強制労働による違法利益が年間2,360億ドルに増加

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ILO(国際労働機関)が3月19日に発表した報告書によると、民間経済における強制労働による違法利益、被害者数ともに大幅に増加している。

違法利益は1人当たり約1万米ドル

ILO報告書「利益と貧困:強制労働の経済(Profits and Poverty: The economics of forced labour)、2024年3月19日発表」によると、強制労働(注1)により、人身売買業者らが得た違法利益は、2024年に2,360億米ドルにのぼるとした。2014年の1,720億米ドルから640億米ドル(37%)ほど大幅に増加した。

強制労働一人当たりの違法利益も増加している。2014年には8,269米ドル(インフレ調整後)だったが、2024年は9,995米ドルとなった。

図表1:強制労働による違法利益(年間・一人当たり)
画像:図表1

地域別にみると、年間あたりの違法利益は、「欧州・中央アジア」が842億米ドルで最も高く、次いで「アジア・太平洋」の624億米ドル、「南北アメリカ」が521億米ドル、「アフリカ」が198億米ドル、「アラブ諸国」が180億米ドルとなっている。

被害者一人当たりでは、「欧州・中央アジア」が2万1,248米ドルで最も高く、以下、「アラブ諸国」が、2万318米ドル、「南米アメリカ」が1万5,119米ドル、「アフリカ」が5,879米ドル、「アジア・太平洋」が5,199米ドルの順となっている。

違法利益総額の7割を占める「性的搾取」

商業による性的搾取の被害者数は強制労働の27%を占める。しかし、違法利益総額でみると、その割合は全体の約3分の2以上(73%)に達する。

これは、性的搾取の一人当たりの利益(2万7,252米ドル)が、他の形態の強制労働(3,687米ドル)に比べ、飛び抜けて高いことによる。

商業による性的搾取の違法利益総額を地域別にみると、「欧州・中央アジア」が586億米ドル(34%)と最も高く、以下、「アジア・太平洋」が484億米ドル(28%)、「南北アメリカ」が349億米ドル(20%)、「アフリカ」が161億米ドル(9%)、「アラブ諸国」が146億米ドル(9%)となっている。

年間の違法利益額を部門別にみると、「産業(製造・建設・採掘等)」が354億米ドルで最も多く、全体の55%を占める。以下、「サービス」が209億米ドル(33%)、「農業」が50億米ドル(8%)、「家事労働」が26億米ドル(4%)となっている。

世界の人口1,000人当たり3.5人が強制労働に従事

2021年に1日でも強制労働に従事した人は、2016年の2,490万人から270万人増加し2,760万人に達した。これは世界の人口1,000人当たり3.5人となる。

被害者数を地域別にみると、「アジア・太平洋」が1,510万人(55%)で半数以上を占める。以下、「欧州・中央アジア」が410万人(15%)、「アフリカ」が380万人(14%)、「南北アメリカ」が360万人(13%)、「アラブ諸国」が90万人(3%)の順に高い。

図表2:強制労働の被害者数(地域別)
画像:図表2

ILO事務局長のジルベール・ウングボ氏は、「強制労働に従事する人は、複数の形の強制にさらされているが、最も多いのは意図的で組織的な給料の搾取(天引き)だ。強制労働は貧困と搾取のサイクルを永続させ、人間の尊厳を傷つける。状況は悪化の一途をたどっている。国際社会は直ちに団結してこの不正義を終わらせ、労働者の権利を保護し、全ての人たちに公正と平等の原則を守るべく行動しなければならない。」と訴える。

報告は、違法な利益の流れを食い止め、犯罪者の責任を問うため強制執行への投資が喫緊の課題だと強調する。そして、法的枠組みの強化、ハイリスク部門を捜査する労働監督官への研修の実施、労働法執行機関と刑事法執行機関の連携強化などを推奨する。

その上で、強制労働は法執行措置のみで解決できる問題ではなく、社会保障、教育、職業訓練、適切な移民ガバナンス、採用プロセスの公正化などを含む根本原因への対処と、インフォーマル経済のフォーマル化、被害者の保護を優先する包括的なアプローチが必要だと強調している。

参考資料

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