未成年労働の規制の緩和と強化
 ―各州で動き

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  • 国別労働トピック:2024年6月

連邦公正労働基準法(FLSA)は18歳未満の未成年労働(非農業部門)について、食肉加工など危険な作業への就労制限(16~17歳)、小売りやサービスへの就労許可(14~15歳)などを定めている。また、州によっては未成年労働に際して、州労働局や学校から雇用許可等を得ることなどを条件としている。こうした中、人手不足による企業の要求などを背景に、FLSAの基準を上回る規定や、独自に定めた雇用許可等の要件を緩和・撤廃し、18歳未満の就労機会を拡げようとする州がある。その一方で、未成年労働違反への取り締まりや規制を強める州もある。

連邦法による規制

FLSAは非農業部門における18歳未満の未成年労働を規制している(図表1)。14歳未満は俳優(子役)などを除き原則として使用を禁止。14~15歳については修学時間外に小売りやサービス関連の仕事に就くことを認める。例えば、レストランやファストフード店などのレジ係、配膳係、清掃係、調理係(直火での調理を伴わないなど簡易な作業)などで働くことができる。就労時間は、学校のある日(金曜日を含む)に3時間、学校がない日に8時間を超えてはならない(開校中は週18時間、閉校中は週40時間をそれぞれ超えてはならない)。また、深夜帯を含む19:00(夏季=6/1~9月の第一月曜日は21:00)~翌朝7:00は就労できない。

16~17歳に上述の職種や就労時間の規制はないが、労働長官の定める危険な業務(食肉加工・スライス、チェーンソーなど動力駆動木工機械・製パン・製紙機等の操作、自動車の運転、貨物の積み下ろし、フォークリフトの運転、成形機など金属加工械の操作、屋根葺き、爆発物製造、船舶解体、採掘、掘削など)への就労を禁じている。

図表1:連邦法による主な未成年者労働規制(非農業部門)
年齢 主な規制内容
14歳未満 俳優(子役)などを除き原則禁止
14~15歳 修学時間外に小売りやサービス関連業務への就労可能(就労時間等の規制あり。製造業や鉱業等への就労は不可)
16~17歳 危険業務(食肉加工・自動車運転・金属加工機操作等)への従事を禁止

出所:連邦労働省ウェブサイトより作成

なお、連邦最低賃金は時給7.25ドルだが、20歳未満の労働者に対しては、雇い始めてから90日間は時給4.25ドルとしている。ただし、州や市などの最賃が連邦の水準を上回る場合、前者の最賃が適用される。例えばカリフォルニア州では、年齢による規定ではないが、初心者(learner)の最低賃金を就労から160時間は州最賃(2024年6月現在、時給16ドル)の85%(時給13.6ドル)以上としている。

州による独自の規制

FLSAの規制とは別に、州によっては未成年労働に際して、雇用主や就労者らが州労働局や学校等から雇用許可証(Employment certificate)や年齢証明証(Age certification)を得ることなどを条件に設定している(注1)。対象となる年齢などの要件は州で異なる。例えばカリフォルニア州では18歳未満の生徒が学校と州労働局を通して雇用許可証を取得し、雇用主に提示する必要がある。ニューヨーク州などではこれに加え、生徒が学校から年齢証明証を取得しなければならない。また、FLSAより厳しい就労時間規制を設ける州もある(注2)

違反件数が増加

連邦労働省が2023年10月に発表した統計資料によると(注3)、賃金・労働時間局による調査・取り締まりを通して、未成年労働違反で就労していることが判明した者の数は、2022年度(2021年10月~22年9月)の3,876人から2023年度(22年10月~23年9月)には5,792人に急増した。未成年労働違反で雇用主が支払った罰金(民事)の総額は22年度の438万6,205ドルから23年度に803万9,728ドルへと大幅に増えている(図表2)。

図表2:未成年労働違反判明者数と罰金(民事)総額の推移
画像:図表1

出所:連邦労働省

背景に人手不足も

未成年労働増加の背景のひとつに人手不足があるとみられる。ブルームバーグ通信によると、コロラド州の建設業、宿泊業、飲食業、小売業などの経営者団体は人手不足を訴え、未成年者を対象にした雇用許可証の取得条件撤廃などの規制緩和を求めている。これにより未成年者が在学中に、就労経験を積みやすくなるといったメリットをあげている。ミズーリ州やアラバマ州では同様の規制緩和を盛り込んだ法案の審議が議会でなされた。ウィスコンシン州ではこうした内容を含む法案を議会で可決したが、州知事が拒否権を行使した。

フロリダ州のデサンティス知事は3月22日、16~17歳の生徒の就労について、州独自に設けていた規制を緩和・撤廃する法案に署名した。具体的には、(1)翌日に学校がない場合の夜勤の禁止を撤廃、(2)修学日前日の日曜日や祝日に8時間以上働くことを許可、(3)開校期間中に週30時間以上働くことを、親による許可証への署名を条件に容認、した。インディアナ州などでも、未成年労働者の就労時間規制を緩和する法案を制定している。

リベラル系研究機関「経済政策研究所(Economic Policy Institute, EPI)」によると、2021年以降、全米50州のうち31州で、上述のような未成年労働者の保護措置を緩和する法案が提出されている(注4)

規制強化・保護拡大の州も

一方、未成年労働の取り締まりや罰則を強化する州もある。コロラド州では6月4日、未成年労働違反の雇用主に対する罰金を増額した。未成年労働違反を当局等に報告した労働者に対する報復を禁じる措置も設けている。ミネソタ州でも報復措置の禁止を含む改正法が5月15日までに州議会で可決された。

労働者支援団体「全国雇用法プロジェクト(National Employment Law Project, NELP)」によると、ユタ、ミネソタ、ニュージャージー、ロードアイランドの各州では、20歳未満の労働者を対象とする低い最低賃金を撤廃(通常の労働者と同額化)する法案が提出されており(注5)、未成年労働者の権利保護を拡大する動きもみられている。

参考資料

  • カリフォルニア州、経済政策研究所(EPI)、全国雇用法プロジェクト(NELP)、ブルームバーグ通信、フロリダ州、連邦労働省、各ウェブサイト

参考レート

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