カリフォルニア州とワシントン州が募集時の給与情報公開を義務化

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  • 国別労働トピック:2023年1月

カリフォルニア州とワシントン州は2023年1月1日から、求人募集時における給与や賃金の情報の公開を企業に義務付ける州法を施行した。米国では賃金格差が縮まらない背景に、雇用主が求人募集の際に給与水準を示さず、採用する労働者の過去の給与履歴に基づき給与を決める慣行があるといわれる。そのため「給与透明化」の立法措置をとり、格差解消をめざす動きが進展している。ニューヨーク市は2022年11月に同様の法律を施行。コロラド州も2021年から実施している。

賃金格差解消めざす

米国には、雇用主が求人募集の際に給与や賃金の水準を示さず、採用する労働者の過去の給与履歴(salary history)もとに、それぞれの給与を決める慣行がある。このため低賃金労働者は転職しても高い収入を得にくく、性別や人種間の賃金格差が縮まらない要因のひとつになっているといわれる。近年、こうした賃金格差を解消するために、求人時における給与情報の公開を州法等で企業に義務づけ、より高い給与水準の職場に労働者が就きやすいようにする動きが進展している。コロラド州は2021年1月、ニューヨーク市は2022年11月にこうした内容の法律をそれぞれ施行(注1)。2023年1月からカリフォルニアとワシントンの両州が加わった。両州とも今回、それまでの「応募者が開示を求めた場合、雇用主は応じる必要がある」といった規定を強化した。

15人以上規模を対象に

カリフォルニア州法(改正労働法)は15人以上規模で、少なくとも州内で1人が勤務する企業の雇用主を対象とし、募集する役職(position)の賃金の程度(pay scale)を求人情報に掲載するよう定めた(注2)。「賃金の程度」は「雇用主がその役職に対して支払うと合理的に期待される給与または時給の範囲」と定義する。求人情報への掲載義務のほか、在職者が自身の役職の賃金の程度について情報の開示を求めた場合、雇用主はこれに応じることも義務付けた。雇用主が情報を公開しない場合、求職者らは州労働委員会(Labor Commissioner)に苦情を申し立てたり、民事訴訟を起こすことができる。違反企業には100~10,000ドルの罰金を科す可能性がある。最初の違反に対しては、是正措置を講じた場合、罰則はない。

また、従業員100人以上規模の雇用主に対する、州公民権局(Civil Rights Department)への給与情報の報告義務を拡大した。より詳細な情報として、事業所ごとの各職種(job category)における人種/民族別・性別の賃金の中央値と平均値を算出することや、派遣・請負業者(Labor contractor)を通して働く者が100人以上いる雇用主に対して、そうした派遣・請負労働者への支払情報を報告することを新たに義務づけている(派遣・請負業者は報告を提出する雇用主に対して、必要な情報を提供しなければならない)。

ワシントン州(改正賃金・機会平等法、Equal Pay and Opportunities Act)も15人以上規模の雇用主を対象とし、募集するそれぞれのポスト(in each posting for each job opening)の賃金の程度や給与の範囲、および採用者に提供するすべての福利厚生(benefits)、その他報酬の概要を開示するよう定めた(注3)。違反した雇用主には初回500ドル、2回目以降1,000ドル(または損害額の10%)などの罰金を科す場合がある。

州法の改正相次ぐ

ニューヨーク州では知事が2022年12月21日、州全体を対象とする賃金透明性法(Pay Transparency Law)に署名した。2023年9月に施行する予定にしている。ロードアイランド州は2023年1月から、求人への応募者と報酬について話し合う前に、その求めに応じて、給与範囲を開示するよう義務づける改正州賃金平等法(Pay Equity Act)を施行した。

このほか、ネバダ州は応募者の最初の面接後に給与または賃金の範囲を開示する義務を、コネチカット州とメリーランド州では、応募者が求めた場合に賃金範囲を開示する義務を、それぞれ規定している。メリーランド州ではこうした規定をカリフォルニア州などと同様に、応募者が要求するかどうかにかかわらず開示を義務づけるよう強める動きがある。マサチューセッツ州やサウスカロライナ州なども給与情報開示に関する州法の制定を進めている。市や郡のレベルでは、オハイオ州シンシナティ市、同トレド市、ニューヨーク州イサカ市、同ウエストチェスター郡、ニュージャージー州ジャージーシティに給与情報開示義務に関する何らかの規定がある。

実効性に課題も

2022年11月に施行したニューヨーク市の法律は、公開する「給与の範囲(salary range)」について、「広告された仕事に対して支払うと誠意を持って(in good faith)信じられる給与の最高額と最低額」としている。同法を所管するニューヨーク市人権委員会の解釈では「雇用主が求人広告を掲載している時点で、合格した応募者に支払う意思があると本当に信じている給与の幅」と説明するが、それ以上の具体的な基準は示していない。

現地報道によると、法律施行後、最高額を最低額の2倍以上にするなど、「給与の範囲」を幅広く設定して公開する企業が多くみられた。こうした企業の対応には、実際に受け取る給与額の目安がわかりにくく、法律の趣旨の実効性を損なうという批判が出ている。

参考資料

  • カリフォルニア州市民権局、ニューヨーク市人権委員会、ニューヨーク州議会、ニューヨークタイムズ、ブルームバーグ通信、連邦労働省、ロードアイランド州労働訓練局、ワシントン州労働産業局、各ウェブサイト

参考レート

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