非労働力人口の増加

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2022年5月

経済の再開に伴い、失業率が記録的に改善する一方で、中高年層を中心に非労働力人口の増加が続いている。統計局の調査によれば、コロナ禍の最中に離職した高年齢層の多くは自発的に引退しており、一部は就労への復帰も考慮しているものの、仕事内容や勤務形態(パートタイムや柔軟な働き方)を条件として重視しているとみられる。

男女間で非労働力化の傾向に違い

統計局が5月に公表した雇用関連統計によれば、2022年1月-3月期の就業者数は3257万人で、コロナ禍初期の水準(2019年12月-2020年2月期で3307万人)には依然及ばないものの、経済活動の再開に伴う2021年中の雇用の回復以降、概ね横ばいで推移している。また、同期の失業者数は126万人、失業率は3.7%とコロナ禍初期(2019年12月-2020年2月期で4.0%)を下回って47年ぶりの水準にまで改善した。

昨年9月末には、18カ月にわたって実施されてきた雇用維持スキーム(一時帰休中の従業員の賃金を雇用主に支給)が終了し、これに伴う失業者の増加(注1)が予想されていたが、むしろ失業者数は2021年初頭以降、14カ月連続で前期(注2)から減少している(図表1)。これには、雇用回復と並んで、非労働力人口の増加が一因となっているとみられる。非労働力人口は、感染拡大の最中にあった2020年から2021年初頭には、主に雇用の減少に対応する形で増加したが、続く雇用回復期には減少の後、雇用維持スキームの終了前後から直近までの5カ月間については、主に失業者数の減少を背景に対前期で10万人前後の増加が続いている。

図表1:就業者数、失業者数、非労働力人口の変化(対前期差、千人)
画像:図表1

注:各指標は3カ月間の移動平均。

出所:Office for National Statistics "Labour market overview, UK: May 2022"

年齢階層別のデータからは、この間、若年層における減少と並行して、中高年層を中心とする非労働力人口の増加が生じていることがわかる(図表2)。これをさらに男女別で見ると、男性では50-64歳層の、女性では35-49歳層の増加がそれぞれ顕著となっている。同期間に、男性では50-64歳層の失業者数が減少、女性では35-49歳層の就業者数が減少していることから、男性では失業者からの非労働力化、女性では離職による非労働力化が、それぞれ進んだ可能性が推測される。

図表2:年齢階層別非労働力人口の変化(対前期差、千人)
画像:図表2

出所:同上

なお、理由別非労働力人口の推移からは、2021年の中頃以降の「長期傷病」を理由とする非労働力人口の増加に替えて、直近では「引退」や「家族の世話・家事」が増加しつつある状況がうかがえる(図表3)。ここでも男女間で傾向が異なり、前者は主に男性、後者は女性の増加が顕著だ。

図表3:理由別非労働力人口の変化(15-64歳、対前期差、千人)
画像:図表3

注:「その他」には、求職の応募後の結果待ち、求職活動の開始前、仕事が必要ない・求めていない、その他分類できない理由、理由回答なし、を含む。

出所:同上

高齢層は多くが自ら非労働力化、就労復帰には仕事内容や勤務形態を重視

統計局は、50歳以上層の労働市場からの離脱の状況に関する調査結果を公表している(注3)。この中で、コロナウイルスの感染拡大以降に離職のうえ、調査時点で就労していない50歳以上層について見ると、75%が自らの選択で離職したとする一方、想定していたよりも早い時期に離職したとの回答も6割以上(63%)を占めている。同時に、離職の理由(複数回答)として、47%が「引退」を挙げているほか、「コロナウイルスの感染拡大」(15%)、「病気や障害」(13%)、「もう働きたくなかった」(11%)、「一時帰休の後に失職」、「ライフスタイルを変えたかった」、「ストレスやメンタルヘルス」(それぞれ10%)などの比率が高い。

感染拡大後の離職者の大半(94%)は、現在職探しをしていないものの、それでも約4割(職探しをしていない者の39%)が、いずれ就労に復帰することを考えていると回答している。ただしこのうち、「すぐにでも復帰したい」とする者は限定的(復帰を考えている者の12%)で、過半数は「わからない」(同54%)と回答している。また、復帰を考えている者および現在職探しをしている者は、復帰後の仕事に望むこととして、「自身のスキルや経験にあっていること」(47%)、「柔軟な勤務形態が可能であること」(41%)、「条件に合った勤務場所であること」(38%)「健康状態や障害の状況に合っていること」(22%)、「十分な賃金が支払われること」(21%)などを挙げている(注4)

働き方に関する選択肢も、復帰を大きく左右する要因とみられる。復帰を考えている者および現在職探しをしている者のほぼ7割(69%)は、パートタイムの仕事を希望している。また、仕事の選択において重視する事柄として、「柔軟な勤務形態が提供されていること」(75%)、「在宅就業が可能であること」(28%)、「メンタルヘルスに関する支援があること」、「育児・介護責任との折り合い」(それぞれ14%)などが挙げられている。感染拡大前に比して、新しい働き方へのニーズが顕著に高まっていることがうかがえる。

なお、離職後の生活を支える手段(複数回答)については、54%が私的年金を挙げているほか、貯蓄・投資(42%)、公的年金(27%)、パートナー・家族からの金銭的支援(19%)などを挙げる比率が高い。また、離職後に心配が増した事柄として、半数以上が「生活費の上昇」(52%)を、また3割前後が「金銭」(32%)、「収入・貯蓄の減少」(26%)を挙げている。

参考資料

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