柔軟な定年退職制度を本格的導入
 ―弁法が1月1日に施行

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2025年5月

2024年9月13日、中国政府は「法定退職年齢の段階的な延期に関する決定」を発表し、法定退職年齢延期方針を正式に法的文書として公表した。さらに、同年12月31日には、人力資源社会保障部、中央組織部、財政部が共同で「柔軟な退職制度実施に関する暫定弁法(注1)」[以下「弁法」]を発表し、2025年1月1日に施行した。退職年齢延期方針を具体化し、自主性と柔軟性という原則を前提に、早期退職と退職延期を希望する労働者が、柔軟かつ自主的に選べる仕組みとなっている。また、企業の負うべき義務なども規定している。ただし、2024年12月31日以前に法定退職年齢に達した者には、弁法は適用されない。

早期退職と退職延期の柔軟な選択肢

定年退職年齢は、国家規定に基づいてすでに引き上げが決定されており、今後15年をかけて段階的に実施される予定である。具体的には、男性は60歳から63歳へ、女性は一般労働者が50歳から55歳に、管理職が55歳から58歳に変更される。労働者がこの新たな法定退職年齢に達した場合、特別な手続きを行わなければ、延期後の退職年齢に基づいて自動的に退職手続きが進められることになる。

「弁法」に基づき、実際の退職年齢に関する規定が設けられており、労働者は自己の意思および企業側の意向に基づき、新たに定められた法定退職年齢を基準に、早期退職または退職時期の延期を選択することが可能である。ただし、以下の通り一定の制限も設けられている。

  1. 柔軟な退職時期については、早期退職も延期退職も同様に最大で3年以内とされている。(弁法第1、4条)
  2. 早期退職を選択した労働者は、選択した退職時期に該当する年の最低納付年数(現行は15年)(注2)(2030年1月1日から、最低納付年数が15年から段階的に20年に引き上げられ、毎年6カ月ずつ延期される予定である。)を達成しなければならない。退職延期を選択した労働者は、本人の法定退職年齢に該当する年の最低納付年数を達成しなければならない。(弁法第7条)
  3. 従来の退職年齢規定よりも早く退職することは認められない。従来の法定退職年齢は、女性労働者が50歳、または女性管理職の場合は55歳、男性労働者が60歳である。早期退職を希望する場合であっても、実際の退職年齢はこの従来の法定退職年齢を下回ってはならない(弁法第1条)。
  4. 書面申請について、早期退職を選択する場合、労働者が独自に決定でき、自主的な選択となる。ただし、希望する退職時期の少なくとも3カ月前までに、書面で所属企業に通知しなければならない。(弁法第2条)一方で、退職延期を希望する場合、労働者は所属企業と合意し、1カ月前までに書面で契約を締結しなければならない。一度決定した延期時期は再延期できない。また、企業が同意しない場合、退職の延期は認められない。(弁法第4条)

柔軟な定年退職制度における企業の義務

柔軟な定年退職制度では、企業側の責任も明確に規定されている。労働者が法定退職年齢に達した場合、企業は速やかに退職手続きを行う義務がある(弁法第3条)。また、退職時には、労働者が選択した退職時期の月内に遅れることなく、社会保険機関に対して基本年金の受給申請を行わなければならない(弁法第8条)。この手続きは、労働者が退職後に適切に年金を受け取るために不可欠である。

労働者が退職の延期を選択した場合、企業はその延期期間中も労働契約関係を継続し、社会保険料を期限内に全額納付する責任を負うとともに、労働者の正当な権利を保障しなければならない (弁法第5条) 。また、企業と労働者の双方が合意すれば、延期期間中であっても退職することができ、その場合、企業は規定に従って退職手続きを行う必要がある。さらに、労働者があらかじめ定めた退職延期の期限に達した場合には、その時点で労働関係は終了し、企業は速やかに退職手続きを進めなければならない (弁法第6条) 。

加えて、基本年金の受給については、社会保険事業機関が速やかに申請の審査を行う義務を負う。弁法第9条では、社会保険事業機関が受給申請を適切に審査し、労働者が退職した翌月から基本年金を受給できるよう定めている。

なお、すでに基本年金を受給している者については、柔軟な退職制度の適用対象外となり、退職の延期申請は受理されない(弁法第10条)。

議論の的となる公務員等の退職延期

公務員や国有企業・事業系政府組織の指導者、その他の管理職の特殊性については、弁法第4条において、法定退職年齢に達した場合には速やかに退職手続きを行うことが義務付けられている。しかし、この条文については、「退職の延期が一切認められないのかどうか」について曖昧で、さまざまな議論を呼んでいる。

現在、公務員や国有企業・事業系政府組織の管理職は、一定の条件を満たせば柔軟な早期退職が可能となっている。たとえば、公務員は所定の勤務年数などの要件を満たし、申請と承認を得れば、法定年齢前に退職することができる。国有企業の幹部や部門責任者、会計担当者なども同様で、柔軟な早期退職の制度が認められている。

その一方で、弁法第4条では、原則として退職の延期は認められないこととされている。とはいえ、法解釈や運用の次第によっては、一定の手続きと承認を経れば、公務員や国有企業の幹部が退職を延期する余地も存在する可能性がある(注3)

◎本稿で紹介した「柔軟な退職制度実施に関する暫定弁法(弁法)」の和訳資料(仮)を参考として掲載する。

参考文献

  • 中国人民政府網、人的資源と社会保障部、JILPT

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