「中級熟練人材」への転換政策と効果
台湾では、人口構造の変化に応じて産業での人材維持や家庭看護の需要が増加していることなどを踏まえ、2022年4月に外国人労働者の受け入れ政策に大きな変更を加えた。これにより「外国人労働者定着プログラム(移工留才久用方案)」を開始し、雇用主が優秀で経験豊富な外国人労働者を中級熟練人材に転換する支援を行っている。
就労期間の上限を事実上撤廃
「外国人労働者定着プログラム」に基づき、一定の技能や給与水準などの要件を満たした外国人労働者が中級熟練人材になった場合、就労期間の上限が事実上撤廃され、さらに5年後には永住権の申請が可能となった。対象業種は産業類(製造業、建築業、農業、海洋漁業)と社会福祉類(施設介護、家庭介護)、およびその他中央政府が指定した国家重要産業などとなっている。
経験豊富な外国人労働者に対して、6年以上の勤続などの条件を満たす場合、雇用主は産業類(製造、建設等、以下同)では月給3.3万台湾ドル以上または年間総収入50万台湾ドル以上、施設介護では2.9万台湾ドル以上、家庭介護では2.4万台湾ドル以上の給与を支払えば、中級熟練人材へ転換し雇用することができることとした。
多くの雇用主が給与水準を引き上げ
なお、雇用主が外国人労働者の技能と居留意欲を考慮し、申請時の段階で給与を産業類では月給3.5万台湾ドル以上、施設介護では3.1万台湾ドル以上、家庭介護では2.6万台湾ドル以上に引き上げれば、技能証明書の提出を免除できるようにしている。
台湾労働部によると、同政策の下で2024年3月末までに外国人中級熟練人材が2万6,545人認定され、その内訳は産業類が1万805人、社会福祉類が1万5,740人である。技能証明書を免除し、給与を引き上げて申請する割合は、産業類では83.3%、家庭介護では81.7%、施設介護では86.5%を占める。多くの雇用主が給与水準の引き上げで対応しており、外国人労働者の中級熟練人材への転換後に給与待遇が実質的に向上したことを示している。
同制度の雇用主のメリットとしては、優秀な人材を確保し、就業安定費(外国人雇用税)を支払う必要がなくなり、雇用負担が軽減されることがある。さらに、外国人労働者が中級熟練人材に転換した後、新たな外国人労働者を追加で申請することもでき、労働力を柔軟に活用できる。一方、台湾に滞在する外国人労働者が長く働けるようになることで就労意欲が高まり、雇用主と労働者の双方に利益がもたらされる。
「サポートセンター」を設置する県も
行政手続きを簡素化し、中級熟練人材への転職や雇用の継続を円滑にサポートするため、労働部は2023年12月、新竹県に「外国人労働者定着プログラムのサービスセンター(移工留才久用中心)」を設立した。専用窓口を設け、雇用主にプログラムの内容や申請規定を理解させ、申請手続きに関する困難や疑問を解決する。審査期間を短縮するため、申請資格や文書準備の適切さを確認し、雇用主が簡易で迅速な申請を行えるよう支援する。さらに、カウンターサービス、電話相談(電話番号:1955)、専門スタッフによるプロジェクトトラッキング(進捗管理)、書類確認の協力により、審査を促進し、公式ウェブサイト情報の検索と参照サービスなどを提供する。
この政策により、雇用主の負担軽減、労働力の補完、企業での安定性の向上が期待されている。労働部は2030年までに14万人の外国人中級熟練人材を雇用する目標達成をめざしており、雇用主の申請意欲の高まり、需要の拡大が進んでいる。
参考文献
- 労働部労働力発展署、直接雇用センター、移工留才久用中心、各ウェブサイト
- 労働政策研究・研修機構(2024)『韓国・台湾の外国人労働者受入制度と実態―非熟練を中心に』(資料シリーズNo.281)
参考レート
- 1台湾ドル(TWD)=4.86円(2024年5月30日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
2024年5月 台湾の記事一覧
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