不法移民の入国規制を厳格化
―大統領令公布、南西部国境
バイデン大統領は6月4日、メキシコとの南西部国境から不法に入国する者が一定数に達した場合に、不法移民の入国規制を厳格化し、亡命申請を一時停止する大統領令を公布した。不法入国者と遭遇(国境警備隊による拘束等)した件数が7日間に1日平均2,500人以上に達した場合、その直後の東部時間午前0時1分から原則として入国・申請停止の措置をとる。7日間の1日平均1,500人未満に減った場合、その14日後に打ち切る。
増加する不法移民
民間調査会社ピューリサーチセンターの推計による 2021年の米国における不法移民の数は 1,050 万人で、国・地域別に見ると、メキシコが 405 万人と最も多い(注1)。「北部三角地帯」といわれる中米3カ国(エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス)も 200 万人にのぼり、近年急増している。米国労働者の4.6%が不法移民だとも推計している。
税関・国境警備局(CBP)によると、2023年12月に南西部のメキシコ国境付近で国境警備隊等が拘束した不法移民は約30万2,000人(前年同月比約20%増)に達した(図表1)。メキシコ人のほか、ベネズエラ、グアテマラ、ホンジュラスなどの国籍の人も多い。
図表1:南西部国境で不法入国した拘束者数の推移 (単位:人)
出所:税関・国境警備局ウェブサイトより作成
トランプ前政権は2020年3月に新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、メキシコ国境で拘束した人を、原則として亡命の審査をせずに国外退去させる措置「タイトル42」を施行した。だが、21年1月のバイデン政権発足後は、移民に寛容であるという印象から移民規制の緩和を期待して米国に来ようとし、国境で拘束される者が急増。拘束者数はトランプ前政権時の2020年12月に7万人台だったが、翌21年1月にバイデン政権が発足してからは、毎月15~25万人にのぼるようになっていった。
バイデン政権の対応
バイデン政権(連邦国土安全保障省)は2023年5月11日に「タイトル42」の適用を終了させた。新たな規制として、合法的な入国手続きを経ず、本国で迫害や拷問を受ける合理的な恐れがない者について、亡命申請の資格がないと推定して本国に送還することなどを定めた(同10日施行)。不法入国者には最長5年間の再入国を禁じ、違反すると刑事罰を受ける可能性があることとした。
それでも南西部国境で拘束される不法移民の入国は減らず、より厳しい措置をとる必要に迫られていた。今回の大統領令及び同日に発表した国土安全保障省・司法省の規則では、メキシコとの南西部国境において、不法入国者との遭遇件数(国境警備隊に拘束された者等の数)が7日間の1日平均で2,500人以上に達した場合、その直後の東部時間午前0時1分から亡命申請の受理を一時停止し、メキシコや本国に送還する措置をとることとした。
ただし、同伴者のいない子どもや深刻な形態の人身売買の被害者、急病人、生命・安全に対する差し迫った極端な脅威に直面する者らは入国規制の対象から除外する。CBPの入国手続き用アプリ「CBP One」にアクセスし、事前に入国手続きの予約申請をした者にも適用しない。遭遇件数が7日間の1日平均1,500人未満に減った場合、その14日後に措置を打ち切る。
現在の制度では、亡命希望者は申請すれば、審査のため米国に一時滞在できる。だが、収容施設がなく、仮釈放されて不法移民になるケースが多い。今回の措置により、原則として、こうした入国・滞在が難しくなる。ただし、国境警備隊の増員などを含む超党派法案は連邦議会で成立しておらず、十分な執行体制をとれるかどうかは不透明だ。
こうしたなか、バイデン大統領は2024年6月18日、米国に10年以上滞在し、米国市民と合法的に結婚している約50万人の不法移民と、米国籍の親を持つ約5万人の21歳未満の子どもに対する救済策を発表した。対象者は連邦国土安全保障省が個別審査のうえ、強制送還を3年間猶予し、この間就労許可を受け、米国内で永住権を申請できるとしている(注2)。
テキサス州の対応
2022年春以降、ニューヨーク市などで不法入国者が急増した。同市には亡命を求めた人を施設に収容する条例がある。こうした保護施設は市内に200カ所以上あり、収容者数は2024年3月までに、のべ約18万3,000人にのぼった(注3)。2024年3月10日現在、約6万4,600人を収容している。メキシコ国境に接し、不法移民の増加に直面するテキサス州は、こうした条例のある都市などに、不法に入国した亡命希望者らをバスなどで移送する措置を実行。州知事室ウェブサイト(2024年1月12日発表)によると、2022年8月以降、ニューヨーク市に3万7,100人以上、ワシントンD.C.に1万2,500人以上、シカゴに3万800人以上を移送している(注4)。
また、テキサス州では2023年12月18日、不法移民の取り締まりの強化などを内容とする一連の州法に知事が署名して成立した(注5)。これらの法律は、①国境の壁建設や州兵による警備への資金拠出、②テキサス州における不法入国を州への犯罪とみなして逮捕し、最長20年の懲役刑などの罰則や、強制送還の仕組みを設ける、③不法移民に対する支援や隠れ家の運営に対する罰則の強化(懲役期間の引き上げ)などを内容とする。バイデン政権などは、「不法移民対策は連邦政府の責務だ」として州による逮捕権を否定し、②の州法の差し止めなどを求めて提訴。連邦控訴裁判所は3月27日、同法の合憲性に関する審査中の差し止めを命じるなど、司法の場での争いとなっている。
注
- ピュー・リサーチセンター・ウェブサイト参照(本文へ)
- ホワイトハウスウェブサイト参照(本文へ)
- ニューヨーク市ウェブサイト参照(本文へ)
- このほか、フィラデルフィアに3,400人以上、デンバーに1万5,700人以上、ロサンゼルスに1,500人以上を移送している。テキサス州知事室ウェブサイト参照
なお、テキサス州知事は共和党出身で、移送先自治体の首長はいずれも民主党出身。今回のテキサス州の対応は、不法移民対策の強化を求める共和党出身の知事が、寛容な政策を唱える民主党出身者の治める自治体の首長に、バイデン民主党政権がもたらしたとする不法移民増加に具体的な対策を担うよう迫った側面があるとみられる。(本文へ) - テキサス州知事室ウェブサイト参照(本文へ)
参考資料
- ホワイトハウス・ウェブサイト
- 国土安全保障省ウェブサイト
- 税関・国境警備局、テキサス州、日本貿易振興機構、ニューヨーク市、ブルームバーグ通信、連邦労働省、各ウェブサイト
2024年6月 アメリカの記事一覧
- 未成年労働の規制の緩和と強化 ―各州で動き
- 不法移民の入国規制を厳格化 ―大統領令公布、南西部国境
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