デジタル転換に伴う産業・雇⽤構造の変化に対応した制度・政策が必要
 ―韓国雇用情報院報告書

カテゴリー:雇用・失業問題労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2024年11月

韓国雇⽤情報院(KEIS)は2024年11月12日、デジタル転換(自動化及びAI)が韓国の産業と雇⽤構造に与える影響に関する調査結果を分析した「デジタル基盤の技術革新と⼈材需要構造の変化」と題する研究報告書を発表した。同報告書は、事業体と専門家を対象としたそれぞれの調査結果から、人口減少による労働力不足と熟練職不足に対応するためにデジタル転換などの技術革新を推進し、産業及び雇用構造の変化に対応した制度・政策を準備することが重要であると指摘している。同報告書の概要を紹介する。

【デジタル転換(自動化及びAI)が産業構造に与える影響調査(事業体調査)】

調査の概要

韓国雇⽤情報院(KEIS)は、デジタル転換に影響を及ぼす産業及び⼈材需要構造を分析するため、国内20業種1,700事業体を対象に調査を実施した(調査期間:2023年10~12月)。20業種は製造業とサービス業に大別され、製造業は従業員数100人以上の企業(電気電子、精密機器、繊維皮革、石油化学、非金属鉱物、金属製品、機械装備、自動車、エネルギー、食料品、建設の11業種)、サービス業は従業員数50人以上の企業(運輸・物流、情報通信、卸小売、飲食宿泊、金融、研究開発業、公共行政国防、教育、保健社会福祉の9業種)を対象としている。ただし、教育のうち大学(大学院)は在学生を基準に、保健社会福祉のうち病院は病床数を基準に、それぞれ機関の規模を区分している。

デジタル技術の導入目的、導入水準

事業体調査の結果によると、デジタル基盤の技術革新、転換、活⽤の中核的⽬的は、業務の生産性・効率性向上が5点満点基準で4.61点と最も高く、これに自社製品の生産性・効率性向上(4.43点)、顧客サービスの生産性向上(4.42点)、外部ビジネスの生産性・効率性向上(4.39点)が続いた。製造業は自社製品の生産性・効率性向上、サービス業は業務の利便性の改善及び消費者の便益増進の点数が高かった。

デジタル技術の導入水準について、クラウドコンピューティングを「導入し、現在活用中」と回答した割合は49.9%。業種別ではエネルギーが68.9%で最も高く、次いで石油化学(62.8%)、電気電子(58.1%)の割合が高かった。

ビッグデータを「導入し、現在活用中」と回答した割合は38.8%。業種別ではエネルギーが64.4%で最も高く、次いで電気電子(46.5%)、自動車(45.5%)の順であった。

IoTを「導入し、現在活用中」と回答した割合は28.8%。業種別ではエネルギーが73.3%で最も高く、次いで自動車と石油化学(48.9%)の割合が高かった。

スマートファクトリーを「導入し、現在活用中」と回答した割合は20.8%。業種別では自動車が67.0%で最も高く、次いで石油化学(61.7%)、機械装備(55.2%)の順であった。

AIを「導⼊し、現在活⽤中」と回答した割合は18.3%。業種別では保健社会福祉が28.2%で最も高く、次いで情報通信(27.0%)、金融(24.4%)の割合が高かった。

その他のデジタル技術を「導入し、現在活用中」と回答した割合は、5G/6Gネットワーク(14.0%)、3Dプリンティング(11.8%)、フィンテック(7.8%)、ドローン(7.0%)、知能ロボット(6.9%)、仮想・拡張現実(6.3%)、ブロックチェーン(3.2%)、量子コンピューティング(0.4%)などとなっている。

デジタル転換による雇用の変化

デジタル技術の転換と活用が活発に展開されることを前提とすると、今後5~10年間で雇用規模に最も大きく影響するデジタル技術は何かについての質問に対する回答(5点満点)は、AI(4.55点)、IoT(4.17点)、知能ロボット(4.11点)の順に高かった。

雇用規模の変化については、5年後(2028年)に8.5%減少、10年後(2035年)に13.9%減少すると予想される。デジタル技術だけでなく、様々な変数を考慮した場合、雇用規模の変化は5年後(2028年)に6.4%減少、10年後(2035年)に10.1%減少すると予想され、雇用規模の減少幅が縮小する(表1)。

雇用規模の変化が大きい業種としては、2028年の飲食宿泊で14.7%、金属製品で14.3%それぞれ減少し、2035年の運輸・物流業で21.9%、飲食宿泊で20.9%、金属製品で20.3%それぞれ減少すると予想される。

表1:デジタル技術転換とすべての変数を考慮した雇用規模の増減
業種 回答数 デジタル技術革新・移行が正常に導入・活用されることを前提としたとき 様々な変数を全て考慮した現実的な側面を考慮したとき
2028年 2035年 2028年 2035年
全業種 2003 -8.5% -13.9% -6.4% -10.1%
電気電子 86 -6.0% -7.5% -4.8% -6.8%
精密機器 49 -1.7% -3.6% -0.1% -1.6%
繊維革 49 -10.2% -18.3% -6.3% -13.6%
石油化学 94 -5.5% -9.8% -3.6% -8.1%
非金属鉱物 53 -1.9% -6.6% -3.0% -7.5%
金属製品 77 -14.3% -20.3% -10.6% -13.9%
機械装備 105 -12.1% -18.2% -9.3% -11.4%
自動車 88 -7.3% -10.5% -6.4% -8.8%
エネルギー 45 -9.6% -18.3% -6.9% -11.4%
食料品 65 -4.1% -10.4% -2.3% -6.6%
建設 94 -9.4% -13.1% -6.5% -9.4%
運輸・物流 134 -14.2% -21.9% -9.3% -15.1%
情報通信 126 -6.9% -14.5% -7.0% -10.1%
卸売 140 -10.6% -18.2% -7.3% -12.5%
飲食宿泊 69 -14.7% -20.9% -10.9% -16.8%
金融 135 -6.4% -11.2% -4.1% -6.6%
研究開発業 137 -6.8% -13.1% -6.7% -11.6%
公共行政防衛 113 -3.9% -5.8% -4.4% -4.3%
教育 174 -9.6% -13.3% -8.7% -11.1%
保健社会 170 -8.7% -15.4% -4.4% -9.8%

出所:韓国雇用情報院(2024)「デジタル基盤の技術革新と人材需要構造の変化」

デジタル技術による職務の変化

企業の職務タイプを肉体活動中心職務、知的活動中心職務、社会的活動中心職務の基準で区分すると表2のように分類することができる。

表2:職務タイプの分類
区分 業務タイプ
肉体活動
中心職務
操作/組立(Dexterity) 工場、機械、操作整備などの物理的活動分野
探索及び整備(Navigation) 測量、保守、整備、機械操作活動分野
運搬/輸送(Strength) モバイル機器の運転、人又は物の移動、配送などの物理的活動分野
知的活動
中心職務
知的業務処理(Business Processing) 該当分野の経験・知識を通じたビジネス、経営、計画、会計、ビジネス、経営事務分野
自然/社会科学研究分野(Natural/Social Science) 自然科学・工学、社会科学分野の研究開発、試験、評価分野
ICT研究分野(ICT Problem Solving) 放送通信、ICT、デジタル分野の研究開発、構築、サービス分野
組織管理と調整の役割(Managing/Coordinating) 業績、人事などの組織及びメンバーの管理業務
販売/マーケティング(Selling/Influencing) 顧客対応、紛争解決、営業活動及びマーケティング活動のための戦略と実施の分野
社会的活動中心職務 一般顧客対面サービスの提供(Serving/Attending) 法律業務、顧客センター、レストラン、ショップ、公演など直接顧客対面を通じたサービス分野
保健・社会福祉サービスの提供(Caring) 病院、薬局、福祉センターなど対象者への直接対面治療及びケアサービス
教育訓練サービスの提供(Teaching/Training/Coaching) 教師、講師、教授などの知識・経験の伝達業務

出所:韓国雇用情報院(2024)「デジタル基盤の技術革新と人材需要構造の変化」

職務タイプ別に今後5~10年間のデジタル技術が及ぼす影響水準(5点満点)を見ると、肉体活動中心職務では、操作・組立と探索及び整備の影響水準が4.07点で最も高く、デジタル技術の導入により最も大きな影響を受けると予想される。

知的活動中心職務では、自然・社会科学研究分野の業務の影響水準が4.09点で最も大きな影響を受けると予想される。次いで、ICT研究分野(4.04点)、組織管理と調整の役割(4.02点)の順に影響水準が高かった。

社会的活動中心職務では、一般顧客対面サービスの提供が4.09点で最も大きな影響を受けると予想される。

デジタル技術が職務に与える影響

デジタル技術の導入を通じて今後5~10年間に影響を受ける職務を見ると、経営事務・金融保険、研究職及び工学技術系、保健・医療、芸術・デザイン・放送・スポーツ職は、デジタル技術が職務を補完し、支援するという回答割合が高かった。他方、美容・旅行・宿泊・飲食・警備・清掃職、営業・販売・運転・運送職、建設・採掘職、設置・整備・生産職は、デジタル技術が人材に取って代わるという回答割合が高かった。教育・法律・社会福祉は、デジタル技術が職務の変化を引き起こさないという回答割合が高かった。

製造業とサービス業を比べると、経営・事務・金融保険、研究職及び工学技術系などの専門職種に加えて、芸術・デザイン・放送・スポーツ職などの創造的職種はデジタル技術によって補完されるだろうという回答割合が高かった。他方、美容・旅行・宿泊・飲食・警備・清掃職、営業・販売・運転・運送職、建設・採掘職、設置・整備・生産職などの職業では自動化の影響で職務が代替されるという回答割合が高かった(図1)。

図1:デジタル技術が職務にどのような影響を与えるか
画像:図1

出所:韓国雇用情報院(2024)「デジタル基盤の技術革新と人材需要構造の変化」

【職業別雇⽤代替可能性調査(専門家デルファイ調査)】

調査の概要

雇用情報院(KEIS)は、デジタル転換(自動化およびAI)による職業別の代替可能性を分析するため、110種類の職業に5年以上従事している専門家887⼈(各職業7~9人)を対象にデルファイ調査を実施した(調査期間:2022年7月13日~8月21日)。デルファイ調査は、現業経験者あるいは専門家の経験に依存して未来を予測する方法で、調査対象となる専門家を対象に一次質問をして意見を収集し、収集された結果を一次調査に回答した専門家に見せて再び質問する過程を繰り返すことで、専門家間の妥協を通じて意見収束過程を誘導して結論を導く調査方法である。今回は、ウェブベースのアンケート調査として実施された。

自動化による代替の可能性

コンピュータ導入など技術革新による自動化が完全に進んだときの自動化労働力代替予想率を職業別に見ると、表3のとおりである。管理者は、遂行する業務の「41%以上60%未満」が自動化により置き換えられるという回答割合が最も高く、次いで「21%以上~40%未満」の回答割合が高かった。

専門家及び関連従業者は「21%以上40%未満」の仕事が自動化により置き換えられるという回答割合が高かった。対面業務が主な仕事のサービス従事者も「21%以上40%未満」の仕事が代替可能とする回答割合が高かった。

他方、事務従事者、販売従事者、装置・機械操作・組立従事者、単純労務従事者は、「61%以上81%未満」の仕事が自動化によって置き換えられるという回答割合が高かった。

表3:自動化による労働⼒の代替可能性
  0-20% 21-40% 41-60% 61-80% 81-100% 合計
管理者 15 59 82 22 0 178
(8.4) (33.2) (46.1) (12.4) (0.0) (100.0)
専門家及び関連従事者 24 173 164 57 0 418
(5.7) (41.4) (39.2) (13.6) (0.0) (100.0)
事務従事者 0 2 37 47 0 86
(0.0) (2.3) (43.0) (54.7) (0.0) (100.0)
サービス従事者 5 50 26 16 0 97
(5.2) (51.6) (26.8) (16.5) (0.0) (100.0)
販売従事者 1 0 14 22 3 40
(2.5) (0.0) (35.0) (55.0) (7.5) (100.0)
農林漁業熟練従事者 0 1 21 18 1 41
(0.0) (2.4) (51.2) (43.9) (2.4) (100.0)
技能職及び関連技能従事者 9 39 69 53 0 170
(5.3) (22.9) (40.6) (31.2) (0.0) (100.0)
装置・機械操作・組立従事者 1 7 55 170 43 276
(0.4) (2.5) (19.9) (61.6) (15.6) (100.0)
単純労務従事者 4 6 23 84 75 192
(2.1) (3.1) (12.0) (43.8) (39.1) (100.0)

出所:韓国雇用情報院(2024)「デジタル基盤の技術革新と人材需要構造の変化」

チャットGPTなどの生成AIの導入により、職業別労働力の代替が加速化すると思うかどうかについての回答を見ると、全ての職業群で「そうである」という回答が最も高い割合を占めた(表4)。

「そうである」と「とてもそうである」を合わせた肯定的回答の割合は、農林漁業熟練従事者(51.2%)、技能職及び関連技能従事者(44.7%)、サービス従事者(42.2%)の職業で比較的低い割合となっており、これらの職業では「そうではない」という否定的な回答の割合が高かった。これは肉体的な活動が主な職業の特徴と見なすことができる。しかし、単純労務従事者は、「そうである」と「とてもそうである」を合わせた肯定的回答の割合が76.1%と高かった。

表4:AI導入による労働力の代替加速
  全くそうではない そうではない 普通である そうである とてもそうである 合計
管理者 1 20 39 96 22 178
(0.6) (11.2) (21.9) (53.9) (12.4) (100.0)
専門家及び関連従事者 0 52 141 206 19 418
(0.0) (12.4) (33.7) (49.3) (4.6) (100.0)
事務従事者 0 3 24 46 13 86
(0.0) (3.5) (27.9) (53.5) (15.1) (100.0)
サービス従事者 2 18 36 37 4 97
(2.1) (18.6) (37.1) (38.1) (4.1) (100.0)
販売従事者 1 0 10 27 2 40
(2.5) (0.0) (25.0) (67.5) (5.0) (100.0)
農林漁業熟練従事者 0 7 13 21 0 41
(0.0) (17.1) (31.7) (51.2) (0.0) (100.0)
技能職及び関連技能従事者 4 27 63 71 5 170
(2.4) (15.9) (37.1) (41.8) (2.9) (100.0)
装置・機械操作・組立従事者 4 19 76 149 28 276
(1.5) (6.9) (27.5) (54.0) (10.1) (100.0)
単純労務従事者 5 15 26 95 51 192
(2.6) (7.8) (13.5) (49.5) (26.6) (100.0)

出所:韓国雇用情報院(2024)「デジタル基盤の技術革新と人材需要構造の変化」

労働市場の変化に備えた職業教育訓練の重要性

本報告書は「人口減少による労働⼒不⾜と熟練職不足に対応するためにデジタル転換などの技術革新を推進し、デジタル転換が産業・職業・職務に応じて異なる側⾯に影響を及ぼすだけに、産業及び雇⽤構造の変化に対応した制度及び政策が求められる」と指摘し、「持続的な成⻑のためにビッグデータ、人工知能などデジタル転換過程に起因する職務変換や産業構造転換に備えた職業再教育及び訓練、遊休⼈材⽀援策を準備することが何よりも重要である」と主張している。

参考資料

2024年11月 韓国の記事一覧

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