世界の高齢者人口は過去30年で倍増したが、労働力の活用不足が課題
 ―国際高齢者デーでILOが分析

カテゴリ−:高齢者雇用労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2024年10月

ILO(国際労働機関)は、10月1日の「国際高齢者デー」にあたり、世界の高齢者雇用に関するデータをとりまとめ、紹介した。世界で高齢化が進み、平均寿命は71歳を超え、65歳以上人口は7億人を上回った。しかし、高齢者の労働力は十分に活用されていないと分析している。

2050年に世界の高齢者は16億人に

現在、世界のほぼすべての国で、人口の高齢化が進行している。高齢者人口とその割合の増加は、平均寿命の伸びと出生率の低下により、数十年続くと予想されている。世界の平均寿命は2000年の66.8歳から2019年には73.4歳へと6年以上伸びたが、その後パンデミックの影響で2021年に71.4歳に短縮した。

世界の65歳以上人口は、1990年に3億2,400万人だったが、2021年には7億6,100万人と、約30年で2倍以上に増加した。2050年には16億人に達すると予測される。

ILOでは、人口の高齢化は労働の世界にも大きく影響し、労働市場や社会福祉機関の対応が問われているとして、高齢者の労働力活用についての状況を以下のように分析している。

定年退職年齢と労働参加率が上昇

ILO「世界社会保護報告書(World Social Protection Report 2024-26(注1)」によると、2023年現在、法定退職年齢を超える人々の79.6%が年金を受給している。しかし、国の所得別にみると格差が大きく、高所得国では96.8%と非常に高いが、低所得国ではわずか12.7%に過ぎない。

退職年齢の引き上げは、年金制度を維持するため世界中で行われているが、社会、経済、労働市場、健康関連の要因を考慮したより包括的なアプローチが必要となっている。

労働力の高齢化が進み、世界の労働力に55歳以上が占める割合は、1995年の10.9%から、2020年には16.3%に高まった。この変化は労働年齢人口の増加よりも速いペースで起こっており、年金額の不足やインフォーマル労働の蔓延を反映していると指摘する。

高齢者の失業率は低いが、失業が長期化しやすい

高齢労働者の失業率は一般的に低い。年齢別には、65歳以上で最も低く(1.4%)、次いで55~64歳(2.5%)と、年齢層が上がると失業率が低下する傾向にある。

しかし、高齢者は失業期間が長期化しやすい。データが入手可能な国の62%で、「55歳以上」の長期失業者の割合は「25~54歳層」に比べ高くなっている。高齢者は、年齢差別、就職活動のノウハウとサポートの欠如、技能の低下、移動のハンディなど、就職活動においてハードルが高くなっていると指摘する。実際に求職を諦める高齢者の割合は、その他の年齢層に比べ高い。

5,000万人以上の高齢労働力が「活用不足」と試算

高齢者の労働力の活用不足の影響は、失業より深刻だ。活用不足には、時間関連の不完全就労(労働時間が本人の希望する労働可能時間よりも短い場合)と、潜在的労働力(仕事を探しているがすぐには働けない、または働きたいが仕事を探していない場合)という状況が含まれる。

157カ国のデータに基づくILOの試算によると、世界で55歳以上の5,170万人の労働力が十分に活用できていない。このうち2,260万人が時間関連の不完全就労、1,540万人が失業、1,370万人が潜在的労働力の状況にある。

世界の労働活用不足率(失業、時間関連の不完全就労、潜在的労働力を対象とする)は、55歳以上の高齢者で8.1%だと分析する。男女別には男性に比べ女性で高く、労働市場における高齢女性の困難さが浮き彫りになっている。

労働力の活用不足を要素別にみると、55歳以上では「失業」は他の年齢層に比べ最も低く、「時間関連の不完全就労」が最も高い()。高齢労働者の活用不足は低所得国で特に高く、これは社会的セーフティネットや財政支援が不十分なため、たとえ短時間勤務だったり、適切な仕事でなくとも、やむを得ず働く場合が多いためと分析している。

図:年齢階層別にみた労働力活用不足要素の内訳 (単位:%)
画像:図

出所:ILO(2024)

高齢者の幸福のため、多様な課題に対応を

今回、ILOは高齢労働者の労働力活用に焦点を当て分析した。しかし、高齢労働者の仕事の状況と幸福は、仕事の質、社会経済的状況、社会的保護制度の強さ、家族の状況など、多くの要因によって構成される。また、高齢労働者は、有給の仕事だけでなく、自給自足農業や育児・看病・介護など、無給の活動を通じて社会に貢献している、と留保する。

そのうえで、「政策立案者は、高齢労働者の生活の質を向上させるため、有給・無給を問わず高齢者の貢献を包括的に考慮し、彼らが直面する多様な課題に対処することが必要だ」と提言している。

参考資料

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