「共同雇用」訴訟の控訴を取り下げ
 ―全国労働関係委員会

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全国労働関係委員会(NLRB)は7月19日、「共同雇用」の責任をフランチャイザーなどに拡げる内容の規則の施行をめぐる訴訟で、同規則の無効化を命じた判決に対する控訴を取り下げた。「共同雇用」とは、複数の企業が「共同雇用者(Joint Employer)」として同一労働者の雇用者責任を共同で負うものである。NLRBは2023年10月、共同雇用者の範囲を事実上拡げる内容の規則を発表したが、業界団体などが反発して連邦地方裁判所に提訴した。連邦地裁は3月8日、同規則の違法性を認める判決を出したため、NLRBが控訴していた。NLRBは控訴取り下げの理由を「共同雇用者に関する未解決の問題に対処する選択肢を検討するため」と説明している。

「共同雇用」とは

「共同雇用」とは、複数の企業が「共同雇用者」として、共同で同一の従業員の雇用管理を行うもので、連邦公正労働基準法(FLSA)の下で最低賃金や残業代など雇用主の義務を共同で負う。労働組合との団体交渉に応じる義務も両者に生じる。主に、企業が専門雇用事業者(Professional Employer Organizations、PEO)に給与支払いや社会保険、福利厚生といった人事関連部門の業務をアウトソーシングする際、その企業とPEOの両者に適用される。

政権交代による曲折

2012~14年にマクドナルド社のフランチャイジー店舗に雇用される労働者が、フランチャイザーである本社(マクドナルドUSA)に対して共同雇用者としての不当労働行為を訴えた。これを契機に共同雇用者の範囲をめぐる争いが注目されるようになった。

共同雇用者の範囲をめぐっては、企業や業界団体等の意向を受け、できるだけ限定したい共和党と、労働組合等の主張を踏まえ、その拡大を志向する民主党との間で対立が続いてきた。そして政権交代を背景に、NLRBの判断は曲折をたどった(図表1)。

図表1:「共同雇用」をめぐるNLRBの判断の主な変遷
年月 経緯 政権
2015年8月27日 NLRBが共同雇用者の範囲を事実上拡大する判断を提示(間接的に影響を与える企業なども共同雇用の対象に) オバマ(民主党)
2020年2月26日 NLRBが2015年判断を撤回する規則を施行(実質的で直接・即時的なコントロールを行使する企業のみ共同雇用の対象に) トランプ(共和党)
2023年10月26日 NLRBが2020年規則を撤回する規則を発表 バイデン(民主党)
2023年11月9日 全米商工会議所などが2023年規則を違法だとして連邦地裁に提訴
2024年3月8日 連邦地裁が2023年規則を違法と判断
2024年7月19日 NLRBが連邦控訴裁判所への控訴を取り下げ

出所:現地報道等をもとに筆者作成

NLRBはオバマ政権時の2015年8月27日、従業員の雇用条件に、間接的に影響を与える雇用主らも共同雇用者の範囲に含むとする判断を示した(注1)。これにより、共同雇用者の範囲が事実上広がり、フランチャイズ業界においても、フランチャイザー(本社)がフランチャイジー(店舗)の労働者の共同雇用者と判断される可能性が高まった。

2017年1月に発足したトランプ政権は、業界団体等の意向を受け、共同雇用者の範囲を再び限定する方針をとった。NLRBは2020年2月26日に規則を変更し(以下、「2020年規則」)、「実質的で直接・即時的なコントロール(Substantial direct and immediate control)を行使する」企業だけが共同雇用者の対象になると判断し、先述の2015年のNLRBの判断を撤回した。

2021年1月に発足したバイデン政権は、再び共同雇用の範囲を拡大する政策に転じた。NLRBは2023年10月26日にトランプ政権時代の規則を撤回し、規則を再改定(以下、「2023年規則」)することを発表。共同雇用の認定にあたっては、「実質的で直接・即時的なコントロールを行使する」という状況に限らず、間接的に管理する場合なども該当すると規定し、共同雇用者の範囲を再び事実上拡げた。

具体的には、問題になっている事業体が従業員と雇用関係にあり、直接的か間接的かにかかわらず、従業員の「重要な雇用条件」の1つ以上を共有または共同で決定している場合、事業体は従業員グループの共同雇用者とみなされるとした。その上で、「重要な雇用条件」は、(1) 賃金、福利厚生、その他の報酬、(2)労働時間およびスケジュール、(3)遂行すべき職務の割り当て、(4)職務遂行の監督、(5)職務遂行の方法、手段、手法、および懲戒の根拠を定める就業規則や指示、(6)採用、解雇、雇用期間、(7)従業員の安全と健康に関する労働条件、と定義した。

控訴取り下げの理由

全米商工会議所などの使用者団体、業界団体は2023年11月9日、2023年規則は行き過ぎた規制で違法だとして、その無効化を求めてテキサス州東部地区の連邦地方裁判所に提訴した。連邦地裁は2024年3月8日、2023年規則の違法性を認める判決を出した。こうした中、連邦議会下院は2024年1月12日、同上院は4月10日に、それぞれ議会審査法に基づき2023年規則を無効化する決議案をそれぞれ賛成多数で可決(共和党議員に加え、民主党の一部議員も賛成)。これに対し、バイデン大統領が5月3日、同決議案に拒否権を発動する事態となった。

NLRBは上述の連邦地裁判決を不服として5月7日、連邦第5巡回控訴裁判所に控訴したが、7月19日に取り下げた。その理由について、2023年規則は合法だが、「共同雇用者に関する未解決の問題に対処する選択肢を検討するため取り下げた」と説明している。ブルームバーグ通信など現地報道によると国際サービス従業員労組(SEIU)と米労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)も2023年規則を支持し、2020年規則の撤回を求めていたが、このたび、NLRBに対して、「共同雇用の雇用者責任をめぐる問題は、行政規則ではなく、訴訟を通じて、ケースバイケースで判断すべきだ」として、控訴の取り下げを求める請願書を出しており、これを踏まえた判断とみられる。

NLRBによる訴訟の取り下げや上述の労組の姿勢の背景について、連邦最高裁判所が2024年6月28日に「法律の曖昧な部分を政府の規制当局が解釈できる」という「シェブロン法理(Chevron doctrine)」を覆す判断を示した影響を指摘する声が報じられている。これにより、行政当局の裁量による規制が限定され、本件に関して最高裁で勝訴する可能性が低くなったことから、2023年規則とは異なる対応を検討する必要に迫られたのではないかという見方である。

参考資料

  • 全国労働関係委員会、ブルームバーグ通信、ホワイトハウス、各ウェブサイト

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