2023年の最低賃金に対する労使の見解

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  • 国別労働トピック:2022年8月

8月5日、2023年より適用となる最低賃金が告示された。今回の最低賃金の決定にあたっては、数次に及ぶ審議を経ても、労使双方の溝を埋めることはできず、最終的に公益委員の単一案による可決という形で決定した。審議に参加した韓国2大労働組合の民主労総(韓国全国民主労働組合総連盟)と韓国労総(韓国労働組合総連盟)、そして韓国の経済団体のうち、労働問題に大きな影響力を持つ韓国経営者総協会がそれぞれコメントを公表している。以下、その概要を紹介する。

民主労総、実質賃金の下落による社会の両極化を憂慮

民主労総は今回の決定に強く反発している。物価の上昇と2018年以降の最低賃金算入範囲の拡大(注1)を考慮すると、今回の決定は引上げではなく、実質賃金の低下であり、今後、社会の不平等と両極化が加速し、深化していくだろうと憂慮する。

とりわけ今回、民主労総の反発は審議の議事進行方法にも向けられた。すなわち、「法定期限内の解決」にとらわれ過ぎた議事進行によって、議論が尽くされなかったと主張している。最低賃金の持つ意味と役割の重要性から、労使間の議論は熾烈化し、これまでも法定期限内に決定することはほとんどなかったにもかかわらず、今回、公益委員側は「法定期限内の解決」に固執し、労働者側の意見を封じ込めたと主張している。

また、審議を進めていくために公益委員側が設定・提案した「審議促進区間」に対しても、根拠は不明確であり、更には、否決されたとはいえ、議論の対象となった「業種別適用」については、ユン・ソンニョル政権と使用者側の利害が一致したものであると主張する。民主労総は今後、この基盤が整えられていくことを危惧し、その阻止に向けた活動を呼びかけている。

民主労総の主張は、最低賃金の決定基準はあくまでも労働者家庭の生計費である、というものである。今回の決定過程の背後には、ユン・ソンニョル政権の反労働基調が隠れており、「労働者は断崖に追い込まれた」という表現を用いて、ユン・ソンニョル政権に対する反発を強めている。

韓国労総、低賃金労働者の生活を追い込む決定と危惧

韓国労総も今回決定した最低賃金に強い懸念を示している。韓国労総は低賃金労働者家庭の生計費を最低賃金の決定基準の中心に据えるよう努力したが、結果については「多勢に無勢であった」という言葉で表現している。

表決への不参加も考えたが、そうした場合の被害は低賃金労働者に及ぶと考え、表決には参加したものの、これまでにない物価上昇率によって、不平等と両極化が進行する中、今回、低い賃上げ率に終わったことによって、特に低賃金労働者の生活が追い込まれていくことになるだろうと強い危惧を示している。

また、韓国労総も業種別適用の導入には反対の立場を表明し、今後この方向に向かうとするならば、労使関係は破局に至るだろうと警告している。

韓国経営者総協会、中小零細企業の現実を無視した決定と批判

一方、経営者側の利益を代表する韓国経営者総協会も、今回の決定には批判を表明している。新型コロナウイルスの感染の余波、加えて「高物価」「高金利」「ウォン安ドル高」という三重苦にもちこたえるのが難しい中小零細企業や小規模自営御者の現実を無視した決定であると強く批判する。過去5年間を振り返ってみても、最低賃金は物価以上に上昇し(注2)、中小零細企業の支払い能力は既に限界に達しているとコメントしている。

この度の決定にあたっては、既に限界に達している一部の業種の受容力さえ勘案されることはなく、これによって、業種別適用の必要性は一層明らかになったとし、韓国経営者総協会は政府に対し、速やかに業種別適用のための対策を講じ、来年の審議において実施していくことを訴えている。それとともに、今回の最低賃金の高率の引き上げが今後、惹起する国民経済への副作用を緩和するための政策を推し進めていくことを提言している。

参考文献

  • 韓国全国民主労働組合総連盟ウェブサイト
  • 韓国労働組合総連盟ウェブサイト
  • 韓国経営者総協会ウェブサイト

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