就労放棄による解雇が自己都合退職に
 ―失業認定の変更により失業保険給付不可へ

カテゴリー:労働法・働くルール雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2023年5月

無断欠勤など正当な理由なく出勤しなくなった従業員は、従来の制度では雇用主から不法行為を理由に解雇扱いとなるのが一般的であり、失業保険を受給することができた。しかし、2023年4月17日のデクレ(注1)で変更され、正当な理由がなければ「解雇」ではなく「自己都合の退職者」として扱われ、失業保険が受給できなくなった。就労を放棄し、雇用主から職場に戻るようにとの正式な通知が届いてから15日経過しても正当な理由を説明せず、仕事に戻らなかった従業員は、今後、特別な場合を除き、「解雇」ではなく「自発的に離職」したものとみなされる。

収支改善のための失業保険制度改革

失業保険制度の収支改善などを目的とする改革を含む「完全雇用をめざす労働市場の機能に係る緊急措置に関する法律」が2022年12月21日に成立した(注2)。同法は、失業の発生リスクに応じた雇用主の保険料の増減(注3)、失業保険の受給資格取得条件の変更(注4)や職業資格認定制度(注5)の利用拡大のほか、企業における社会経済委員会の構成員選出方法の規定に関する改正が盛り込まれている(注6)。この中の第4条の施行令(デクレ)が4月17日に公布され、就労放棄によって退職した従業員の関する失業保険の受給条件が変更された(労働法典R1237-13条)(注7)

従業員が仕事を放棄して職場に戻らない場合に、雇用主は正式な通知(書留郵便等)を送付し、それに対して従業員が欠勤の正当な理由を示すことなく15日経過した場合、これまでの制度であれば重大な過失のため「解雇」扱いとなり、失業保険が受給できた。しかし、今回の改正により「自己都合の退職の推定(présomption de démission)」に該当することになり、失業保険は受給できなくなる(注8)。ただし、就労放棄の理由が「健康上の理由による欠勤」「撤退権(droit de retrait、労働法典L4131-1条)(注9)やストライキ権(同L2511-1条)の行使」、あるいは「企業内規則に反する指示の拒否」などであれば、15日の間にそれを説明することによって、自己都合の退職の推定には該当しない。また、自己都合の退職扱いに不服な場合、労働裁判所に異議を申し立てることが可能である(注10)

重大な過失を理由とする解雇の7割を占める

こうした就業放棄した結果、これまで制度に基づいて「解雇」扱いとなり、自己都合の退職にもかかわらず、失業保険を受給できた求職者数はどれくらいだったのか。その調査が労働省調査・研究・統計推進局(DARES)によって初めて行われ(注11)、2023年2月に調査結果が公表された(注12)。2022年上半期に、民間部門における重大な過失を理由とする解雇は17万3,000人(注13)であり、そのうち就労放棄による解雇は12万3,000人で71%を占めていた。2番目に多い「懲戒解雇(主に暴力、不誠実な行動、または不服従」(27%)を大きく上回っている。また、「就労放棄」は非自発的な離職全体の14%を占めており、これを業種別でみると、小売・物流関連(18%)、ホテル・レストラン関係(16%)が多い(注14)。就労放棄して解雇された従業員の55%が3カ月以内に雇用局に求職者登録をしており、43%に相当する約5万人が失業保険を受給した。今回の制度改正によって、こうした求職者は失業保険を受給できなくなった。

労組の批判

労働総同盟(CGT)は、今回の改正は「失業保険の基本的な考え方を破壊するものだ」として問題点を指摘している(注15)。一部の企業において、従業員が激しい苦痛を感じたり、就労環境の健康へのリスクを感じたり、嫌がらせ受けるなどのために、就労を放棄することが唯一の選択肢という場合がある。今回の改正の結果、従業員は就労を放棄しづらくなり、どんな犠牲を払っても仕事に留まることを余儀なくされ、場合によっては大きな危険に晒され、健康を害することになりかねない可能性があるとしている。法律上、従業員は労働裁判所を通じて異議を申し立てることができるため、権利は保証されているという政府の見解についても、CGTは現実的な方法ではないと指摘する。その上で、政府の「失業者は怠け者」だと決めつける基本姿勢を非難し、改めてこの改革に反対し、新しい職業的社会保障の枠組みを構築し、すべての求職者が失業給付を受ける真の権利の保証を求めている。

(ウェブサイト最終閲覧:2023年5月11日)

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