中高齢者継続雇用促進の必要性と支援策
 ―韓国労働研究院レポート

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2022年7月

韓国労働研究院(KLI)は2021年8月、中高齢者の雇用政策に関するレポート「中高齢者継続雇用促進の必要性と支援策」(月刊労働レビュー2021年8月号)を発表した。以下で主な内容を紹介する。

退職時の平均年齢は50歳前後

統計庁が実施する経済活動人口調査によると、55歳以上の中高齢者の就業率は2010年以降、コロナ危機が発生した2020年を除いて継続的に増加していた。また、将来も働き続けることを望む中高齢者は多く、中高齢者雇用に関する2020年5月の調査では55~79歳のうち、将来も働き続けたいと回答した人は67.4%であった。働き続けたい人の将来の希望退職年齢は平均72.7歳である。

しかし一方で中高齢者の雇用安定性は低い。55~64歳の中高齢者が最も長く勤務した仕事を離職したときの年齢は2007年以降50歳前後で停滞しており、2020年には平均49.4歳であった。この年齢は定年(60歳)を大きく下回る(ただし現在も主な仕事で就業を継続している者は含まれていないため、実際の平均離職年齢はこれよりも高い)。

なお、韓国では、定年を60歳以上に義務づける内容の「雇用上の年齢差別禁止及び中高齢者雇用促進に関する法律」の一部改正案が2013年に議決され、2016年(300人未満の事業所は2017年)から施行されている。

韓国統計庁が実施する「経済活動人口調査高齢層付加調査」によると、「主な雇用(10年以上勤続した賃金雇用)」の離職年齢分布を細分化して提示すると、60歳以上で退職する人の比率は60歳定年義務化以降増加していた。60歳以上の退職の比率は2013年よりも上昇している(表1)。

50代で退職する割合は2013年から2020年では減少したが、いまだに高い水準である。

表1:55~64歳中高齢者の10年以上勤務した主な賃金労働離職時の年齢分布 (単位:%)
画像:表1

資料出所:韓国統計庁「経済活動人口調査中高齢層付加調査」各年度5月

高齢者継続雇用支援制度の活用

 雇用労働部が毎年6月に実施する事業体労働力調査付加調査では、定年制の実施状況とともに、賃金ピーク制・再雇用制度・長年労働時間短縮制度といった中高齢者の勤続雇用支援制度の実施状況を調査している。

賃金ピーク制とは、定年制実施企業が一定の年齢以上の被雇用者の給与を凍結または削減する制度である。再雇用制度とは、定年に達した被雇用者を退職させないか、定年退職後3か月以内に再雇用する制度である。長年労働時間短縮制度とは、満50歳以上の労働者を対象として、所定労働時間を減らす制度である。

以下で高齢者継続雇用支援制度の推移を示す。

定年制度実施率は企業規模に比例して増加

韓国では、2016年以降定年年齢を60歳以上とすることが義務づけられている。

2019年には、常用労働者1人以上の事業体のうち、定年制の実施率は22.6%であった。企業規模が大きいほど定年制実施の割合が高い。1000人以上の事業体では、94.6%の事業体が定年制を実施しているが、一方で、5人未満の事業体では13.9%にとどまっている(表2)。

表2:定年制実施割合(2013~2019年) (単位:千か所、%)
画像:表2
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出所:雇用労働部、「事業体労働力調査付加調査」、各年度6月

賃金ピーク制

60歳以上の定年義務化後、定年制実施企業では賃金ピーク制の導入が大幅に増加した(表3)。

賃金ピーク制導入率は企業規模が大きいほど高く、2019年には、大企業(300人以上)の過半数が実施していた。賃金ピーク制の給与の減額開始年齢は55歳が最も高い(表4)。

表3:賃金ピーク制実施率 (単位:千か所、%)
画像:表3

資料出所:雇用労働部、「事業体労働力調査付加調査」、各年度6月

表4:賃金ピーク制実施事業体の最初の賃金減少年齢分布(%) 
画像:表4
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資料出所:雇用労働部、「事業体労働力調査 付加調査」 各年度6月

再雇用制度期間は規模ごとに異なる

中高齢者再雇用制度の実施率は2019年には約28.9%であった(表5)。再雇用期間は事業体の規模によって異なる(表6)。2019年、再雇用制度を導入している事業体のうち、300~999人規模、および1000人以上の事業体の再雇用期間をみると、1~3年未満の割合が最も高かった(それぞれ38.1%、44.0%)。一方で、100人未満の事業体では期間制限なしの割合が最も高かった。

表5:中高齢者再雇用制度の実施率 (単位:千か所、%)
画像:表5

注:定年制がある事業体が対象。

出所:雇用労働部、「事業体労働力調査付加調査」、各年度6月

表6:中高齢者再雇用制度実施事業体の再雇用期間(2019) (単位:%)
画像:表6
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注:再雇用期間は、反復更新する場合は最長期間である

出所:雇用労働部、「事業体労働力調査付加調査」、2019年6月

長年労働時間短縮制度実施率は定年延長後低下

2019年、すべての事業体(定年制実施の有無にかかわらず)における、満50歳の労働者を対象とした長年労働時間短縮制度の実施率は非常に低く、0.8%であった(表7)。

労働時間短縮制度の実施率は、60歳以上定年の義務化以降減少した。これは、企業が労働時間の短縮よりも賃金ピーク制によって賃金を調整することで定年の延長に対応したことを示唆する。

表7:長年労働時間短縮制度実施比率 (単位:千か所、%)
画像:表7
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注:2013、2014年の労働時間短縮制度は対象年齢が異なる

出所:雇用労働部、「事業体労働力調査付加調査」、各年度6月

補助金の改編対策

このレポートでは、これらの高齢者継続雇用関連制度の活用可否が高齢者雇用に及ぼす影響を分析している。分析の結果、賃金ピーク制は高齢者の雇用にネガティブな影響を与えることが推定された。これは、賃金ピーク制は職務の変更なく賃金の減額のみ行うため、労働者の士気と生産性に否定的な影響を及ぼし、高生産性労働者の早期退職を誘発するという批判と対応している。

一方、再雇用制度と長年労働時間短縮制度は高齢者雇用に肯定的な影響を与えると推定され、特に長年労働時間短縮制度が最も大きくポジティブな影響を与えていた。この結果は、労働時間の短縮によって漸進的な退職を誘導する必要性を示唆する。

定年延長の義務化に伴って60歳以上の就業率は上昇傾向にあるが、中高齢者の雇用及び所得への不安は依然として大きい。中高齢者に対しては離職後の再就職支援と並行して、主な仕事での継続雇用を促進する政策が必要である。

しかし定年延長支援や定年退職者、定年前の在職者の支援制度などは大幅に縮小されている(表8)。現在運営されている中高年に向けた継続雇用支援金制度としては、「高齢者継続雇用奨励金」事業がある(2020年~)。これは、事業主に対して、労働者を継続雇用した場合1人につき、四半期ごとに90万ウォン(2年間)支援する事業である。支援条件として、定年が設定された事業場で、定年に到達した労働者を1年以上継続雇用する必要がある。

このレポートでは、現在は高齢者継続雇用奨励金を除くすべての継続雇用支援補助金制度が終了している点を指摘し、国民年金受給年齢までの継続雇用を促進するために、新たな雇用補助金の導入か、もしくは過去に実施されていた「長年労働時間短縮支援金」の再導入を提案している(注1)

表8:中高齢者継続雇用促進のための雇用補助金制度
画像:表8
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参考文献

  • イ・ビョンヒ「中高齢者継続雇用促進の必要性と支援策」『月刊労働レビュー』2021年8月号、韓国労働研究院

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