2022年1月の最低賃金改定、月額194ドルへ

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  • 国別労働トピック:2021年12月

カンボジアの最低賃金の改定は、毎年、9月初旬から全国最低賃金委員会で審議される。その審議結果が労働・職業訓練大臣に対して答申され、首相が最終的に9月終わりから10月初旬に決定することになっている。2022年1月の引き上げ額が9月28日に決定し、現行の月額192ドルから2ドル引上げて194ドルとする省令(Prakas No.264/21)が発表された。

首相が委員会の答申額に2ドル上乗せ

2022年1月に予定されている最賃改定を審議する全国最低賃金委員会が、9月14日に始まった(注1)。政労使三者の代表51人からなる委員会では、当初、経営者側が月額183.40ドルへの引き下げを提案したのに対して、労働組合側は11.6%引上げとなる月額214.20ドルを要求し、労使の両者の提案には大きな隔たりが見られた。その後、9月21日と28日に労使間の審議が行われ、政府が現行の最賃額を据え置く192ドルを提案した。9月28日には委員による投票が行われ、45人が192ドル、6人が204ドルに投票し、政府案の192ドルが多数を得て、労働・職業訓練大臣に答申された。昨年に引き続き、委員会の判断は最賃額を据え置きとするものであった(注2)。これを受けてフン・セン首相が2ドル上乗せをして、最終的に194ドルとなった。委員会の改定額に首相が上乗せする政治的な判断は、2016年の改定から恒例となっている。2019年までは毎年5ドル上乗せされていたが、2020年は経営者側の要請に応じるかたちで3ドルとなり、コロナ禍の2021年改定からは2ドルの上乗せに留まっている。

最賃委員会は引き上げを行わない判断

1997年に創設された最低賃金制度は、当初、3年から7年に1回の引き上げだった。2013年の改定からは毎年、引き上げられるようになっており、特に2015年にかけて急激に上昇した(図表参照)。その上げ幅は2013年31.1%、2014年、2015年に20%台後半だった。2016年の委員会において客観的基準(注3)が採用されて以降、10%前後の引上げになり、2019年は7.1%、2020年は4.4%と落ち着きをみせていた。コロナウイルス感染拡大の最中に改定が審議された2021年の引き上げは1.1%で、今回の2022年は1.0%となり、低調な引き上げとなっている。

図表:最賃額と引上げ割合の推移(1997年~2022年)
画像:図表

  • 出所:政府発表資料等より作成。

労使の見解には大きな隔たり

労働組合側は、コロナ禍で労働者は債務負担が大幅に増えた現状を踏まえると、2ドルの引き上げでは到底生活費を賄うことはできないとして、より一層の引き上げを要求している。その一方で、経営者側であるカンボジア衣料品製造業者協会(GMAC)は、2ドルの引き上げでさえ、コロナ禍の世界的な景気低迷の中では、工場の収益に悪影響を与えると懸念を示している。その上、2022年には新たに労働者の年金基金への拠出として総賃金の2%とともに、コロナウイルス感染した労働者のための治療およびワクチン接種に関わる拠出として1〜1.5%を支払うことになっているため、コストの圧力が企業経営に与える影響は大きいとしている(注4)

低調ではあるが毎年確実に実施される引き上げに対して問題視する声も小さくない。近隣諸国、特に、ベトナムとの関係で相対的に高すぎる水準になっているのがその根拠の一つであるが、そのベトナムは2020年から引き上げの審議を中断している(注1参照)。

(ウェブサイト最終閲覧日:2021年12月10日)

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