介護者休業制度の導入
家族などへの介護を理由に、被用者に対して年1週間分の無給の休業の権利を認める介護者休業制度が、4月に導入された。介護責任のある被用者の雇用と介護責任の両立を支援し、就労の維持を促すことが企図されている。
従来の制度と導入の意図
制度導入に関する介護者休業法(Carer’s Leave Act 2023)(注1)は、既に2023年5月に成立していたが、実施に関するより詳細な内容を定めた規則(Carer’s Leave Regulations 2024)の成立を待って、2024年4月より制度が導入された。政府の分析(注2)によれば、国内で私的に(注3)介護を行っている層(就労・非就労を問わず)は約420万人で、今後の人口の高齢化によりさらなる増加が想定されている(注4)。介護者は、離職や労働時間の削減、昇進への消極性、就業形態の不安定さや欠勤などの傾向が強いとされ、このため、法定の介護休業制度を下限として導入することで(注5)、介護者の雇用と介護責任の両立を支援し、就労の維持を促すことが企図されている。
従来から、家族等への育児・介護に関連した無給の時間単位の休業制度(time off for family and dependants)はあったものの、緊急の状況への対応を理由とすることが前提とされている(注6)。介護者休業制度は、より長期的な状況への対応を前提に、被用者に事前通知を義務付ける一方で、雇用主には原則として取得を認めることが求められる。
週当たり勤務日数分の介護休業が取得可能に
新たに導入される制度は、年間に週当たり勤務日数分(週5日勤務の場合は年間に5日間)の無給の介護休業の取得を認めるもので、週によって勤務日数が変動する場合は、年間の勤務日数から算出された週平均日数が用いられる(介護者休業規則6条)。就業初日から取得の権利が認められ、半日単位からの取得が可能だ(規則5条)。介護対象の範囲は、家族のほか被用者による介護(手配)を必要とする者で、3カ月を超えて治療等が必要な身体的・精神的疾病または怪我の状態にあるか、障害(平等法の定義による)(注7)あるいは高齢を理由に介護を要することが条件とされる(介護者休業法2条)。労働者は取得に際して、取得予定の介護休業の日数の倍相当もしくは取得日の3日以上前のいずれか早い時期に、雇用主に通知することが求められる(例えば半日の取得の場合、3日前に通知)(規則7条)。
雇用主は、取得を拒否することはできない(注8)が、取得が事業運営に過度の支障となると考える場合には、1カ月を超えない範囲で、同等の期間の休業を与えることや、書面での理由等の提示(通知から1週間以内または通知された休業開始日より前に)などを前提に、取得時期を延期することができる(規則8条)。
休業期間中は、休業を取得しなかった場合と同等の雇用条件(休暇等)を適用することとされ(規則9条)、また被用者が職場に復帰する際には、休業取得前と同等の仕事に戻る権利を有する(規則10条)。雇用主は、介護者休業の取得またはその予定、あるいは取得が想定されることを理由とした不利益な扱いや(規則11条)、解雇(規則12条)を行ってはならない。なお被用者は、雇用主による不合理な休業の延期や妨害について、雇用審判所に申し立てを行うことができる(法3条)。
注
- 主に1996年雇用権利法(Employment Rights Act 1996)の改正により、介護休業制度に関する規定を新たに設ける内容となっている。(本文へ)
- 介護者休業法案の影響評価文書(PDF:756KB)による。(本文へ)
- 政策文書では、「私的な」(informal)あるいは「無給の」(unpaid)介護者との表現が多く見られ、本来公的・有償サービスによって担われるもの、という前提が類推される。(本文へ)
- 今後50年のうちに、現役層の被介護者に対する比率は現状の4:1から2:1に減少すると推計されている。(本文へ)
- 法案提出に先立って実施されたパブリック・コンサルテーションにおける政府の回答文書は、非営利団体や個人からは有給での提供に関する強い要望もあったものの、雇用主への影響を配慮して無給とするとして、可能な雇用主はより長期の休業や有給での提供を行えば良い、との立場を示している。(本文へ)
- 育児目的の休業制度としてはこのほか、子供が18歳になるまでに通算で4週間の無給の休暇を認める両親休暇(parental leave)制度がある。(本文へ)
- 2010年平等法6条は、「障害がある」状態について、身体的または精神的な機能不全があり、その機能不全が通常の日々の活動を行う能力に相当かつ長期の悪影響を及ぼす場合、としている。(本文へ)
- 助言・斡旋・仲裁局(ACAS)のガイダンスによる。なお、雇用主は休業の許可に際して、労働者に介護に関する証拠の提出を求めてはならない。(本文へ)
参考資料
- Gov.uk、UK Parliament ほか各ウェブサイト
2024年6月 イギリスの記事一覧
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- 介護者休業制度の導入
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