法定最低賃金(SMIC)、2.22%引き上げ
 ―大幅賃金上昇も物価の上昇分に及ばず

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  • 国別労働トピック:2023年5月

法定最低賃金(SMIC)が2023年5月1日に時給11.27ユーロから11.52 ユーロに引き上げられた(注1)。2020年までは1月1日の定例の引き上げのみ実施されてきたが、21年以降は物価上昇の影響を受けて、臨時の引き上げが続いている。その効果もあって、22年は大幅な賃金上昇が確認されたものの、インフレ率の上昇幅には及ばず、所得は実質減となっている。

物価上昇2%超によるSMIC引き上げ

SMICは、物価上昇が前回の引き上げ時点から2%を超えると、その上昇分が引き上げられる。毎年1月1日実施される定例の引き上げでは、学識経験者等で構成される専門家委員会が報告書を政府に提出し、これを参考に政労使協議を経て政府が引き上げ額を決定する。引き上げ基準は、消費者物価のほか、平均賃金の上昇率が勘案されるが、政治的判断によって上乗せされる場合もある(注2)。2023年1月には、その前の引き上げ時(22年8月)の基準とした22年6月以降、11月までの間に、消費者物価が1.8%上昇したため、その上昇分が引き上げられた(時給11.07ユーロから11.27ユーロ)。今回は22年11月からの物価上昇率が2023年3月時点で2%を超えたため、23年5月1日に2.22%引き上げて時給11.57ユーロになった(注3)。2007年以降の額と引き上げ率の推移を示したのが図表1である。

図表1:最賃額(時給)と引き上げ割合の推移(2007年~2023年)
画像:図表1

出所:政府発表資料より作成。

2021年第3四半期以降、所得は実質減

法定最低賃金は定例の引き上げと臨時の物価上昇分を引き上げる制度のため、賃金全般の引き上げ効果が期待できるが、物価急騰のため、実質ベースの賃金は低下している。労働省調査・研究・統計推進局(DARES)が5月5日に発表した統計によると、労働者(ブルーカラー及びホワイトカラー)の1時間当たり基本給(SHBOE)(注4)は2023年第1四半期に前年同期比で5.2%(前期比で1.9%)上昇し、2010年第4四半期以降、最も高かった(図表2参照)(注5)。2022年第1四半期以降、大幅な上昇が見られる。雇用労働者の基本月給指数 (SMB)(民間部門の給与所得者全体) (注6)では、2023年第1四半期に、前年同期比で4.6%(前期比で1.8%)上昇し、22年第4四半期の3.9%を上回った。

図表2:基本給と物価の上昇率の推移(前年同期比) (単位:%)
画像:図表2

出所:DARES資料より作成。

このように給与水準は大幅な上昇率を記録したが、インフレ亢進のために実質所得は目減りしている。消費者物価指数(たばこ除く)は2022年通年で6.0%上昇し、物価変動を考慮した実質ベースの基本給は、21年第3四半期以降、低下が続いている(図表3参照)。23年第1四半期までの1年間でSHBOEは前年同期比で0.5%低下、SMBは同1.1%低下となった。なお、この数値は23年第1四半期にSHBOE、SMBともに急激に上昇したため低下幅は小さくなっているが、2022年通年(2021年第4四半期と2022年第4四半期の比較)では、SHBOEが1.5%低下、SMBは2.1%低下だった。

図表3:物価の上昇分を加味した実質ベースの基本給(月給)の変化(前年同期比) (単位:%)
画像:図表3

出所:DARES資料より作成。

購買力強化やインフレの対策

インフレ亢進に対する購買力強化策として、政府は最低賃金の引き上げのほか、2022年8月に「購買力確保のための緊急措置法」を成立させ、ボーナスの非課税措置や食事補助、通勤補助に関する特別措置を行った(注7)。このほか、グレゴワール中小企業・商業・手工業・観光担当大臣が「反インフレ・パニエ(バスケット)」を提案した(注8)。これは、約50の基本的な必需品価格を抑制するというもので、3月まで小売業者や農業関係者との協議が行われたが、業界内では価格競争の妨げになることを懸念して強い反発があったため合意に至らなかった。その代案として、小売業者が任意に製品を選び出し価格を抑制する「インフレ防止四半期」という取り組みで合意に至った(注9)。小売業者が自由に選ぶ数百品目を「可能な限り低く抑える」ようにする取り組みだが、3月中旬~6月中旬に実施され、一定の効果が確認されたため、6月以降も継続することで合意が成立した(注10)。製品価格の推移を分析し、実際のインフレ抑制効果をモニタリングする消費者問題・競争・不正防止総局(DGCCRF)によると、3月6日の週から4月24日の週までに、導入前の水準と比較して価格が約13%下落した(注11)。ただ、この分析結果を疑問視する声がないわけではない。50~100の製品を対象として価格動向を分析した消費者擁護協会は、参加したスーパーマーケット5社のうち3社で価格がわずかに上昇しており、13%の下落にはほど遠いとしている。それは、集計期間と集計対象の製品に偏りがあるためだと指摘している(注12)

国立統計経済研究所(INSEE)は、4月の物価上昇は5.9%(暫定値)とするのに対して、5月は5.7%、6月は5.4%と予測し、2023年半ばまでのインフレ予測はわずかな低下を示しているが、この傾向が下半期も続くかどうかは不透明だとして慎重な見方を示している(注13)

(ウェブサイト最終閲覧:2023年5月19日)

参考レート

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