個人年金関連の法整備が本格化
 ―36都市・地域で試行実施

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2022年12月

高齢化を見据えて、既存の年金制度を補完する「個人年金」の実施に向けた法整備が本格化している。人的資源・社会保障部、財政部など5部門は11月4日、「個人年金実施弁法」(以下:「弁法」)を共同で発表した(注1)。同時に、個人年金に関する税制優遇など関連法も整備が進む。今後は36都市・地域で試行実施され、個人年金加入者は毎年1万2000元を上限に、一定基準を満たした金融商品を自由に運用することができる。

「個人年金」の加入手続き、引き出し要件、受け取り方法

「弁法」によると、「個人年金口座」に加入する場合、金融機関の受付窓口に赴むくか、国家社会保険公共サービスプラットフォーム(注2)、人的資源・社会保障政務サービスプラットフォーム(注3)、e-社会保障カード(电子社保卡)、ポケット12333アプリ(掌上12333App)等のオンラインサービスを通じて開設する。同口座は、従来の基本年金と連動して、保険料の拠出、運用、受取、相殺、所得税納付などの情報を記録し、個人年金の加入による税制優遇を受けるための基盤となる。

「個人年金口座」開設後は、金融機関を選択して専用の「個人年金基金口座」を開設する。基金口座では、加入者の年金商品に関する情報や運用状況、預託や拠出額の記録等の情報照会が可能になる。

なお、拠出額の上限は、完全積立方式で年間1万2000元とする。上限額は今後、経済情勢や年金制度の状況を考慮して、人的資源・社会保障部と財政部が適宜調整する。また保険料は月払い、分割払い、年払いなどが可能である。具体的な年金商品の種類や投資額などは、上限額の範囲内で加入者自身が自由に決定できる(ただし、銘柄は当局指定のものに限る)。

個人年金の引き出し要件は、①基本年金の受給開始年齢に達した場合、②完全に労働能力を喪失したと認定された場合、③海外移住などの受給規定を満たした場合、となっている。また、年金の受け取りは、毎月の分割払いや一括払い(加入時にいずれかを選択)などが選択できる。加入者が死亡した場合、遺族が年金口座の資産を相続できる。

「個人年金基金」の口座管理、記録保管

「弁法」によると、「個人年金基金口座」の開設希望者に対して金融機関は、情報プラットフォームを通じてまず「個人年金口座」の確認等の審査を行う。問題がなければ、情報プラットフォームと金融プラットフォームの連携を行い、新たな口座を開設する。万一、年間拠出額(1万2000元)を超えた場合には、加入者にその旨を指摘し、「不受理」処理を行う。さらに、金融機関は、個人年金基金口座に関する全ての情報を記録し、口座解約日から少なくとも15年間は全ての記録を保管する必要がある。

金融商品は当局の指定、ローリスク・ローリターンが原則

個人年金で運用できる金融商品や、その商品を販売できる金融機関(銀行や証券会社等)は、関係する金融規制当局が指定し、情報プラットフォームや金融プラットフォームで公開される。金融商品の取引は、特に指定がない限り、「個人年金基金口座」を用いて行われる。なお、個人年金制度で運用できる金融商品は、「販売適正」の原則を採用し、加入者のリスク許容度の範囲内(ローリスク・ローリターン)であることが求められる。また、普通預金や資産運用と異なり、「個人年金」は税制優遇される。財政部と国家税務総局が発表した「個人年金に関わる個人所得税政策に関する公告(注4)」(11月3日)によると、「個人年金基金口座」への拠出額は、年間上限額(1万2000元)分が、総所得や事業所得から税控除される。さらに、同口座から得る運用益は非課税とし、個人年金への加入普及を促す(ただし、個人年金の受け取り時には、税率3%の所得税が発生する)。

36都市・地域で試行実施

中国証券監督管理委員会は11月4日、「個人年金による公募ファンドへの投資の業務管理の暫定規定(注5)」(以下:「暫定規定」)を発表し、公募ファンドにおける個人年金投資業務に携わる各種金融機関の業務管理を明確に規定した。

さらに、人的資源・社会保障部は11月17日、財政部、国家税務総局とともに「個人年金先行試行都市(地域)の公布に関する通知(注6)」を発表し、北京、上海、広州、天津、瀋陽など36都市・地域において、試行的に個人年金制度を導入するとした。今後は同地域での実施状況を見た上で、指定金融機関や地域範囲を再調整するとみられる。

参考資料

  • 人的資源・社会保障部、中国政府網、日本貿易振興機構、各ウェブサイト

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