雇用労働部が「第7次男女雇用平等及び仕事・家庭両立基本計画」を発表
韓国政府は8月20日、「第7次男女雇用平等及び仕事・家庭の両立に関する基本計画」(2023~2027年)を発表した。2027年までに女性就業率(15~64歳)を65%に引き上げることを政策目標に設定し、両親が共同で子育てを行えるよう男性の育児参加の促進に向けた政策課題を盛り込んでいる。第7次基本計画の主な内容について紹介する。
人口構造・産業構造の変化と女性労働市場の状況
仕事と家庭の両立及び男女平等な雇用を実現するための様々な政策的努力にもかかわらず、女性が労働市場で直面する構造的な困難が続いている。女性の就業率は2017年の56.9%から2022年は60.0%に上昇したが、依然としてOECD平均(66.5%)を下回っており、2022年の男女間賃金格差も31.2%とOECD平均の11.6%を大幅に上回っている。
女性に育児の負担が集中し、仕事と育児の両立支援制度の活用も低調なため、女性がキャリアを中断せざるを得ない状況が生じている。
少子高齢化による人口構造の変化に伴い、生産年齢人口は2022年の3,527万人から2042年は2,573万人へと954万人(27.0%)減少し、人手不足が深刻化すると予想される。女性就業率は上昇しているが、仕事と育児の両立の困難さから2023年の合計特殊出生率は0.72まで低下し、2020年から人口の自然減少が進行中である。
2020~2030年の就業者見通しによると、女性が多数働いている卸売業、小売業、教育サービスなどの雇用が大きく減少(卸売・小売業-14万人、教育サービス-5.2万人、衣類関連製造業-4.1万人)する一方、女性の参加が比較的少ない新技術部分野の就業者数は増加(情報通信業+13.5万人、専門科学技術+11.5万人)すると予想される。職業・職種の性別職域分離が持続しており、技術・産業の変化に対応した女性の雇用機会の拡大が必要とされている。
第6次基本計画の成果と課題
韓国政府は、「男女雇用平等及び仕事・家庭両立支援に関する法律」に基づき5年ごとに基本計画を策定している。2018~2022年を対象期間とした第6次基本計画の主な内容は以下のとおりである。
- 男女差別的な雇用慣行の打破(男女雇用平等法を全事業場に適用、労働委員会の性差別権利救済手続きの新設(注1)など)
- 良質な雇用環境の醸成(アファーマティブ・アクションの対象拡大及び点検強化など)
- 出産・育児の死角地帯の解消(育児休業給付金の引き上げ、父親の育児参加の拡大など)
- 職場保育園の活性化(中小企業労働者のための職場保育園の設置拡大、大企業の設置義務の強化)
- 仕事と生活の均衡文化の普及(対国民認識改善活動、ファミリー・フレンドリー認証制度(注2)の拡大)
- キャリア断絶女性の再雇用・雇用維持の促進(キャリア断絶女性特化型職業訓練及び就職支援など)
- 分野別の雇用機会の拡大(家事サービス市場の制度化、柔軟勤務の活性化など)
第6次基本計画の主な成果として、育児休暇、育児労働時間短縮などの仕事・育児支援制度を拡大する政策により、母性保護・育児支援予算の支出が2018年の1兆1,041億ウォンから2023年は2兆2,615億ウォンへと2倍以上に増加した。育児休業給付金受給者数も2018年の9万9,198人から2023年は12万6,008人に増加した。特に、男性の受給者数は、2017年1万7,666人、2020年2万7,423人、2023年3万5,336人と大幅に増えている。
しかし、2023年の育児休業給付金受給者の割合は、女性72.0%、男性28.0%と依然として女性が7割以上を占めている。また、韓国では中小企業で働く労働者が大多数を占めているが、中小企業の仕事・育児支援制度の活用は大企業に比べて低調なままである。
乳幼児を持つ35~44歳層の女性のキャリア断絶によるM字カーブが継続しており、特に幼い子どもを持つ女性の就業率が低い傾向にある。キャリア断絶女性は、再就職時に以前より質の低い仕事に就く場合が多く、これが労働市場における男女格差の主な要因となっている。
第7次基本計画の主な政策課題
韓国政府は、少子高齢化、産業転換などに伴い変化する労働市場に対応し、女性の経済活動を活性化させるため、「第7次男女雇用平等及び仕事・家庭の両立に関する基本計画」(2023~2027年)を策定した。女性の就業率向上及び男女格差是正のために「仕事と育児の両立支援の活性化」等の集中的な推進が必要だとしている(表)。
ビジョン | 女性が仕事と育児を両立できる労働市場の条件整備 |
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政策目標 | 2027年までに女性就業率(15~64歳)65%を達成 * 2017年56.9%→2019年57.8%→2021年57.7%→2023年61.4% |
政策課題 | ママとパパが一緒に子どもを育てることができるようにすること
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多様な選択肢により両親が十分な育児時間を確保することができるようにすること
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誰の目も気にすることなく仕事・育児支援制度を利用できるようにすること
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女性が自分のキャリアを維持できるようにすること
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女性が労働市場で差別されないようにすること
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出所:韓国雇用労働部報道発表資料(2024年8月20日付)
育児インセンティブ、所得支援の強化による男性の育児参加拡大
第7次基本計画は、ママとパパが一緒に子どもを育てることができるよう、共同育児インセンティブ、所得支援の強化により男性の育児参加を拡大するとしている。
男性の育児参加を通じた共同養育文化を普及させるため、育児休業期間の延長、(両親ともに3カ月以上利用した場合、1年6カ月に延長)、両親休暇制度など家族ケアのインセンティブを強化する。乳幼児期に父親が少なくとも1カ月間直接子どもの世話ができるよう配偶者出産休暇期間を10日から20日に拡大するとともに、中小企業のための給与支援を強化する。
育児休業期間中の所得減少による負担を軽減するため、育児休業給付金の月上限額を2024年の150万ウォンから2025年は250万ウォンに引き上げるとともに、事後支給方式を廃止し、所得代替率を向上させる。出産休暇と育児休暇の統合申請及び事業主の書面許可方式を導入するなど、人目を気にせず育児休暇が使用できる環境を整備する。
仕事と育児の両立のための柔軟な勤務制度の活用基盤整備
基本計画は、多様な選択肢により両親が十分な育児時間を確保できるよう、乳幼児期・小学校時期における持続可能な仕事と育児の両立のため柔軟勤務制度の活性化及び弾力的な制度の活用基盤を整備する必要があるとしている。
育児期の労働時間短縮制度の柔軟な活用を促進するため、利用可能な子どもの年齢を8歳から12歳まで引き上げるとともに、最長利用期間を24カ月から36カ月に延長し、最短利用期間も3カ月から1カ月に短縮する。
育児など個人のニーズに応じた時差出退勤、勤務時間選択制、在宅勤務などの柔軟な勤務体制を利用できるよう制度化を推進する。
休暇や休園などで短期的にケアが必要な時に育児休暇を利用できるよう分割利用回数を拡大するなど、育児休暇の弾力的な活用を促進する。子どものカウンセリングなどに柔軟に休暇を活用できるよう、半休など時間単位の休暇(年次休暇、家族介護休暇など)を促進するための支援を拡大する。
中小企業における仕事・育児支援制度の活用障壁解消
基本計画は、誰の目も気にすることなく仕事・育児支援制度を利用できるよう、中小企業の制度活用障壁を解消し、活用度を高めるとしている。
中小企業向けの支援策として、代替労働者の活用を促進するため、出産休暇、育児期の労働時間短縮に加えて、育児休暇の場合も代替労働者支援金を利用できるようにする。代替労働者支援金の上限を2024年の月80万ウォンから2025年は月120万ウォンに引き上げるとともに、代替労働者を雇用した場合だけでなく、派遣労働者を代替労働者として使用した場合にも支援する。育児期に労働時間を短縮した労働者の業務を分担した同僚を金銭的に支援する中小企業事業主に対する支援制度も新設する。
企業の柔軟勤務、育児支援制度の活用など、ワーク・ライフバランス経営に関する評価指標を設定し、それらに基づきワーク・ライフバランス優秀企業を選定し、インセンティブを提供する。法違反が疑われる事業場を対象に労働監督を集中的に実施し、法律上付与された仕事・育児支援制度の利用権を保障する。母性保護申告センターを運営し、仕事・育児支援制度を理由に不利な処遇などが発生した場合、相談から事件の受付・処理までを扱うワンストップサービスを提供する。
女性のキャリア維持、潜在的な人材活用による国家競争力の向上
基本計画は、国家競争力向上のため、女性のキャリア維持を通じた潜在的な人材の活用を促進するとしている。
女性の有望な起業家を発掘し、コンサルティング、早期事業化及び投資誘致支援、優秀起業家表彰などを行い、女性の起業加速化を推進する。女性科学技術者のキャリア復帰支援方式を多様化し、オンラインプラットフォーム(Wブリッジ)を通じてライフサイクルに応じたキャリア管理サービスなどを提供する。
セイルセンター(女性の新しい仕事センター)(注3)で提供している在職女性などを対象とした雇用維持・キャリア開発など、キャリア断絶予防サービスを拡大し、働く女性の労働市場離脱を防止する。
労働市場から離脱した女性の早期再就職を促進するため、年齢層別にカスタマイズされた再就職支援サービスを拡大する。30~40代には、新産業分野(専門科学・情報通信)への進出及び製造業管理・事務職への復帰のため、高スキル職業訓練及び実務経験などの支援を行う。50~60代には、雇用需要の多い業種(保健福祉・宿泊・飲食・卸売・小売)を中心に就業教育及び就職斡旋支援を実施する。
差別のない平等で安全な職場づくりのための支援強化
基本計画は、女性が労働市場で差別されないよう、差別のない職場のために企業・社会の認識を改善し、平等で安全な職場のために、職場におけるセクハラ・性差別の改善支援を強化する。
積極的雇用改善措置制度(AA)(注4)に基づく女性雇用基準を満たすための自律的改善誘導及び名簿公表、オーダーメード型コンサルティングなどを通じて企業の変化を促進する。企業内の男女格差の認識に関する自律的改善を誘導し、透明な情報公開などを通じて求職活動支援及び社会認識を改善する。
採用広告上の違法事項のモニタリングを継続的に行い、違法な採用公告に対しては是正指示・刑事処罰などを通じて是正努力を継続する。是正指示に応じない事業場は、申告がなくても労働委員会に通報し、労働委員会の差別是正制度を通じた積極的な権利救済を図る。
職場内セクハラ、性差別などの被害労働者に対して、相談から権利救済の連携までのワンストップサービスを提供する。
注
- 1人以上の事業場で募集・採用、賃金、教育・配置・昇進など雇用に性差別があった場合、事業主が職場内のセクハラ被害労働者に対して適切な措置義務を負わなかったり、不利な処遇をした場合などに地方労働委員会に差別是正を申請することができる制度。(本文へ)
- 出産・子育て支援などの家族配慮制度や柔軟な勤務制度、家族に配慮した職場風土などを実践している企業や公的機関を表彰する制度。(本文へ)
- セイルセンターは、女性家族部及び雇用労働部傘下の組織で全国に159カ所設置されている。キャリア断絶女性や求職女性などを対象に、職業相談、求人・求職管理、職業教育、インターンシップ、就職支援、就職後の事後管理、キャリア断絶予防などの総合的支援を行っている。(本文へ)
- 積極的雇用改善措置制度とは、積極的措置(Affirmative Action, AA)を雇用部門に適用した概念で、「男女雇用平等及び仕事・家庭の両立支援に関する法律」に基づき、500人以上の民間企業及び公共機関を対象に、女性雇用基準(女性労働者・管理者比率が規模別(1,000人未満、1,000人以上)同種業種平均の70%)に達しない企業に今後の雇用改善措置に関する実施計画書を提出させ、履行実績を点検し不十分な企業に対して履行を求めるものである。(本文へ)
参考資料
参考レート
- 100韓国ウォン(KRW)=10.76円(2024年9月5日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
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