AI市場の拡大で数百万人の人材不足が懸念
中国の人工知能(AI)市場は急速に成長しており、特に生成AIの進展が顕著になっている。この急成長により、当該分野では数百万人規模の人材不足が懸念されている。生成AIの台頭により、多くの企業が新技術の開発に力を入れており、優秀な人材の獲得競争が激化している。その結果、企業は高い給与を提示して優秀な人材の確保に懸命となっている。
AIGC関連職種の需要急増
猎聘(Liepin)ビッグデータ研究院の「就業に関するレポート」によると、2024年第1四半期における生成AI(AIGC、AI-Generated Content)関連の職種数は、前年同期比で321.7%増加したという。この急成長は、AIGC分野の人気が高まっていることを示している。給与水準も上昇しており、平均採用給与は40.87万元に達し、新エネルギー車分野の約22万元を大きく上回る。同時に、AIGC分野への応募者数も急増し、前年同期比で946.84%増加した。
AIGC関連職種の需要割合を見ると(図1)、技術系職能に集中している。特に、アルゴリズムエンジニアの需要が全体の19.30%で最も多く、次にプロダクトマネージャーと自然言語処理の職種がそれぞれ2位と3位になっている。コンテンツ運営やデータラベリングといった実務や運営に密接に関連する職種でも、AIGC関連の人材需要が急増している。
採用時の給与面では、自然言語処理、画像処理アルゴリズム、アーキテクトが上位の3位にランクインしており、それぞれ年収が50万元を超えている。一方、アルゴリズムエンジニアとディープラーニングが4位と5位に入り、いずれも年収が48万元を超えている。このような高い給与水準は、AIGC人材に対する需要の緊迫を反映しており、企業は優秀な人材を引き付けるために高い給与を提示している。
図1:AIGC関連新職種の需要割合と平均採用給与
出所:猎聘ビッグデータ研究院「2024年第1四半期の就業に関するレポート」
政府の取り組み
中国政府は、AI市場の急成長に対応するために、AIの開発を加速させ、複数の分野でAIの応用を広げることに取り組んでいる。2017年7月に国務院が初のAI政策『次世代AI発展計画』(注1)を発表し、AI発展を段階的に進め、2030年までに、「人工知能の基礎理論、技術、応用能力で世界を先導し、AI技術によるイノベーションの中心地となる」という目標を固めた。2021年に発表した「第14次5カ年計画(2021〜25年)および2035年までの長期目標要綱」には、AI政策をさらに進展させるための具体的な方向性が示された。
2024年2月19日、中国国家資金委員会は、「AIによる産業の再活性化」をテーマとした中央企業(中央政府が管理・監督する国有企業)の人工知能に関する専門推進会議を開催した。この会議では、AIの活用を加速し、高品質なデータセットを作成することが求められている。中央企業は、「AI+特別行動」を実施し、需要に基づいた取り組みを強化するとともに、大規模なAIモデルを活用した産業エコシステムの構築を目指している。
AI市場への投資は拡大しつつある。米調査会社IDCの報告によると、中国でのAIへの投資総額は2027年に4,000億ドル以上規模の増加になる見通しだ。また、2022年にはAIGCがAI市場全体の投資の4.6%を占めていた。AIGC技術が急速に進化しているため、2027年にはその投資割合が33.0%に達し、投資額は130億ドルを超えると予想されている。
人材不足と育成
AI業界の人材不足は、専門知識や研究能力、イノベーションが求められることに起因している。特に、大規模モデルの開発には高度なスキルが求められ、そのための人材育成が急務となっている。現在、中国におけるAI人材の供給と需要の比率は1:10であり、需給の不均衡は深刻である。人的資源・社会保障部が2020年に公表した「人工知能(AI)エンジニアの雇用市場現状分析報告」(注2)では、中国のAI分野の人材不足が500万人を超えていると明らかにした。このまま対策などが講じられない場合、2025年には人材不足が1000万人を超える見込みであると指摘している。
現在の中国では特に大都市でAI人材不足の傾向が顕著である。AIデータエンジニアやAIアルゴリズムエンジニアなどの職種に対する需要が特に高まっている。AI分野の人材不足を解消するためには、人材育成を進めることが不可欠である。そのため、大学が人材育成や技術移転を推進し、迅速な人材補充に貢献しようとしている。2018年4月、中国教育部は「大学人工知能革新アクションプラン」(注3)を発表した。2019年には、人工知能が新たに学部専攻として認められ、人工知能技術サービスが高等職業教育の専門分野に加えられた。2023年には、全国で440の大学が人工知能の学部専攻を設置し、1016の専門学校が人工知能技術サービス(応用)の専攻を登録した。
2024年、アメリカのポールソン財団傘下のマクロポロ研究所が発表した「グローバルAI人材トラッキング調査レポート(2.0)」によると、中国で育成されたAI研究者の数は2019年と比較して増加し、中国とアメリカのトップAI人材の数が徐々に近づいてきている。中国は自国の成長するAI産業の需要に応えるため、ここ数年で国内のAI人材プールを拡充してきた。中国が世界のトップAI研究者の大部分を生み出しており、その割合は2019年の29%から2022年には47%に増加している。清華大学と北京大学は「トップ25のAI研究機関」にランクインしている。
一方、このレポートでは、アメリカで博士号を取得した外国人AI人材の約7割は、アメリカに留まることも指摘している。アメリカは依然としてトップAI人材の最も人気のある就職先となる国である。アメリカの機関(Institutions)では、アメリカと中国出身の研究者(学士号取得者)がトップAI人材の75%を占めており、2019年の58%から増加していること、世界のトップAI機関の60%がアメリカに集中していること等についても触れている。
全体として、AI業界の発展は新たな職種の増加を促し、労働市場に新たな活力をもたらしている。しかし、業界の需要を満たすために、迅速かつ効果的に十分な人材をいかにして育成・再訓練できるかが大きな課題となっている。
注
参考文献
- 中国政府網、人的資源・社会保障部、猎聘ビッグデータ研究院、澎湃新聞 マクロポロ研究所
参考レート
- 1中国人民元(CNY)=20.22円(2024年9月20日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
2024年9月 中国の記事一覧
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