家事労働者に労働者の権利と社会的保護を
 ―ILO新政策概要

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  • 国別労働トピック:2024年4月

ILO(国際労働機関)は2024年3月8日の「国際女性デー」にあたり、政府、労働者および使用者団体等に向け、家事労働者(Domestic Workers)が労働者の権利と社会的保護を受けられるよう求める新しい政策概要資料(Policy Brief)「世界的なケア危機から、家庭での質の高いケアへ:家事労働者をケア政策に包摂し、職場での権利を保障する事例(以下、「新政策概要」)」を発表した。多くの国で高齢化が進み、有償ケアのニーズに供給が追いつかない「ケア危機」に直面している。「新政策概要」は、各関係者に対応を促した。その主な内容を紹介する。

家事労働者の権利保障と女性の社会進出

ILOの推計によると、世界の家事労働者7,560万人のうち女性が4分の3を占める。女性の社会進出が十分ではない中、家事労働者の権利を保障することはジェンダー平等を達成する鍵となる。

多くの国が深刻な労働力不足に直面し、女性の労働参加率を高めようと模索している。女性の労働参加を高めることは、質の高い十分なケアサービスをその女性自身が利用できるかどうかに依存する。こうした家事労働を含むケアサービスは、求職者を引き付ける高い質(労働条件等)を備えたものでなければならない。しかし、現状では、家事労働はディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)からほど遠い状況にある。

家事労働者自身がケア政策の恩恵を受けられず

家事労働者は、国の政策やシステムの一環として、家庭のケアの需要に応えるために働いている。世帯での直接雇用か公的・民間業者を通じての雇用かどうかにかかわらず、ケアの提供に欠かせない役割を果たしている。世帯での直接雇用だけを見ても、看護師や医師、個人介護従事者らを含む有償の全ケア労働者(All paid care workers)の25%以上を家事労働者が占める。ケア部門への投資が進んでいない国では、その割合はさらに高い。

しかし、家事労働者自身は、国のケア政策やケアシステムの恩恵を受けられていない場合が多い。労働者の権利や社会的保護から外れ、母性保護、児童手当、育児や介護サービスなどを受けられていない。特に移民や、民族的出自などを理由に様々な差別にさらされている家事労働者ではその割合が高い。

家事労働者がフォーマルな雇用やディーセント・ワークを享受できるかどうかは、以下に左右される。

  • ケアの組織と資金調達
  • 雇用形態(世帯による直接雇用かサービス業者を通した雇用か)
  • 労働法および社会保障法の適用範囲

家事労働者のディーセント・ワーク享受のために

家事労働者がディーセント・ワークを享受し、国のケア政策の枠組みの中でケアが受けられるように、ILO「新政策概要」は政府、労働者・使用者団体に、以下のとおり促す。

  • 家事労働者をケアワーカーとして認識し、国のケア政策・社会保障制度における「ケア提供者」に含める。
  • ILO第189号条約(2011年家事労働者条約)(注1)の批准と実施などにより、労働者の権利、社会的保護、家事労働者のニーズを満たすケアサービスへのアクセスを確保する。
  • 家事労働者の技能を認め、十分な報酬や給付を確保する。
  • 家事労働者が子どもや高齢者、サポートが必要な障害者、長期介護を必要とする人々に対して重要な役割を担っていることの認識を高める。
  • 国のケア政策の採用に当たっては、ILOの「家事労働者のためのディーセント・ワークへの道(“The Road to Decent Work for Domestic Workers”)」(注2)を活用する。
  • 家事労働者とその雇用主の双方の声が、社会対話に含まれるようにする。

2035年までに3億人規模の雇用創出も

ケアを必要とする人の数は、平均寿命の延びなどもあり、今後数年でさらに増加することが見込まれている。上述した「新政策概要」の報道発表資料によると、ILOは2030年までに15歳未満の子ども19億人、健康寿命を超えた高齢者2億人のケアが必要になると推計している。これは、2015年に比べ計2億人の増加となる。

また、国連は、世界人口に占める高齢者(60歳以上)の割合が2020年の13.5%から2050年には21.4%、2100年には28.2%に上昇し、介護ニーズが高まると予測している。こうした人口動態の変化により、ケアに関する経済は成長が見込まれる。需要に応じた投資を行い、ケア労働者にディーセント・ワークを保障すれば、「ケア経済」は2035年までに3億人規模の雇用を創出し、ジェンダー格差を縮小する可能性があるという。

参考資料

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