2年半ぶりに最低賃金を引き上げ
ベトナム政府は2022年6月12日、4つの地域別に設定している最低賃金を7月1日からそれぞれ改定すると発表した。2020年1月以来2年半ぶりの改定で、平均約6%の引き上げ率となっている。
引き上げまでの経緯
ベトナムの最低賃金は、経済発展の程度に応じた4つの地域別に示される(注1)。改定は原則年1回だが、2020年1月の引き上げ以降は、コロナ禍による経営環境の悪化などを考慮して見送っていた。
改定にあたっては、政労使の委員らで構成する国家賃金評議会(注2)が審議したうえで、改定案を政府に提出する。政府はこれをもとに改定額などを定め、政令として公布する。現地報道によると、今回の審議で労働側のベトナム労働総同盟(VGCL)は7~8%の引き上げを要求。これに対して経営側は3~6%の引き上げにとどめるよう訴えた。
評議会は2022年4月12日、引き上げ率を約6%とし、同年7月1日に実施する内容の改定案をまとめた。引き上げ率には全17名の委員が了承。実施時期には経営側のベトナム商工連盟(VCCI)の代表ら2名の委員が了承しなかったが賛成多数で可決し、政府に建議した。VCCIなどは、これまで1月だった最賃の改定を年度途中の7月に行なうのは、事業計画変更などの混乱を現場にもたらすと反対していた。また、ベトナム繊維・アパレル協会(VITAS)やベトナム電子工業協会(VEIA)など8つの経済団体も、コロナ禍による経営難から回復しておらず、企業に賃上げの余力がないことなどを理由に、引き上げ時期の延期を求める書簡を政府に提出した。だが、政府は最終的に評議会の建議どおり7月からの実施を決め、6月12日に「政令38号」として公布した。
改定内容
改定後の月額は「地域1」468万ドン(約2万7,144円)、「地域2」416万ドン(約2万4,128円)、「地域3」364万ドン(約2万1,112円)、325万ドン(約1万8,850円)となった。引き上げ率は「地域1」が5.88%、「地域2」と「地域3」が6.12%、「地域4」が5.86%で、4地域の平均で約6%(5.99%)になる(図表1)(注3)。平均引き上げ率は2016年まで二桁の伸びを続けていたが、コロナ禍前の3年間は5~6%で推移していた(2018年1月6.5%、2019年1月5.3%、2020年1月5.5%)。この水準を2年半ぶりに回復させた形になる。
また、今回より時間単位の最賃額を新たに示した。これまでは月額表示のみで、時給単位の計算方法が定まっておらず、現場に混乱を招いていたためだ(注4)。「地域1」が2万2,500ドン(約131円)、「地域2」が2万ドン(約116円)、「地域3」が1万7,500ドン(約102円)、「地域4」が1万5,600ドン(約90円)と規定。いずれも各地域の月額最賃を208時間(26日×8時間に相当)で除した値となっている(「地域4」は下2ケタの端数を切り捨て)。
地域 | 改定前月額 (単位:ドン) |
改定後月額 (括弧内は時間額、単位:ドン) |
引き上げ率 |
地域1(ハノイ市、ホーチミン市の都市部など) | 4,420,000 | 4,680,000(22,500) | 約5.9% |
---|---|---|---|
地域2(ハノイ市、ホ-チミン市の郊外、ダナン市など) | 3,920,000 | 4,160,000(20,000) | 約6.1% |
地域3(バクザン市、フーリー市などの地方都市部) | 3,430,000 | 3,640,000(17,500) | 約6.1% |
地域4(地域1~3に含まれない農村部など) | 3,070,000 | 3,250,000(15,600) | 約5.9% |
出所:ベトナム政府・最低賃金に関する政令38号などをもとに作成。
このほか、「職業訓練を受けた労働者の賃金は、地域別最賃より7%以上高く設定しなければならない」とする規定がなくなった。ただし、労働・傷病兵・社会問題省(MOLISA)とベトナム労働総同盟(VGCL)は6月17日に共同で、「新たな労使合意がない限り、従業員にとってより有利な内容の雇用契約、労働協約等は維持しなければならない」との見解を発表。今回の改定に伴い、職業訓練を受けた労働者の労働条件を一方的に引き下げないよう求めている(注5)。
注
- これとは別に、公務員に対しては「基準賃金」という全国一律の法定最賃を設けている。2019年7月改定の現行水準は月額149万ドンとなっている(法律図書館THƯ VIỆN PHÁ PLUẬTウェブサイト参照)。(本文へ)
- 「政」は労働・傷病兵・社会問題省(MOLISA)、「労」はベトナム労働総同盟(VGCL)、「使」はベトナム商工連盟(VCCI)などからそれぞれの代表者(各5名)を出して構成する。これに2021年3月から2名の独立した社会経済の専門家らを加えた。MOLISA副大臣が議長を務める(ベトナム政府・全国賃金評議会に関する決定449号参照)。(本文へ)
- 今回の改定からクアンニン省のハロン市を「地域2」から「地域1」に変更するなど、地域区分を一部で見直している。(本文へ)
- 労働政策研究・研修機構(2019)『ベトナムの労働を取り巻く現状(PDF:3.9MB)』JILPT海外労働情報19-03の第4章「労働契約・労働条件」第5節「最低賃金」を参照。(本文へ)
- 法律図書館(THƯ VIỆN PHÁ PLUẬT)ウェブサイト参照(本文へ)
参考資料
- 国際労働財団、日本貿易振興機構、ベトナム工商省、ベトナム商工連盟、ベトナム・ニュース、ベトナム・ファイナンス、ベトナム労働・傷病兵・社会問題省、ベトナム労働総同盟、法律図書館、各ウェブサイト
参考レート
- 1ベトナム ドン(VND)=0.0058円(2022年7月12日現在 Exchange-Rate.org)
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