物価上昇によるSMIC(法定最低賃金) 、引き上げ
 ―5月1日に時給10.85ユーロへ

カテゴリー:労働条件・就業環境労使関係

フランスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2022年5月

エネルギーや食品の価格高騰により物価上昇率が規定を超えたため、法定最低賃金(SMIC)(注1)が5月1日に引き上げられた。労組は政府裁量による大幅な引き上げを要求しているが、マクロン大統領はSMICの引き上げは従来通り、物価と平均賃金の上昇に連動して引き上げ、別途購買力強化のため、特別手当に対する非課税措置をとる考えを示している。

前回改定時(2022年1月)から2%強の物価上昇

フランスの法定最低賃金(SMIC)は、消費者物価上昇に伴って引き上げられる。前回の引き上げ時から物価上昇率が2%を超えると、翌月から物価上昇分を引き上げる (労働法典L. 3231-5条)。国立統計経済研究所(INSEE)は4月15日に、前月の物価上昇率を発表したが、前回のSMIC引き上げの基準となった21年11月から22年3月にかけての消費者物価の上昇率が2%を超えたため(注2)、5月1日に従来の時給10.57ユーロを2.65%引き上げて、10.85ユーロとした(注3)。フルタイム換算で月額1,603.12ユーロから1,645.58ユーロへの引き上げとなる。2007年以降の最賃額と引き上げ率の推移を示したのが図表1である。2012年以降2020年までは1月1日の年に1回の定例の引き上げのみだったが、2021年以降、物価上昇に伴う引き上げが行われている。

図表1:最賃額(時給)と引上げ割合の推移(2007年~2022年)
画像:図表1

出所:政府発表資料より作成。

注:08年5月、11年12月、12年7月、21年10月、22年5月以外は定例の引き上げ。定例の引き上げは2009年までは7月1日、2010年以降は1月1日。

スミカール(SMIC引き上げに伴い賃上げされる労働者)の割合

SMICの引き上げによって賃金が影響を受ける労働者(スミカール:smicards)の割合(影響率)は、定例の1月1日の引き上げから約11カ月後に労働省によって公表される。2021年1月にSMICを約1%引き上げた際、スミカールの人数は204万人、民間部門の雇用労働者に占める割合は12.0%だった(注4)。1987年以降の割合の推移を示したのが図表2である。

図表2:影響率の推移
画像:図表2

出所:Christine PINEL(2021)および Yves JAUNEAU(2009)より作成。

SMICの引き上げによる影響率は、企業規模(従業員数)が小さいほど、その割合が高くなる。労働省調査・研究・統計推進局(DARES)によると、21年1月の引き上げの際に、従業員数500人以上の企業で5.6%、10人以上の企業では9.1%だったのに対して、10人未満の企業では24.1%だった(図表3参照)。また、雇用形態の違いも顕著であり、フルタイム従業員の8.4%に対して、パートタイム従業員では27.1%と高くなる。

業種別にみるとフルタイムとパートタイムを合わせた全体では、製造業が5.3%、建設業が9.4%だが、サービス業では医療・福祉サービスが19.7%、ホテル・レストランが37.0%と高くなっている。雇用形態別にパートタイムだけみてみると、製造業が14.0%、建設業が22.0%、サービス業では医療・福祉サービスが31.3%、ホテル・レストランが60.4%と割合が高くなっている。

男女別で見た場合、204万人のスミカールのうち、121万人(59.3%)が女性である。これを企業規模(従業員数)別に見ると、10人未満の企業ではスミカールの55.4%が女性だが、10人以上では61.8%、特に500以上では64.6%となっている(図表3参照)。

図表3:性別・雇用形態別の影響率 (単位:%)
画像:図表3

出所:Christine PINEL(2021)より作成。

物価上昇の見通し

INSEEの景気循環部門の責任者によると、SMICが引き上げの基準とする低所得世帯の物価指数は、エネルギー価格と食料品の価格の高騰を受けて、全体でみるよりも速いペースで上昇している(注5)。最賃専門家委員会(groupe d'experts SMIC)の会長によると、ウクライナ情勢を踏まえると、政府が燃料価格に対する補助金による価格介入をしたとしても、今後のインフレは予測不可能で、商品価格の上昇が生産価格や販売価格、賃金への波及についても、見通しは不透明であるとしている。

労組の反応と大統領の方針

今回のSMIC引き上げに際して、労働組合は一部を除いて、最低賃金の大幅な引き上げを要求している。労働総同盟(CGT)は、政府裁量による20%引き上げに相当する時給2,000ユーロを要求している(注6)。また、SMIC引き上げに伴って産業部門別の協約に規定される最低賃金がSMICを下回る現状を問題視しており、SMIC引き上げと連動して協約の低額賃金を自動的に引き上げるシステムの構築を提案している。

労働者の力(FO)は、民間企業の従業員の賃金分布の中央値の80%に相当する時給2,070ユーロまでの引き上げを要求している(注7)。また、低賃金が固定化している旧来の労使交渉の在り方を根本的に見直すことも要求している(注8)

フランス民主労働総同盟(CFDT)は、大幅な引き上げを要求してはいないが、SMICの上昇に伴い協約賃金を引き上げた産業部門について、SMICの1.6倍未満の賃金に対する社会保障拠出金の免除を要望しており、3カ月以内に労使交渉の開始を要求するとしている。

管理職総同盟(CFE-CGC)は、SMIC引き上げに協約賃金が追いついていない産業部門があることを問題視し、協約の賃金表を毎年インフレに相当する上昇幅で再評価する仕組みづくりを要求している。

その一方で、マクロン大統領が大統領選に向けた公約でのSMICに対する方針は、従来通りインフレと平均賃金の変動に連動する引き上げで十分であるという内容であり、政府裁量による追加の引き上げには否定的である。その代わり従業員の購買力を高めるために、特別手当(ボーナス)に対する非課税額を引き上げる考えを示した。以前、マクロン大統領は、18年12月から19年3月の間に特別手当を支払った企業に対して、1,000ユーロを上限として税金や社会保障を非課税とする措置をとったが、それを3,000ユーロに引上げて実施する方針である(注9)

(ウェブサイト最終閲覧:2022年5月10日)

参考レート

関連情報

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。