外国人の増加に減速の兆し
EU離脱以降、制度変更の影響などから、就労・就学などを目的とする外国人の大幅な増加が続いてきたが、ここにきて減速の兆しが見られる。また、この間に急増した介護労働者の受け入れを巡っては、受け入れ先による不正や搾取などの問題も指摘されている。
就労目的の入国が継続的に増加
統計局が5月に公表した移民統計によれば、2023年12月までの12カ月における外国人等の純流入数(流入者数から流出者数を差し引いたもの)は68万5000人で、EU離脱以降、EUからの外国人が減少する一方で、EU域外からの外国人の流入が急激に拡大、大幅な純流入の状況が続いている。ただし、前年(2022年12月までの12カ月)の純流入数76万4000人からは、増加幅が縮小傾向にある(図表1)。
図表1:出身(国籍)別流出入者数の推移
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注:各期のデータは直近12カ月(YE:year end)のもの。また2023年3月~12月は暫定値(P)。
出所:Office for National Statistics ‘Long-term international migration, provisional: year ending December 2023’
純流入数の主な増加要因であるEU域外出身者の流出入を見ると、就労目的の純流入数が継続的に拡大する一方で、就学目的や人道的受け入れ(ウクライナ・香港)の純流入数が減少する傾向にあり、これが全体の増加幅の縮小につながっている(図表2)。
図表2:EU域外出身者の純流入数の内訳
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注:「その他」には、人道的受け入れ(ウクライナ、香港等)、難民申請者等を含む。
出所:同上
一方で、就労目的の入国者は、EU離脱後の新制度(注1)が導入された2021年以降、顕著に増加しており、特に2022年に受け入れ条件が緩和(注2)された保健・介護ルートによる入国者の拡大の影響が大きいと見られる(図表3)。内務省が公表する入国許可の発行数に関するデータによれば、保健・介護ルートの入国許可は2023年におよそ35万件発行され、2021年からは5倍以上の拡大となる。インド、ナイジェリア、ジンバブウェなどの出身者が多くを占めるこの分野の入国許可件数には、主申請者を上回る数の家族の帯同が含まれる(注3)。
図表3:就労目的の入国許可件数の推移
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注:2008年のポイント制導入以前の受け入れは「その他」に合算。
出所:Home Office 'Immigration System Statistics, year ending March 2024 (Entry Clearance Visas - Applications and Outcomes)
しかし、四半期毎のデータによれば、保健・介護分野の入国許可の発行数にも減速が見られる(図表4)。これには、受け入れ事業者に対する2023年中からの取り締まりの実施に加え、2024年に入ってからの全般的な対応策の一環として、介護労働者に対する家族帯同の禁止や、受け入れ先となる介護事業者に対する医療・介護規制当局(Care Quality Commission)への登録義務化(いずれも3月~)などの影響が推測される(注4)。個別の施策の効果は不明だが、2024年第1四半期の保健・介護ルートの入国許可発行数のうち、主申請者については約9000件と大幅に減少しており(前年同期の約4分の1)、既に入国した労働者に関するものを含むとみられる家族帯同の発行数が大半を占める結果となっている。
図表4:専門技術者、専門技術者(保健・介護)の主申請者・家族向け入国許可の推移
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出所:同上
介護労働者の受け入れ状況には問題も
介護労働者の受け入れ緩和は、国内の介護労働者不足への対応を目的としたものだが、その受け入れ状況をめぐっては、問題も指摘されている。
政府が設置している国境・移民独立首席検査官(Independent Chief Inspector of Borders and Immigration)が作成した報告書(注5)は、介護労働者の受け入れに関連した検査結果をまとめている。これによれば、受け入れ先として内務省の認証を受けた事業者は、2020年末の3万2264組織から、2023年11月には9万4704組織に増加しているが、悪用の可能性を認識していたにもかかわらず、審査はほぼ行われなかったとしており、極端な例では架空の事業者に数百件のビザを割り当てるといった状況を招いている、と指摘している。
また、労働者あるいは市民としての権利に関する知識に乏しい外国人は、搾取の対象となりやすいと見られる。調査官に提出された証言では、在宅介護労働者300人を対象とした調査で、75%が最低賃金を下回る賃金を受け取っていたとの結果が報告されているほか、約束されていた仕事を与えられない、あるいは長時間労働を強いられるなど、様々な形での搾取に直面しがちであるとされる。しかし、解雇されて滞在資格を失うことを恐れて、雇用主に訴えにくいという。政府は、報告書に対する回答文書(注6)において、報告書が課題として提言する諸点には原則として賛同しつつ、いずれも既に報告書に先んじて取り組みを始めており、これを進めるとの立場を示している。
一方で、悪質な事業者に対する取り締まりの強化は、別な問題の発生源ともなっていると見られる。現地メディアによれば、介護事業者が受け入れ先としてのライセンスをはく奪された結果として、外国人労働者のビザが無効となったケースは、2022~23年の期間で3000件以上にのぼる(注7)。こうした外国人は、新たな雇用先(スポンサー)を見つけない限り国内に留まることはできないが、その期間は60日に限定されており、しばしば困難な状況に直面するという。
政府は上記の回答文書でこの問題に触れ、ライセンス停止・取り消しを実施した場合は、その情報を所管省庁や関連の業界団体、自治体などに通知することで、再配置を後押しすることにつながるだろう、としている。
注
- EUを含む欧州経済領域との間の移動の自由を廃止し、EU域外と同等のルールを適用する一方、受け入れ可能な職務レベルの引き下げや、労働市場テスト(国内での一定期間の求人義務)の廃止、旧専門技術者の受け入れルート(第2階層の「一般」カテゴリ)に課されていた数量制限の停止などの緩和措置を実施。(本文へ)
- 介護労働者(care worker)は本来、受け入れ可能な職種に関する規定の技能水準を下回るが、労働力不足職種リストに掲載することで例外的に受け入れを認めることとした。同リストに置き換わる形で4月より導入された「移民給与額リスト」(Immigration Salary List)にも、引き続き介護労働者は記載されており、通常の専門技術者の受け入れ時より低い給与額の下限(2万3200ポンド)が適用されている。(本文へ)
- 例えば2023年の発行数34万9929件のうち、家族向けが20万3452件(58%)。同時期の専門技術者向けでは、発行数11万7865件のうち家族向けは5万2099件(44%)。(本文へ)
- このほか、受け入れにおける給与基準の引き上げなど(年2万960ポンドから2万3200ポンドに引き上げ)。また、就学目的の入国者の多く(修士以上の研究コース及び政府出資のスカラーシップの参加者)についても、同様に家族帯同を禁止した。(本文へ)
- ”An inspection of the immigration system as it relates to the social care sector (August 2023 to November 2023)”(本文へ)
- Home Office ‘The Home Office response to the Independent Chief Inspector of Borders and Immigration’s report: An inspection of the immigration system as it relates to the social care sector’(本文へ)
- The Guardian ‘Revealed: thousands of ‘innocent and abandoned’ migrant care workers told to leave UK’ (11 May 2024)(本文へ)
参考資料
参考レート
- 1英ポンド(GBP)=198.36円(2024年6月5日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
2024年6月 イギリスの記事一覧
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