メリーランド州で有給家族・医療休暇法が成立
―全米で10州目
メリーランド州で4月9日、労働者に有給の家族・医療休暇の付与を義務づける法律が成立した。2025年1月から実施する。米国では民間労働者に対する有給休暇の付与を連邦法で規定していないが、カリフォルニアなど9州とワシントンD.C(コロンビア特別区)ではすでに法制化している。
連邦法の規定は「無給休暇」のみ
米国では民間企業の労働者に対する有給休暇の付与を連邦レベルの法律で義務づけていない。ただし、連邦家族・医療休暇法(Family and Medical Leave Act, FMLA)が、自身の深刻な健康状態、出産、育児、家族の看病、介護などを理由とする無給休暇(12カ月間に最大12週間)の付与を定めている。適用対象となる労働者は、(1)使用者に12カ月以上、雇用されている、(2)過去12カ月間に1,250時間以上働いている、(3)75マイル(約120キロメートル)の範囲内に同じ企業の労働者が50人以上いる職場で働いている、という条件を満たさなければならない。なお、連邦政府職員に対しては、2020年10月施行の連邦労働者有給休暇法(Federal Employee Paid Leave Act)により、12週間の有給休暇を付与している。
急速な新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、連邦政府は2020年、「家族第一・新型コロナウイルス対策法(Families First Coronavirus Response Act、FFCRA) 」を制定し、同年4月から有給の家族・医療休暇制度を導入した。だが、この措置は2020年末で失効。2021年1月に発足したバイデン政権は有給休暇の恒久制度化をめざし、「より良き再建法案(Build Back Better Act、BBB法案)にその内容を盛り込んだ(注1)。同法案は与党民主党が多数の下院で同年11月19日に可決されたが、与野党の勢力が拮抗する上院での審議は難航している。
メリーランド法の内容
メリーランド州で成立した法律(ケアのための時間法、Time to Care Act of 2022)は育児、家族の看病・介護、自身の深刻な病気の療養などを行なう労働者(休暇前12カ月間に680時間以上働く者)に対して、有給の家族休暇と医療休暇をそれぞれ年間最大12週間(合計で24週間)付与することを定めている。
休暇期間中には、対象者の平均賃金の最大90%(週1,000ドルを上限)を保障する。労使が資金を拠出して有給休暇プログラム運営のための基金を設立。州政府はこのための給与税を2023年10月から徴収し、2025年1月から制度を利用できるようにする。
他州の状況
全米50州のうちカリフォルニアなど9州とワシントンD.C.(コロンビア特別区)が、民間企業の労働者に対して、保険制度の運用などによる有給家族・医療休暇の付与を法律で義務づけている(オレゴン州は2023年9月、コロラド州は2024年1月からそれぞれ制度の運用を開始する予定)(図表1)。カリフォルニア、コネチカット、ニューヨーク(家族休暇)、ロードアイランドの各州は被用者のみ、ワシントンD.C.は雇用主のみが保険料を拠出。他州は労使で負担している。
各州は有給休暇付与の条件や対象となる企業規模、付与日数、所得保障の水準などを独自に定めて制度を運営している。独立自営業者が制度に加入できる州もある。有給休暇の利用目的は原則として、自身の深刻な業務外の病気及び傷害の療養、育児(1年以内に出生、養子縁組、里子にした子どもの世話)、家族の看護・介護などである。家族の範囲は州によって違いがある。コロラド、コネチカット、ニュージャージー、オレゴンの各州ではドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力)やハラスメント、ストーカーなどの被害からの保護を目的にした有給休暇(safe timeまたはsage leaveといわれる)の取得を認めている。なお、出産休暇については、カリフォルニア、ニュージャージー、ニューヨーク、ロードアイランド、ハワイの各州が一時的労働不能保険(Temporary Disability Insurance、TDI)により、休暇中の所得を一部保障している。
州名 | 対象者の資格(注1) | 所得保障率(注2) | 年間最大付与日数(注3) |
カリフォルニア | 基準期間に300ドル以上の収入を得ていること | 60-70%(州平均週給を上限) | 8週間(家族)、52週間(医療) |
コロラド | 基準期間に2,500ドル以上の収入を得ていること | 最大90%。週1,100ドル(制度導入の2年後からは州平均週給の90%)を上限。 | 12週間(妊娠・出産関連で4週間の追加が可能) |
コネチカット | 基準期間に2,325ドル以上の収入を得ていること | 最大95%(州最低賃金の60倍を上限)。 | 12週間(妊娠関連で2週間の追加が可能) |
メリーランド | 休暇前12カ月間に680時間以上働いていること | 最大90%。週1,000ドルを上限(制度導入の2年後からは毎年の物価上昇を反映)。 | 12週間(家族、医療の両休暇を組み合わせ、最大24週間の取得が可能) |
マサチューセッツ | 基準期間に5,700ドル以上の収入を得ていること | 最大80%(州平均週給の64%を上限) | 26週間(ただし、家族は12週間、医療は20週間を上限) |
ニュージャージー | 休暇前20週間に州最低賃金の20倍以上を得ていること、または基準期間に州最低賃金の1,000倍を得ていること | 85%(州平均週給の70%を上限) | 12週間(家族)、26週間(医療) |
ニューヨーク | 家族:現在の雇用者に26週間以上連続して雇用されていること(週20時間未満の労働者は現在の雇用者のもとで175日以上働いていること) 医療:単独の雇用者に4週間以上連続して雇用されていること。 |
家族:67%(州平均週給の67%を上限) 医療:50%(週170ドルを上限) |
26週間(ただし、家族は12週間を上限) |
オレゴン | 基準期間に1,000ドル以上の収入を得ていること | 最大100%(州平均週給の120%を上限) | 12週間(妊娠・出産関連で2週間の追加が可能) |
ロードアイランド | 基準期間中の1四半期に州最低賃金の200倍以上の賃金を得ていること。期間中の賃金の合計がその中で最も高い賃金を得た四半期の1.5倍以上であり、州最低賃金の400倍以上であること。 | 約60%(州平均週給の85%を上限) | 30週間(ただし、家族は5週間を上限) |
ワシントン(州) | 基準期間に820時間以上働いていること。 | 最大90%(州平均週給の90%を上限) | 16週間(ただし、家族、医療のどちらかは12週間を上限) |
ワシントンD.C.(コロンビア特別区) | 休暇前の52週間に特別区の指定事業者に雇われ、特別区内で50%を超す期間働いていること。 | 最大90%。週1,009ドルを上限(毎年の物価上昇を反映)。 | 6週間(ただし育児は8週間を上限。妊娠関連で2週間の追加が可能) |
連邦(参考) | 休暇前12カ月間に1,250時間以上働いていること。75マイル内に50人以上いる規模の職場で働いていること。 | ―(無給) | 12週間 |
出所:非営利組織A Better Balance ウェブサイト Comparative Chart of Paid Family and Medical Leave Laws in the United Statesをもとに作成。
注1:「基準期間」は「休暇前の完全な4四半期(1年)の間」「休暇前の完全な1四半期を除く2~5四半期前の期間(休暇請求日から数えて約4~15カ月前の1年間)」など、州によって異なる。各州の最低賃金は時給で表示される。
注2: 対象労働者の平均週給に占める所得保障の割合。平均週給の計算方法は州によって異なる。
注3:「家族」は育児や看護、介護に関する休暇、「医療」は自身の深刻な健康状態による休暇が該当する。
このほか、全米州議会議員連盟(National Conference of State Legislatures、NCSL)によると、有給病気休暇(Paid Sick Leave)について、12の州とワシントンD.C.が雇用主による付与を義務化している(2020年7月現在)(注2)。例えば、カリフォルニア州法は、企業規模を問わず年間30日以上勤務する者に対して30時間の勤務につき1時間以上の有給休暇を付与するよう定めている。ただし、雇用主は付与の上限を年間24時間または3日間に設定できる。未使用分の繰越しは可能とし、年間付与数との合計で48時間または6日間以上の有給休暇を取得できるようにする必要がある(注3)。
「希望者のみ加入」の州法も
メリーランド州に続いて有給休暇の付与を法制化する動きもある。デラウエア州では最大12週間、所得の最大8割を保障する家族・医療休暇法案が4月14日までに州の上下両院を通過し、州知事が署名すれば成立する段階に入った。ブルームバーグ通信によると、メイン州とニューメキシコ州でも有給休暇の法制化に向けて調査委員会を設立している。
ニューハンプシャー州では民間保険会社と契約し、希望者のみを対象とする有給家族・医療休暇プログラムの導入を進めている(注4)。制度に参加するかどうかは雇用主の判断に委ねるが、不参加の雇用主に雇われる者も、一定の保険料(週5ドル以下)を支払えば制度の対象にする。州政府は雇用主が支払う保険料の半額を税額控除するなどして制度の導入を支援する。付与対象者には6週間、年間平均週給の60%を保障する。2023年1月から実施する予定。この制度に対しては「必要な時にだれもが利用できる制度になっていない」(同州で家族・医療休暇法の制定をめざすキャンペーン組織=the Campaign for a Family-Friendly Economyのアマンダ・シアーズ氏)といった批判もある。
注
- 労働政策研究・研修機構(2021)「『Build Back Better(より良き再建)』法案と労働政策 (海外労働情報・アメリカ)」『Business Labor Trend』2022.1-2 参照(本文へ)
- アリゾナ、カリフォルニア、コネチカット、メリーランド、マサチューセッツ、ミシガン、ネバダ、ニュージャージー、オレゴン、ロードアイランド、バーモント、ワシントンの各州とワシントンD.C.が制度を設けている。こららの州の多くは、自身の病気療養に加え、家族の看病や家庭内暴力などの被害保護を目的とする取得も認めている。全米州議会議員連盟ウェブサイト 参照(本文へ)
- 新型コロナウイルスの感染拡大に対処するため、カリフォルニア州では有給病気休暇の付与時間数を追加する措置をとっている。2021年1~9月及び2022年1~9月に、26人以上規模の事業者に雇われ、ワクチン接種や副作用からの回復、自身の感染・検査・隔離、家族の世話などのため勤務(リモートワークを含む)できない労働者を対象に、2021年は最大80時間、22年は同40時間の有給病気休暇を追加した。ニューヨーク州でも新型コロナウイルス関連の検査・隔離を目的とする有給病気休暇の付与を事業主に義務づけた。(本文へ)
- 2021年6月25日に同プログラムの実施について定めた法律が成立し、その運営を担う民間保険会社の選定手続きが行なわれている。ニューハンプシャー州ウェブサイト 参照(本文へ)
参考資料
- A Better Balance Comparative Chart of Paid Family and Medical Leave Laws in the United States
- 労働政策研究・研修機構(2018)『諸外国における育児休業制度等、仕事と育児の両立支援にかかる諸政策 ―スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、韓国』JILPT資料シリーズ No.197
- 全米州議会議員連盟、日本貿易振興機構、ニューハンプシャー州、ブルームバーグ通信 メリーランド州、各ウェブサイト
参考レート
- 1米ドル(USD)=130.33円(2022年5月11日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
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