外国人季節労働者の受け入れ制度を延長

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政府は5月、現在臨時の制度として実施している外国人季節農業労働者の受け入れについて、2029年まで延長する方針を示した。従来からの人手不足に加え、EU離脱やコロナ禍などで域内からの農業労働者が減少していることもあり、EU域外の新たな送り出し国からの受け入れが拡大しているが、受け入れをめぐっては、搾取的な状況も指摘されている。

長期的には受け入れ縮小を想定

外国人季節労働者の受け入れは、1945年の導入以降、欧州からの受け入れを中心に継続されてきたが、東欧諸国などのEU加盟に伴い、域内での労働力の調達が容易になったことから、2008年に対象国をルーマニア、ブルガリアに限定した後、2014年に一旦廃止された(注1)。しかし、EU離脱やコロナ禍などの影響により、再び恒常的な不足が危惧されることとなり、試行的制度として2019年に再導入されたものだ。当初設定された受け入れ上限は、年間2500人であったが、年々拡大されて現在は農業(園芸作物)労働者4万5000人、鳥肉処理労働者2000人(注2)の計4万7000人が上限とされている。受け入れは政府からの委託を受けた管理機関(operator)を通じて行なわれ、期間は農業労働者が12カ月当たり最長6カ月(期間終了後から次回の季節労働者としての入国まで、6カ月あいだを開けなければならない)、鳥肉処理労働者が最長3カ月とされる。

政府が5月に示した方針は、同制度を2029年まで5年間継続するとするものだ。これは、農業分野における人手不足の状況について、政府の依頼により専門家が2023年にまとめた報告書(注3)において、制度の長期的な安定性の確保が提言されていたことを受けたものといえる。一方で、同報告書が併せて要請していた受け入れ期間の柔軟化(延長等)や、数量制限の廃止の検討などは考慮しておらず、むしろ受け入れ縮小を基本的な方針として掲げている(注4)。国内労働者の調達に向けた業界団体や地方自治体などの取り組みや、訓練施策等によるスキルニーズの充足、あるいはオートメーションの促進などで、外国人労働者への需要を縮小しうる、との想定によるものだ。このため2025年については、農業労働者の上限を4万3000人に削減、計4万5000人の受け入れを認めるとしている(注5)。ただし、専門家報告書も触れている「雇用主負担」の原則(労働者が現在負担している受け入れに係る費用の一部について、受け入れ先の雇用主が負担すべきとするもの)については、検討する意向を示している(注6)

欧州外に労働力の調達範囲を拡大

歳入関税庁が公表している、源泉徴収システムに基づく国籍別被用者数データによれば、農林漁業の被用者のうち15~20%強(ピーク時で5万人前後)を非イギリス国籍者が占めている(図表1)。従来は、そのほとんどが東欧諸国出身者であったが、EU8(ポーランドなど2004年の新規加盟国)、EU2(ルーマニア、ブルガリア)とも減少傾向にあり、とりわけコロナ禍以降はこれに替えてEU域外出身者が増加している。

図表1:農林漁業における国籍別外国人被用者数の推移(人)
画像:図表1
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出所:HM Revenue and CustomsUK payrolled employments by nationality, region, industry, age and sex, from July 2014 to December 2023新しいウィンドウ

一方、内務省が公表する入国許可データによれば、2019年のスキーム再導入時点ではウクライナ出身者が大半を占めていたものの、ロシアによる軍事侵攻を挟んで受け入れが急速に減少、これに替わる送り出し国として、キルギスやタジキスタンなどの中央アジア諸国、またインドネシアやネパールなどの新たな国からの受け入れが2022年に拡大した(図表2)。しかし、インドネシアとネパールについては、現地の人材募集エージェントによる労働者からの違法な斡旋料金の徴収や、約束された仕事が与えられず、渡航に要した多額の借金が返済できない労働者を生んでいる、といった実態が明らかとなり、関係した管理機関がライセンスをはく奪される状況も生じた(注7)。結果として、2023年時点では中央アジア諸国からの受け入れが主となっている。

図表2:季節農業労働ビザの国籍別発行数
画像:図表2
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出所:Home Office 'Immigration System Statistics, year ending March 2024新しいウィンドウ (Entry Clearance Visas - Applications and Outcomes)

帰国後の季節労働者に対して政府が実施している調査(注8)からも、送り出し国による状況の違いが窺える。例えば、インドネシアからの季節労働者の69.7%が斡旋料金を支払っていた(全体平均は9.1%)ほか、54.1%が訓練費(同6.4%)、68.6%が医療費(同13.0%)の名目で費用を負担するなど、就労に先立って3000ポンド以上を支出していた層が61.6%にのぼった(大半の国では約9割が1000ポンド未満)。また、就業期間も相対的に短期に留まったと見られる(注9)。一方で、就業先での居住環境や労働条件(賃金、労働時間等)などについては8~9割が「満足した」と回答しており(図表3)、イギリス国内における搾取等の被害は比較的限定的とも推測されるが、実態は不明だ。

図表3:生活・労働条件に関する項目別「満足した」と回答した比率
画像:図表3
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出所:DEFRA and HMRCSeasonal workers survey results 2022

なお、現地報道によれば、季節労働者が受け入れ先企業を雇用審判所に提訴した初のケースについて、5月に審理が開始された(注10)。ネパール出身の女性労働者が、賃金未払いや差別を訴えたもので、支援団体であるWork Rights Centreは、もし原告が勝訴することができれば、同様の境遇にある季節労働者が雇用主からより多くの賃金を勝ち取るための先例になり得る、と述べている。

新政権は取り締まりを強化か/諮問機関は制度の柔軟化と取り締まり強化を提言

7月の総選挙により成立した労働党政権は、季節労働者の受け入れ自体について明確な方針は示していないものの、外国人労働者への依存は終わらせるべきとの立場から、政府の諮問機関であるMigration Advisory Committeeが技能関連組織や政府機関などと連携して、保健・介護業や建設業などで労働力・訓練プランを設置するとの方針を示している(注11)。また、雇用主や人材募集事業者による不正な受け入れや、雇用法の違反に厳格に対応するとしている。

一方、諮問機関Migration Advisory Committeeが7月に公表した季節労働者受け入れスキームに関する報告書(注12)は、現状の食品生産の水準を維持するためには、スキームを通じた外国人労働者の調達が当面必要であると分析、より長期的に外国人労働者への依存を弱めるためには、オートメーション化の促進に向けた適切な政策と環境を整備すべきであるとしている。今後のスキームの在り方については、①長期的な確実性の提供(5年後までの方針を毎年公表、スキーム引き締めの場合は基準を明示)、②滞在期間の柔軟化(帰国から再入国を認めるまでの期間を現行の6カ月から3カ月に削減し、暦年で年間6カ月の上限まで時期を選ばず就労を認める等)、③公正さの改善(最低2カ月分の賃金保証により、季節労働者のコスト負担リスクを軽減)、④労働者の権利の厳格化、周知、執行強化、⑤雇用主負担原則の検討、の5点を提言している。

参考資料

参考レート

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