議会報告書、農業・食品関連労働者の不足への対応を政府に要請

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  • 国別労働トピック:2022年5月

議会の環境・食料・農村地域委員会は3月、農業や食品関連産業の労働力不足に関する報告書をまとめた。農産物の収穫や食料生産などが滞る現状を放置すれば、農業や食品産業の長期的な衰退を招きかねないとして、外国人労働者の受け入れや国内労働者の育成などの対応を政府に求めている。

短期的には外国人労働者で充足、長期的には国内労働者の確保への取り組みを

報告書(注1)によれば、国内の食品関連業種は既に2021年の中頃には、労働力不足に起因する様々な影響に直面し始めていた。具体的には、収穫に要する人手を確保できないため廃棄せざるを得ない農産物の増加や、食肉処理労働者の不足により余剰となった数万頭の豚の殺処分、また食料品の生産や運搬の遅滞に伴うスーパーなどでの欠品、などの状況が生じていたとされる。一部の業種では、賃金の引き上げや採用時の一時金支給などによる人員確保の努力も行われているものの、労働供給の拡大には必ずしもつながらず、同業内での労働者の奪い合いになりがちであるという。このため業界団体は、期間を限定した外国人労働者の受け入れによる対応を求めていた(注2)

政府は当初、これに消極的な立場を示していたが、2021年10月以降、外国人労働者の短期受け入れ拡大を期間限定で承認することとした。2019年から試行的に実施している季節労働者受け入れスキーム(注3)を一時的に拡張し、スキームの管理機関を通じて、鳥肉処理労働者5500人、豚肉処理労働者800人、食品運搬などの重量物運搬車両のドライバー5000人の受け入れをはかるというものだ。しかし、内務省の公表したデータによれば、昨年10-12月の期間における実際の受け入れ許可件数は、鳥肉処理労働者で1770人、豚肉処理労働者で115人、ドライバー130人など、低調な結果となった。業界団体はその原因として、制度導入の遅れや、就労を認められる期間の短さから労働者の応募を得にくかったとみられること(注4)、また募集を担った管理機関が、農産物の収穫以外の分野での人材確保に不慣れだったことなどを挙げている。

報告書は、EU離脱により労働者の調達が困難になったことに加え、コロナ禍からの経済活動の回復が想定されたよりも早く、労働力需給が逼迫したことが、労働力不足の深刻化を招いたと指摘。この状況を放置すれば、賃金の上昇や食品価格の上昇から、国内の食品産業の競争力が低下し、食品生産の国外への流出や外国産の食料品の輸入増などにより、食品産業の長期的な衰退を招きかねないとして、以下の諸点を提言している。

  • 2021年秋に実施した短期受け入れビザのスキームが、告知の遅れにより産業側の活用の妨げとなったことを教訓とすること
  • 産業側との連携を改善し、問題提起を真摯に受け止め、早急に対応するための策を講じ、将来の政策的介入が今回のように不十分で遅すぎることのないようにすること
  • 専門技術者ビザ(Skilled Worker Visa)スキームにおける英語能力要件のレベルや、申請手続きの複雑さ、費用の高さなどが受け入れの妨げとなっていないか、見直しを行うこと
  • 季節労働者受け入れスキームの拡充(後述)は歓迎するが、スキームの恒久化と、複数年にわたる受け入れ予定人数の公表に努めること
  • 産業側との協力により、短期的な労働力不足への取り組みと並んで、より長期的な労働力確保の戦略、すなわち新技術の開発・活用と魅力的な教育訓練の組み合わせにより国内労働者を引きつけ、外国人労働力への依存を弱めるための戦略を作成すること

季節労働者の賃金水準を専門技術者と同等に引き上げ

政府は、試行中の季節労働者受け入れスキームを2024年末まで延長することを決めており、受け入れ枠についても、従来の食用作物分野の3万人に加え、4月からは新たに観賞作物(生花、苗木等)分野で1万人までの労働者受け入れを認めている。一方で、2023年以降は受け入れ枠を順次縮小するとしており、雇用主に対して賃金や労働条件の改善を通じた労働力確保の努力を求めている。その一環として、4月からは新たに賃金水準に関する要件を設定、専門技術者の受け入れと同等の時間当たり10.10ポンドとすることとした。これまで最低基準として適用されていた最低賃金(23歳以上の場合、3月時点で時間当たり8.91ポンド)からは、13.3%の引き上げとなる(注5)

なお、季節労働者の受け入れにはこれまで、ウクライナやロシアからの労働者が大多数を占めていた(注6)ことから、ロシアのウクライナへの軍事侵攻による影響を大きく受けたとみられる。現地メディアによれば、人員調達が想定を大幅に下回る農場が相次いでおり、管理機関はネパールやインドネシア、カザフスタンなど、アジアでの採用の拡大により対応をはかっているとされる。

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