AIの雇用への影響、「コンピュータ」関連職種では需要増も
 ―労働統計局分析

カテゴリー:雇用・失業問題統計

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  • 国別労働トピック:2025年4月

米労働省労働統計局(BLS)はこのほど、AI(人工知能)の普及により雇用が縮小するといわれる職業の、2023年から33年までの雇用の変化を予測するレポートを発表した。それによると、「コンピュータ関連」の一部では、AIの導入や維持のため、雇用需要が高まる可能性がある。「ビジネス・金融関連」では、AIによって自動車事故等の損害の見積もりなどを迅速に積算できるようになるため、鑑定士や査定員の雇用需要が減少する。「建築・技術(エンジニアリング)関連」ではAIによる生産性の向上の影響は、過去数十年間のソフトウェアなどの技術の進歩によるものと同程度になる可能性があり、雇用の大幅な減少は見込まれないと分析している。

「ビジネス・金融」「建築・技術」はやや増加、「法律」は平均を下回る伸び率に

BLSのレポートは、AIの普及により雇用が縮小するといわれる「コンピュータ」「ビジネス・金融」「建築・技術(エンジニアリング)」「法律」に関連する職業について、今後10年間(2023~33年)における雇用の変動を予測している(図表1)。

図表1:AI普及の影響を受けるといわれる主な職種の雇用予測(2023-33年)
職種名 2023年雇用者数
(千人)
2033年雇用者数
(千人、予測)
増減数
(千人)
増減率
(%)
コンピュータ関連職 5,021.80 5,608.50 586.8 11.7
 データベース管理者 80.5 87.1 6.6 8.2
 データベース・アーキテクト 61.4 68 6.6 10.8
 ソフトウェア開発者 1,692.10 1,995.70 303.7 17.9
ビジネス・金融関連職 10,977.20 11,738.50 761.3 6.9
 保険査定員、検査員、調査員 345.2 330 ▲15.2 ▲4.4
 自動車損害保険鑑定士 10.5 9.5 ▲1 ▲9.2
 予算アナリスト 50.8 52.7 2 3.9
 クレジット・アナリスト 73.7 70.8 ▲2.8 ▲3.9
 金融・投資アナリスト 347.4 380.5 33.1 9.5
 個人金融アドバイザー 321 375.9 55 17.1
建築・技術関連職 2,639.70 2,819.70 180 6.8
 航空宇宙技術者 68.9 73 4.1 6
 土木技術者 341.8 363.9 22.1 6.5
 電気技術者 189.1 206.3 17.2 9.1
 電子技術者(コンピュータ除く) 98.7 107.6 8.9 9.1
 航空宇宙運用テクノロジスト・テクニシャン 11 11.9 0.9 7.9
 電気電子テクノロジスト・テクニシャン 99.6 102.6 3 3
法律関連職 1,394.40 1,446.20 51.8 3.7
 弁護士 859 903.3 44.2 5.2
 パラリーガル・法律アシスタント 366.2 370.5 4.3 1.2
全職業 167,849.80 174,589.00 6,739.20 4

出所:米労働統計局ウェブサイト

それによると、米国における2023年平均の雇用者数は1億6,784万9,800人で、10年後の2033年には1億7,458万9,000人に増えると予測している。10年間の増加数は673万9,200人で、増加率は約4%となる。今回のレポートでとりあげた職業別に見ると、「コンピュータ関連職」は502万1,800人から560万8.500人へ58万6,800人(11.7%)増加と、全職業平均を大幅に上回る伸びを見込む。また、「ビジネス・金融関連職」は1,097万7,200人から1,173万8,500人へ6.9%増加、「建築・技術関連職」は263万9,700人から281万9,700人へ6.8%増加し、それぞれ平均をやや上回る伸びを示す。一方、「法律関連職」は139万4,400人から144万6,200人への3.7%増加にとどまり、平均を下回る伸び率となる見通しだ。

「ソフトウェア開発者」「データベース管理者」の伸び率は平均以上

レポートは、職業内の個々の職種ごとの見通しも示している。「コンピュータ関連職」のうち、「ソフトウェア開発者」については、AI活用に伴う生産性向上により、ソフトウェア製品の価格が下がって需要が増加し、同職種に対する雇用需要を高める可能性があると指摘する。さらに、AIを活用したビジネスソリューションの開発やAIシステムの保守が必要になることなどから、雇用が減少する可能性は低いと分析。そのうえで、今後10年間で17.9%増加と大幅な伸びを示すと予測している。なお、AI使用による生産性の向上が継続的な労働需要を上回る可能性は常にあるものの、この推測を裏付ける明確な証拠はないとも指摘している。

「データベース管理者」「データベース・アーキテクト」に関しても、(1)データ量が増え続けると、データの保守とセキュリティの確保がより重要になること、(2)AIの利用が進むと、データベースの複雑さが増すこと、などへの対処から、需要が増すとの見方を示す。生産性の向上が雇用の伸びの鈍化をもたらす可能性はあるものの、強いビジネス需要がその影響を上回ると予測。「データベース管理者」は8.2%増、「データベース・アーキテクト」は10.8%増加と、どちらも全職業平均を上回る伸びを示すと分析している。

「自動車保険損害鑑定士」「保険査定員」などは減少

「ビジネス・金融関連職」のうち、「自動車保険損害鑑定士」「保険査定員、検査員、調査員」では、例えば、保険会社が顧客への支払額を見積もる場合、事故などの物的損害の現場に検査員を派遣せず、ドローンとAI技術を連携させて見積り額を算出できるようになるなど、人員削減、作業の高速化が可能になる。このため、前者は9.2%、後者は4.4%、ともに減少すると予測している。

「個人金融アドバイザー」の仕事も、顧客に対する財務のアドバイスを自動化して提供するAI(ロボアドバイザー)と競合関係にある。しかし、この技術の利用を好む者は投資プランのニーズがシンプルな若者に多く、この技術を信頼する高齢者は少ないため、利用は非常に限られると指摘する。米国の人口に占める高齢者の割合が、今回予測する10年間に増加することを考慮すると、人間の「個人金融アドバイザー」に対する需要は依然として強く、17.1%増加すると推測している。

「建築・技術」の需要は堅調

AIは建築や技術(エンジニアリング)の職業に対しても、関連する多くの仕事をサポートし、労働者の生産性を向上させる可能性がある。ただし、その影響は、過去数十年間のソフトウェアやその他の技術の進歩によるものと同程度と指摘。AIの活用は労働需要に影響を与えるものの、エンジニアリング専門家独自の専門知識と既存の規制要件によって、根本的な需要は引き続き堅調に推移すると予測している。

たとえば、「土木技術者」は、複雑な機械、電気、配管システムの設計において、AIを使用することにより、特定の建築基準を考慮して、誤りや設計変更の発生を減らし、設計プロセスを加速できる。しかし、政府が義務付けた品質管理規制に対応し、新しい技術を使用して作業を完了させるためには、依然として、専門技術者がレビューおよび承認しなければならない。また、複雑な計算や基準の遵守など、複雑な土木工学作業を遂行するために必要な高い技術的知識レベルが求められており、これが土木技術者の需要維持につながる。このため、土木技術者の雇用は6.5%増加する見通しとなっている。

電気・電子関連の職種も、AIの使用が増加しているにもかかわらず、電気自動車(EV)や電子制御ユニットにおける、エネルギー効率の高い電子機能の需要が堅調なことから、「電気技術者」「電子技術者(コンピュータを除く)」とも、雇用が9.1%増加すると予測している。

人間による作業で引き続き必要なこと

生成AIは「法律関連職」の仕事の生産性を大幅に向上させる可能性がある。トムソン・ロイターが2023年に実施した調査の結果によると、法律、税務、会計の専門家の67%が「AIと生成AIの出現が、今後5年間で、自らの職業に変革的または大きな影響を与える変化をもたらす」と予測している(注1)

近年、いくつかの企業が、契約書レビュー、審理前証拠開示手続き、調査などの利用に供するために、機械学習または生成AIサービスを法律事務所に提供し始めている。こうしたサービスの中には、法律図書館の資料をくまなく調べられるものや、法律の学習ガイド、百科事典として役立つものがある。今後10年間でより多くの法律事務所がこれらを活用すると予想されるため、雇用の伸びは前述のとおり、全職業平均より低い3.7%にとどまるとみられる。とくに、「パラリーガル・法律アシスタント」の行う仕事が効率化され、この雇用の伸びは1.2%と停滞する。

ただし、生成AIは、法律の準備書面作成にあたっての作業効率向上の効果が大きいものの、誤りやバイアスが含まれている可能性があり、弁護士らによる詳細なレビューが必要になると指摘する。法的な場面では正確性が非常に重要であり、既存のAIツールが人間のように法的文脈を考慮できないことを考えると、人間のレビュアーが曖昧さを理解し、誤りを特定し、真の意図が捉えられるようにする作業が、引き続き必要になるとの見方を示している。

参考資料

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