非課税措置のボーナス支給と労組の反応
 ―ボーナス増額を求めてストライキも

カテゴリー:労働条件・就業環境労使関係

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  • 国別労働トピック:2022年12月

購買力確保法に基づき各企業がボーナス支給を決定している。法律の定めた非課税上限は3000ユーロで、労使合意があれば上限6000ユーロとなるが、実際の支給額は1000から1500ユーロ程度に留まり、政府が期待したほどの効果は得られていない。労組の反応は、会社側の提案を歓迎する動きが一部にある一方で、業績に見合ったボーナスの増額や更なる賃上げを要求する労組もあり、場合によってはストライキに発展した企業もある。

自動車メーカーにおける購買力確保策

自動車製造業大手のステランティス(注1)は、法定最低賃金(SMIC)の2倍までの賃金の従業員に対して1000ユーロのボーナス支給を決定した(注2)これは、派遣労働者も含み、同社で就労する労働者の60%が該当する。また、SMICの2倍以上の賃金の従業員に対しては500ユーロを支給する。さらに、全従業員を対象として、未消化の休暇(代休)(RTT)の現金化を最大で3日分認めることになった。現金化した場合、現場労働者は平均で400ユーロ、管理職は同600ユーロ受け取る見込みのため、これらの購買力確保支援策によって最高で1400ユーロが支給されることになる。

この会社側の発表に対して、労働組合CFDT(仏民主労働総同盟)は、「期待外れ」との考えを明らかにした(注3)。というのは、コロナ禍の経営に寄与するため模範的に就労し、困難に耐えてきた従業員に対する充分な評価ではない、というのがその理由である。また、CFTC(仏キリスト教労働者同盟)は、賃金が比較的高い夜間労働者がSMICの2倍を超えていることが多く、ボーナスが500ユーロに半減されることに対する反発が出ていると指摘する(注4)。このほか、FO(労働者の力)は必要とされる購買力に見合う「例外的なボーナス」を求め、CGT(労働総同盟)は月額400ユーロの賃上げと6000ユーロのボーナス支給を求めている(注5)。これらの労組は、会社側に対して業績に見合ったボーナスを求めて、フランス北部オルデンなど複数の工場で短時間ストライキを起こし、それぞれの事業所で数百人が参加した(注6)。ストに発展した背景には、カルロス・タヴァレス社長の高額報酬が明らかになったことがある。同社の業績は好調で、2022年第1四半期は80億ユーロの黒字であり、タヴァレス社長の報酬は2020年から2021年にかけて17.6%増の1900万ユーロの報酬を受け取っており、業績目標を達成すれば、さらに4700万ユーロのボーナスが支給される可能性がある(注7)。この高額報酬は、マクロン大統領を驚かせる高水準だったため物議を醸した(注8)。労使協議は12月になっても合意に至らず、経営側は2023年に全従業員平均で5.3%賃上げを提案したが、労組CFDTは、組み立てラインの労働者の賃上げが4.4%であるのに対して、物価は前年比で6%前後上昇しているため賃上げがインフレを補うにはほど遠いとして合意に至っていない(注9)。またCGTは、賃金をインフレに連動させ、正規と非正規の従業員を平等に扱うよう求めている。

自動車製造大手のルノーは、派遣労働者を含めた4万2000人の従業員大部分に対して1000ユーロ近いボーナスを支給する方針を明らかにした。その内訳は、購買力確保を目的としたボーナスを500ユーロ、ボーナス支給に伴う医療保険の上乗せ分の保険料を会社負担として約315ユーロ、臨時通勤手当100ユーロである。それに加えて、3日間のRTTを25%割増して現金化することも可能とする(注10)

労働組合の労働者の力(FO)は、物価が高騰する中、500ユーロのボーナスだけではなく、通勤や医療保険に関係する費用を会社が負担することによって、全従業員の必要性や問題に応えたとして、会社側の発表を歓迎した(注11)

好業績企業での期待外れのボーナス支給

鉄鋼業大手のアルセロール・ミタルは、派遣を含む全従業員に1000ユーロのボーナスを支給することを決定した(注12)。これに対して、労働組合FOは「ゼロよりはまし」との認識を示し不満を露わにした。同社は2022年に入り、5~6億ユーロの利益をあげたとされるが、従業員5000人にそれぞれ1000ユーロ支給した場合、単純計算で500万ユーロとなり利益配分は1%に過ぎず、期待外れだとしている。その上で、法律では労使合意による非課税上限は6000ユーロだが、支払い能力が十分にある同社でさえ、実際には1000ユーロ程度しか支払われないのは、正にうわべだけの法律であると糾弾した。一方、経営側は今回のボーナスは一部に過ぎないと釈明している。CFDTによると、経営側に6000ユーロのボーナス支給を求めたのに対して、2022年末か23年初めに改めてボーナス支給のための労使協議の場をもつとの回答を得ており、今後に期待するとしている。

小売業大手のカルフールは、100ユーロのボーナス支給と2.5%の賃上げ(2022年11月から)とともに、社員の購入割引12%の2023年3月31日までの延長などを提案した(注13)。経営側の発表に対してFOは、同社は莫大な売上があるためボーナス支給に期待していたが、裏切られたとしている。その上でコロナ禍のロックダウン時には、必要不可欠な労働者として感染リスクの高い中で就労して会社の業績に貢献したにもかかわらず、労働条件は悪化し続けており、要求にほど遠いボーナス額を提案する経営側に反発している。これを受けて、パリ近郊のトワロ、フランス南部のニース近くのアンティーブなど各地のカルフールの郊外型大型店舗では、一部の従業員によるストライキが実施された。

エールフランス、LVHMなどでのボーナス支給

エールフランスは、フルタイム従業員に1000ユーロのボーナスを支給し、全従業員を対象とする5%賃上げで労使合意した(注14)。地上職や客室乗務員、パイロットなど3万8000人超の職員が対象で、賃上げは22年11月に2%、23年2月に2.5%、5月以降に少なくとも0.5%と3段階で実施する。同社は、感染拡大で大きな影響を受けたが、運行本数の大幅な回復によって22年第2四半期は黒字に転換した。ただ、エールフランス・KLMとして、22年6月末時点で60億ユーロの実質金融負債(純負債額)があるなど、財務状況が依然として厳しい上に、燃料費高騰に喘ぐ中で賃金を引き上げることとなる。

高級ブランドのコングロマリットであるLVMH(モエ・ヘネシー・ルイヴィトン)は、年間給与が6万ユーロ未満の従業員2万7000人に対して1000ユーロから1500ユーロのボーナスを支給することを決定した。同社では、既に22年1月に、600ユーロから1000ユーロのボーナスを支給したため更なる特支給となり、総額では4億ユーロ超のボーナスが、従業員へ支給されることとなる(注15)

建設業大手のブイグでは、従業員の賃金水準に応じて500ユーロから1000ユーロまでのボーナスを支給することになった。なお、同社では、21年12月、22年3月と9月に合計で6%以上の賃上げが実施されている(注16)。また、保険会社のマシフでは、22年10月に1000ユーロ、23年1月に500ユーロのボーナスを支給するほか、23年の賃上げを発表した。引き上げ額については、今後の労使交渉で決定される見込みである。その他、銀行大手のBNPパリバでは労使交渉の結果、年間給与が4万から9万ユーロの従業員について3%の賃上げ(2000ユーロが上限)、4万ユーロ未満の従業員について、1200ユーロの賃上げ(給与に応じて3%から5.9%の増加)のほか、場合によってはボーナスが最大1100ユーロ支給されることになった(注17)

購買力確保法によるボーナス支給は、労使合意による6000ユーロの非課税上限が大きく取り上げられ、マクロン大統領は各所でこれを強調しているが、報道の範囲内でみると、実際には上限額のボーナスを支給する企業はなく(図表参照)、労組に失望感が広がっている。

図表:各社のボーナス支給内容
業種 ボーナス額 適用条件やその他の措置
ステランティス 自動車製造 1000ユーロ SMIC2倍まで、それ以上は500ユーロ
ルノー 自動車製造 500ユーロ 健康保険会社負担315ユーロ、通勤手当100ユーロ
ミタル 鉄鋼業 1000ユーロ 派遣労働者を含む全従業員
カルフール 小売業 100ユーロ 2.5%賃上げ、12%特別購入割引
エールフランス 航空運輸 1000ユーロ 5%賃上げ
LVMH 高級ブランドコングロマリット 1000ユーロ~1500ユーロ 年間給与6万ユーロ未満(22年1月に600~1000ユーロ特別手当支給済み)
ブイグ 建設業 500ユーロ~
1000ユーロ
6%賃上げ
マシフ 保険業 1000ユーロ+
500ユーロ
BNPパリバ 銀行業 1100ユーロ 年間給与4~9万ユーロ:3%賃上げ(2000ユーロ上限)、4万ユーロ未満:1200ユーロ賃上げ(3~5.9%)

出所:各種報道に基づき筆者が作成。

(ウェブサイト最終閲覧:2022年12月13日)

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