は週60時間(うち特別延長労働8時間)までとしなければならない。通常制度と特例のどちらを適用するかは企業が選択することができる。例えば、「6か月+6か月」や、「6か月+3か月+3か月」といった柔軟な組み合わせでの利用も可能である(図表2)。
さらに、特例利用時には実施期間中の従業員に対する健康診断実施を事業主に義務づける。事業主は、健康診断結果に所見があった場合はそれに応じて特別延長労働の中断や休暇の付与等、適切な措置を講じなければならない。
また、制度運営期間を延長する場合に行う再審査について、再審査時に必要とされる事項については通常制度と同様に徹底的に確認しつつも、それ以外の項目については簡素化する方針である。
雇用労働部はオンライン違法申告センターを設置し、労働者の権益保護及び違反事業主の是正に努める。
図表2:特別延長勤労認可制度利用例(通常制度及び特例制度)
出所:「半導体研究開発特別延長勤労認可制度補完策」をもとに作成
サムスン電子は4月上旬に一部の半導体研究開発職労働者に対して6か月の特別延長労働を申請し、初の特例利用事例となった。
週52時間制適用除外を巡り与野党は対立
この特例は、「半導体産業競争力強化及び革新成長のための特別法(以下「半導体特別法」)」の制定を巡り国会で議論が続いていることを受け、当面の措置として導入された。
半導体特別法は、与党「国民の力」が2024年11月に発議した法案であり、半導体企業の国際競争力を高めることを目的とした補助金の支給や人材育成・インフラ支援策等の内容が盛り込まれている。主な論点は第34条であり、この条文では、半導体研究開発職のうち所得や業務方法等で一定の条件を満たす労働者については、当事者間の合意があれば労働時間、休憩・休日の付与、時間外・夜間・休日勤務について他の基準を適用することができ、他の基準については別途大統領令で定めるとされている。この条文が成立すれば、半導体研究開発職に勤労基準法を適用せず、週52時間制から除外して扱うことが可能となる。
与党は、諸外国がホワイトカラー・エグゼンプション等の柔軟な労働時間規制によって、長時間労働により技術開発を行っている一方で、韓国では週52時間の労働時間制限を守っており、国際競争力を高めるために週52時間の適用除外が必要であると訴えている(注4)。
一方、最大野党である「共に民主党」は、既存の制度で十分に勤務時間の柔軟化が可能とする立場であり、第34条は除外して半導体特別法を成立させるよう主張している(注5)。
労働者側も法案に反対している。韓国二大労組の韓国労働組合総連盟(韓国労総)及び全国民主労働組合総連盟(民主労総)はいずれも、労働者の安全を脅かすとして半導体特別法議論の中断を求めている。全国サムスン電子労働組合が研究開発職の組合員を対象に実施したアンケートでは、904名のうち9割にあたる814名の労働者が週52時間制の適用除外に反対した。
法案の成立を巡っては現在も審議が続いており、6月3日が投票日である大統領選挙の争点の一つとなっている。5月18日に行われた大統領選挙候補者討論会でも意見が分かれ、国民の力のキム・ムンス候補は、「(週52時間制の適用除外を認めずに)半導体産業を支援するということは矛盾ではないか」と発言した。共に民主党のイ・ジェミョン候補は、「既存の制度よりも劣った制度であり必要ない」と発言した。
注
- 最低限に限り研究支援、一部生産人材も含む。通常の維持・生産業務従事者は含まない。(本文へ)
- 制度実施期間が1週間未満だった場合は終了直後に期間と同時間の連続休暇を付与。1週間以上であった場合は、1週間につき24時間以上の連続休暇を保障すると定められている。(本文へ)
- 半導体企業の特別延長勤労認可制度の利用回数は、サムスン電子は2021年から4年間で計39回、SKハイニックスは利用実績なし。
時事IN「半導体「週52時間除外」論争点をみて」(2025年2月25日)(本文へ)
- ホワイトカラー・エグゼンプションとは、特定のホワイトカラー労働者を労働時間規制から除外する制度で、日本における高度プロフェッショナル制度に相当する。(本文へ)
- 韓国における既存の柔軟な労働時間制度については以下を参照。
JILPT海外労働情報(2019年5月)「弾力的労働時間制の単位期間を最長6カ月に延長する労使合意が成立」
JILPT海外労働情報(2019年6月)「柔軟な労働時間制度に関する実態調査 ―韓国労働研究院レポート」 (本文へ)
参考資料
- 雇用労働部「半導体研究開発特別延長勤労認可制度業務処理指針('25.3.14.)
」(2025年3月14日)
- 大韓民国政策ブリーフィング「半導体研究開発特別延長労働認可期間を最大6か月に拡大
」(2025年3月12日付)
- 雇用労働部政策資料室「特別延長勤労説明資料
」(2022年9月30日付)
- 全国サムスン電子労働組合報道資料「半導体労働者たちは消耗品ではない!労働時間法例外適用に反対!
」(2025年2月3日付)
- BBC Korea「大統領選挙候補初のTV討論会「差別禁止法・黄色い封筒法」を巡って舌戦
」(2025年5月19日付) ほか
2025年6月 韓国の記事一覧
- 半導体研究開発職における特別延長労働認可制度、認可期間を6か月に延長
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