再生可能エネルギー関連の雇用、2割増で1,620万人に拡大
―IRENA・ILO報告書
国際労働機関(ILO)は10月1日、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)(注1)と共同で報告書「再生可能エネルギーと雇用 2024(Renewable Energy and Jobs―Annual Review 2024)」を発表した。地球規模で進む気候変動に対処するため、化石燃料エネルギーから再生可能エネルギーへの転換は喫緊の課題となっている。報告書は、再生可能エネルギーに関する雇用の状況を分析するとともに、エネルギー転換を進めるにあたり、女性や若者など多様な人材に必要な教育訓練を行い、労働条件や労働者の権利を尊重することが必要だと指摘している。
再エネの雇用増加率は18%と過去最大、太陽光発電は710万人規模に
報告書によると、2023年の再生可能エネルギー関連の雇用は、前年の1,370万人から250万人、率で18%増加し、1,620万人と過去最大の水準を記録した。再生可能エネルギーの発電量の力強い成長と、施設の建設が引き続き拡大していることを示している。
再生可能エネルギーの種類別の雇用規模をみると、「太陽光発電」が710万人で最も多い(図1)。このうち460万人は中国で6割以上を占める。2番目に多いのは「バイオエネルギ-」で、390万人の雇用を生み出している。このうち「液体バイオ燃料」については、ブラジルが3分の1、インドネシアが4分の1を占める。3番目に多い「水力発電」は成長が鈍化しており、230万人と前年比20万人減となっている。国別には、中国(34%)とインド(20%)で半数を超え、ブラジルが続く。4番目の「風力発電」は150万人で、中国が5割、欧州が2割を占める。
図1:再生エネルギーの種類別雇用者数の推移(2012~2023年)
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出所:IRENA/ILO(2024)
再生可能エネルギーの進展に地理的な偏り
再生可能エネルギー関連の雇用拡大の状況をみると、地理的に大きな偏りがみられる。国・地域別では、中国が約740万人で約半数を占める。以下、欧州連合(EU)が約180万人、ブラジルが約160万人、米国とインドがそれぞれ約100万人で続く(図2)。
図2:世界の再生エネルギー雇用者数(2023年)
出所:IRENA/ILO(2024)
アフリカは膨大な土地と資源を持ち、潜在的な可能性が大きいにもかかわらず、再生可能エネルギー関係の雇用は32万人にすぎない。しかし、アフリカほど、再生可能エネルギーが強く求められている地域はない。報告書によると、2022年、サハラ以南のアフリカでは、人口増加による新規電力需要に電力供給が追いつかず、6億8,500万⼈が電⼒にアクセスできず、電力を使えない人々の数が十数年ぶりに増加した。
報告書は、こうした広大な地域における送電網拡張の制約を考えると、分散型再生可能エネルギー(Decentralized Renewable Energy, DRE)は、地理的に離れた地域や電化が難しい地域にも、クリーンで信頼性の高い、手頃な価格のエネルギーを供給することができる、と指摘する。また、再生可能エネルギー分野では、女性が不平等ながらも、着実に雇用を増加させている。女性がDREで起業しやすくすることにより、このセクターを刺激し、地域経済を潤し、エネルギー資本を改善することができる、と示唆する。
教育訓練で雇用のスムーズな移行を
IRENAのフランチェスコ・ラ・カメラ事務局長は、再生可能エネルギーの進展に地理的な偏りがあることを認め、「エネルギー転換とその社会的・経済的な利益は、1つや2つの地域に関するものであってはならない。国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)(注2)で採択された『2030年までに再生可能エネルギーの発電能力を3倍にする』という目標を果たすために、世界は取り組みを強化し、エネルギー移行の進展を妨げる障害に対応するため、疎外された地域を支援しなければならない」と強調する。
また、ILOのジルベール・ウングボ事務局長は、「化石燃料エネルギー関連の雇用に従事する労働者に教育・技能訓練を行うことで、ジェンダーやその他の格差を縮小させ、新たなクリーンエネルギー雇用への移行を促進することができる。彼らがディーセント・ジョブ(適切な仕事)で働けるよう、知識と技術を提供しなければならない」と指摘した。
報告書は、エネルギー転換は、女性、若者やマイノリティ、恵まれない人々にも十分な雇用機会を与え、多様な労働力によって達成され、公平性と社会正義を推進するものでなければならない、とまとめている。
注
- International Renewable Energy Agency(IRENA)
は、再生可能エネルギーを世界規模で普及促進するための国際機関。再生可能エネルギー技術の移転を促進し、実用化や政策の知見を提供することを目的に2009年に設立された。(本文へ)
- 2023年11月30日~12月13日、アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイにおいて開催。パリ協定の目的達成に向けた世界全体の進捗を評価するグローバル・ストックテイク(GST)に関する決定、ロス&ダメージ(気候変動の悪影響に伴う損失と損害)に対応するための基金を含む新たな資金措置の制度の大枠に関する決定の他、緩和、適応、資金、公正な移行等の各議題についての決定がそれぞれ採択された。(本文へ)
参考資料
- IRENA/ILO「Renewable Energy and Jobs ― Annual Review 2024
」(2024)
- ニュースリリース
2024年10月 ILOの記事一覧
- 世界の高齢者人口は過去30年で倍増したが、労働力の活用不足が課題 ―国際高齢者デーでILOが分析
- 再生可能エネルギー関連の雇用、2割増で1,620万人に拡大 ―IRENA・ILO報告書
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