2023年1月の最低賃金改定、月額200ドルへ

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  • 国別労働トピック:2022年11月

全国最低賃金委員会での審議の結果、2023年1月に最低賃金が現行の月額194米ドルから200米ドルに引き上げられることが決まった(注1)。コロナ禍の最賃引き上げは3回目となるが、前回、前々回と1%程度の引き上げだったのに対して、今回の引き上げ率は3.1%となり、コロナ禍前の2020年1月の引き上げ幅に近い水準となっている。

首相が委員会の答申額に2ドル上乗せ

2023年1月に予定されている最賃改定は、まず政労使三者の代表51人からなる最賃委員会で審議され、現行の月額194米ドルから198米ドルに引き上げる案を決定した(注2)。当初、経営者代表は197ドルを提案し、政府代表が198ドルを提案したのに対して、労働組合代表は8人が206ドル、3人が210ドル、6人が214ドルを提案した(注3)。改めて行われた審議において4つの案が提出され、政府と経営者側は198ドル、労組側からは206ドル、210ドル、213ドルの3つの案が提案され投票が行われた。その結果、198ドルが46票を、213ドルが5票を獲得し、198ドルが多数を得て労働・職業訓練大臣に答申された。2021年、2022年の委員会判断は最賃額を据え置きとしたが(注4)、3年ぶりに委員会として引き上げる案を決定した。これを受けてフン・セン首相が2ドル上乗せをして、最終的に200米ドルとなった。

3年ぶりの最賃委員会による引き上げ判断

1997年に創設された最低賃金制度は、当初、3年から7年に1回の引き上げだったが、2013年の改定からは毎年、引き上げられるようになり、特に2015年にかけて急激に上昇した(図表参照)。2016年の委員会で客観的基準(注5)が採用されて以降、引き上げ幅が安定し10%前後の引上げがコロナ禍前まで続いた。委員会の改定額に首相が上乗せする政治的な判断は、2015年の改定から恒例となっている。2018年には委員会の12ドル引き上げ案に対して首相が5ドル上乗せ、19年には7ドル引き上げ案に対して5ドル上乗せ、2020年には5ドル引き上げ案に対して、3ドル上乗せされた。コロナ下の2021年、2022年には、委員会が据え置き案を提出したのに対して、首相の判断で2ドル引き上げられた。

図表:最賃額と引上げ割合の推移(1997年~2023年)
画像:図表

出所:政府発表資料等より作成。

労使の見解には大きな隔たり

経営者側は、コロナ禍の景気低迷の中で、工場の閉鎖が目立っており(注6)、最賃の引き上げは企業経営に大きな影響を与えると懸念している。また、民間企業の労働者の年金制度が創設された影響も小さくないとする(注7)。カンボジア衣料品製造業者協会(GMAC)によると、年金関連の拠出のため企業の支払うべき人件費は労働者一人当たり10ドルから12ドル上がるとしている(注8)

一方、労働組合側は、最近の急激な物価上昇に見合う賃金引き上げの必要性を強調する。中央銀行が発表する物価上昇率は、2022年7月には前年同月比で5.38%、6月には7.85%となっており(注9)、今回の引き上げ率(3.1%)は物価上昇分を考慮すると、実質的なマイナスとなり、購買力は低下している。また、アジア開発銀行は物価上昇率を2022年は5.3%、23年は6.2%と予測しており、今後も物価上昇は続くと見込んでいる(注10)。プノンペンの工場で働く労働者は、家賃が最近5米ドル値上げされ、食料費も数カ月前までは1日1万リエル(2.5米ドル)で生活できたが、最近では2万リエルかかっているため、今回の最賃引き上げでは不十分だとしている(注11)

(ウェブサイト最終閲覧日:2022年11月4日)

参考レート

  • 1000カンボジア リエル(KHR)=34.3876円(2022年11月11日現在 Exchange-Rate.org新しいウィンドウ)

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