23州が最低賃金を引き上げ
―「物価連動」で8.7%アップの州も
全米50州のうち23州が、2022年12月から2023年1月にかけて最低賃金を引き上げた。このうち13州が物価と連動して引き上げ額を算出する方式で改定。ワシントン州やコロラド州などでは、物価上昇と同率の8.6~8.7%のアップとなった。ミネソタ州などは州法で定める上限の引き上げ率とした。ネブラスカ州では前年の住民投票で承認された州法に基づき、7年ぶりに引き上げを実施している。
各地で異なる最賃の引き上げ方法
米国では連邦政府のほか、各州やその州内の主な市、郡などが独自に最低賃金を設定している。このうち原則として、それぞれの地域で最も高い水準の最賃が適用される。州や市などによっては、特定職種等の最賃を別途設けているところもある。連邦政府は2009年7月以降、最賃を時給7.25ドルで据え置いているが、全米50州のうち約半数は毎年の改定を続けている。
最賃の改定方法や改定時期は各地で異なる。改定方法は、(1)毎年の消費者物価指数等をもとに所定の計算式を適用し、物価に連動した額へと自動的に改定する、(2)数年後の目標額を定め、毎年段階的に引き上げていくスケジュールを組む、(3)連邦最賃の改定時など必要に応じて改定する、におおむね分かれる。
(1)の方式を採る州が改定の根拠とする物価指標もさまざまである。統計の種類としては、①CPI-U(Consumer Price Index for all Urban Consumer、都市部の消費者世帯を対象とする消費者物価指数)②CPI-W(Consumer Price Index for all Urban Wage Earners and Clerical Workers、都市部の賃金労働者世帯を対象とする消費者物価指数)③PCE(Personal Consumption Expenditures、個人消費支出)などが用いられる。こうした統計における全米平均の8月時点の数値(前年同月比)を基準に用いる州が多いものの、地域ごとの数値や、半期または年間平均の物価上昇率を根拠にする州もある。
物価高を反映した水準に
今回引き上げた23州のうち、13州が上述した(1)の物価連動方式を採用している(図表1)。アリゾナ州などは全米都市平均CPI-Uの2022年8月値の前年同月比(8.2%上昇)をもとに改定額を算出し、最低賃金を物価上昇率と同率で引き上げた。コロラド州はデンバー・オーロラ・レイクウッド都市圏CPI-Uの2022年上半期平均値の前年同期比、アラスカ州はアンカレッジ都市圏CPI-Uの2021年平均値の前年比をもとに改定している。
図表1:米国各州の最低賃金引き上げ状況(2022年12月~2023年1月)
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※カリフォルニア州は26人以上規模、メリーランド州は15人以上規模、ミネソタ州は年間売上高50万ドル以上規模、ニュージャージー州は6人以上規模、ニューヨーク州はニューヨーク市とその近郊の郡を除く地域における改定前後の金額を記載。
※ニューヨーク州は2022年12月31日、その他の州は2023年1月1日発効。
出所:Economic Policy Institute (2022) などをもとに作成
段階的引き上げの途上にあるニュージャージー州では、2023年1月の改定予定額(時給14ドル)を、物価上昇に基づく算出額(時給14.13ドル)が上回ったため、州法に基づき後者の最賃を適用することとした。
カリフォルニア、ミネソタ、バーモントの各州では、州法で引き上げ率の上限を設けており、物価の上昇より小幅の改定率となった。
カリフォルニア州では近年、段階的引き上げのスケジュールを組んでいた。2023年1月は26人以上規模を時給15ドルで据え置き、25人以下規模をそれまでの同14ドルから15ドルに引き上げ、翌2024年1月からともに物価連動方式を採用する予定にしていた(注1)。ただし、2021年7月~2022年6月における物価上昇率(毎月の全米CPI-Wの対前年同月比上昇率の平均)が7%を超す場合、26人以上規模ではただちに物価連動方式に移行し、25人以下規模もこの水準に合わせると規定していた。この期間の物価上昇率は7.9%とみられ、物価連動方式への移行を前倒ししたものの、州法は改定額算出の計算に用いる引き上げ率の上限を3.5%とも定めており、26人以上規模では物価上昇率に届かない規模の改定にとどまった(25人以下規模ではそれまでの14ドルから15.5ドルへと10.7%上昇)。
バーモント州も2023年1月から物価連動方式に移行したが、今回は州法で定める上限(5.0%)での改定となった。ミネソタ州は全米PCEの8月値をもとに改定額を算出しており、その値は6.3%の上昇だったが、州法で定める上限の引き上げ率(2.5%)となった。なお、ニューヨーク州(ニューヨーク市とその近郊の郡を除く地域)では全米CPI-Uや州個人所得の伸び率などに基づき、州予算局長が改定額を定めている。
ネブラスカで「段階的引き上げ」を開始
ネブラスカ州では2022年11月8日に住民投票を実施し、最低賃金を2026年までに時給15ドルへと段階的に引き上げ、その後は物価連動方式とする内容の法案を承認した(賛成59%、反対41%)。2016年以降時給9ドルに据え置かれていた最低賃金を2023年に10.50ドルとしたうえで、2024年に同12ドル、2025年に13.50ドル、2026年に15ドルへと引き上げていく。2027年以降は、中西部地域のCPI-Uの上昇に基づき改定する。
840万人に影響と推計
リベラル系のシンクタンク・経済政策研究所(EPI)は今回の州最賃引き上げの影響について、全米で約840万人の労働者の賃金が引き上げられ、総額で50億ドル以上の収入が増えると推計している。
また、EPIによると、州のほかにも2023年1月に27の市や郡が最賃を引き上げた。ワシントン州シアトル市はそれまでの時給17.27ドルから18.69ドル、同シータック市は時給17.54ドルから19.06ドルへと高まっている(いずれも物価連動方式で改定)。
ニューヨーク州では、ニューヨーク市とその近郊(ナッソー・サフォーク・ウェストチェスターの各部)の最賃を引き上げる法案が州議会に提出されている。それによると、現在の時給15ドルから2024年1月1日に17.25ドル、2025年1月1日に19.25ドル、2026年1月1日に21.25ドルへと引き上げ、2027年1月1日から物価連動方式で改定するとしている。
今後も2023年6月1日にコネチカット州(段階的引き上げ)、同7月1日にオレゴン州(物価連動)、ネバダ州(段階的引き上げ)、コロンビア特別区(ワシントンD.C.、物価連動)、9月30日にフロリダ州(段階的引き上げ)がそれぞれ引き上げを予定している。
注
参考資料
- 労働政策研究・研修機構(2021)『コロナ禍における諸外国の最低賃金引き上げ状況に関する調査―イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、韓国』JILPT資料シリーズ No.239
- Economic Policy Institute (2022) More than 8 million workers will get a raise on New Year’s Day
- 各州政府、経済政策研究所(EPI)、日本貿易振興機構、労働統計局(BLS)、各ウェブサイト
参考レート
- 1米ドル(USD)=132.40円(2023年1月11日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
2023年1月 アメリカの記事一覧
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