中国政府、法定退職年齢の引き上げを決定
 ―70年ぶりの見直し

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2024年9月

中国政府は9月13日、急速に進む少子高齢化に対応するとともに、生産年齢人口の減少傾向やひっ迫する年金財政を緩和し、経済や社会の発展を維持するために、法定退職年齢(定年)を男女同時に引き上げることを発表した。15年間かけて段階的に、男性は60歳から63歳に、女性は一般労働者が50歳から55歳に、管理職が55歳から58歳にそれぞれ引き上げる。施行は2025年1月からとしている。1950年代に定められて以来、70年ぶりの見直しとなる。

「慎重な引き上げ」の原則

今回の決定は、日本の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)の常務委員会で9月13日に「法定退職年齢の段階的な延長に関する決定」(注1)を可決したことによる。この「決定」には、本文と「国務院による法定退職年齢の段階的延長に関する弁法」(以下:「弁法」)、および4つの附属文書が含まれている。

4つの附属文書は「男性従業員の法定退職年齢延長に関する対照表」、「従来の法定退職年齢が55歳の女性管理職従業員に対する退職年齢延長の対照表」、「従来の法定退職年齢が50歳の女性従業員に対する退職年齢延長の対照表」、「(年金保険料の)最低納付期間の引き上げに関する対照表」である。

定年の引き上げは『段階的な調整と柔軟な適用』という原則に基づき、慎重に進める。「弁法」の主な内容は以下①~③の通り。

①定年の段階的な引き上げ

定年を15年間かけて段階的に、男性は60歳から63歳に、女性は一般労働者が50歳から55歳に、管理職が55歳から58歳に引き上げていく。

2025年1月1日から、男性従業員(従来の定年が60歳)と女性管理職従業員(従来の定年が55歳)は、退職年齢が4カ月ごとに1カ月ずつ延長される。具体的には、2025年1月から4月までの間に60歳になる男性従業員の退職年齢は60歳と1カ月(例えば2025年1月に60歳になる者は同年2月に、同年2月に60歳になる者は同年3月にそれぞれ退職年齢が遅くなる)に、2025年5月から8月までの間に60歳になる男性従業員の退職年齢は60歳と2カ月というようになる。

一方、従来の定年が50歳である女性一般従業員は、2カ月ごとに1カ月延長される。2025年1月から2月までに50歳になる女性一般従業員の退職年齢は50歳と1カ月、2025年3月から4月までに50歳になる女性一般従業員の退職年齢は50歳と2カ月というように延長されていく。

こうした定年の段階的引き上げは、2039年12月まで15年間かけ、徐々に進められる。

②年金保険料の納付期間の変更

年金保険料の納付期間は、5年の猶予期間を設けて延長する。2030年1月1日からの10年間で、年金を受け取るための最低納付期間を、現在の15年から段階的に20年に引き上げる。毎年6カ月ずつ延長される予定である。例えば、2030年には15年と6カ月、2031年には16年となり、2039年には20年に達する見込みである。ただし、定年に達しても最低納付期間に満たない場合は、納付期間を延長するか、一括納付することで最低納付期間を満たし、年金を受け取ることができるようにする。

③柔軟な退職制度の導入

定年に達する前に年金受給の最低納付期間を満了した場合、従業員は自らの希望に応じ、最長で3年、前倒しで法定退職できるようにした。ただし、従来の定年(男性従業員60歳、女性管理職従業員55歳、女性一般従業員50歳)を下回ることはできない。また、職員が定年に達した際には、所属する職場と協議の上で最大3年間の退職延長が認められる。同時に、長期間の年金保険料の納付を奨励し、支払額が多いほど受け取る年金額が増える仕組みを整備する。退職を遅らせることで年金額も増加するようにする。

さらに、若者、高齢者、就職困難者などに対する雇用促進対策を図るほかに、「弁法」は「定年を超えた労働者を雇用する場合、労働者に対して労働報酬、休息・休暇、労働安全衛生、労災保障などの基本的な権利を保障しなければならない」とし、定年を超えて働く者の基本的な権利保障の必要性を初めて提起した。

また、失業保険の受給期間を規定に従って延長することとした。失業保険金を受給していて定年まで1年未満の場合、退職年齢まで受給期間を延長する。段階的な定年延長期間中は、失業保険基金が年金保険料を支払う。

地下作業や高所作業、高温作業、特に過酷な肉体労働などの特殊な職種や高地地域で働く職員の早期退職制度を整備することも規定し、条件を満たせば早期法定退職を申請できるようにした。

SNS上で高まる懸念の声

経済が下降傾向をたどり、コロナ禍終息後も若者失業率は高止まりの状態が続いている。こうしたなかでの定年引き上げ策の発表によって、SNS上では議論と反対の声が広まった。例えば、定年の引き上げにより労働力が拡大し、中高年齢者と若い労働者との間で雇用の競争が激しくなることを心配している。また、十分な社会保障制度が整備されておらず、雇用主による年齢差別が広く見られる中で、多くの労働者が失業し、年金も受け取ることができない状況に陥るのではないかという懸念の声もあがっている。

参考文献

  • 中国中央人民政府、人的資源・社会保障部、中国人代網、北京市人民政府、人民日報、人民網

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