2022年の労働分野における主な法改正

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2022年4月

2022年1月以降、コロナ下の操業短縮手当の特例措置の延長、特定国からの外国人労働者受入緩和措置の延長、法定最賃や各種手当ての引上げ、民間職業紹介の規制強化、失業届けの電子化等に関する様々な法改正が行われた。以下に労働分野の動向を抜粋して紹介する。

コロナ下における操短特例の延期(2022年3月末まで)

新型コロナウイルス感染拡大による、操短手当(操業短縮手当)の特例措置は2021年12月末で終了予定であったが、原則として2022年3月31日まで3カ月間期限が延長された。

  • 操短手当の受給期間を最長24カ月まで延長できる特例措置を、さらに3カ月間延長。
  • 操短手当への「アクセスの緩和(erleichterter Zugang)(注1)」に関する特別規定―すなわち一事業所における賃金が減少した従業員の割合に関する要件を3分の1以上から10%以上に緩和し、さらに操短手当の受給前に労働時間口座の残高をマイナスにする要件をなくす特例措置―の適用期間を延長。
  • 操業短縮期間中は使用者が単独で負担しなければならない社会保険料の50%を、申請により一律で使用者に還付。
  • 派遣労働者も操短手当を受給することができる適用拡大措置を継続。
  • 僅少労働(ミニジョブ)による追加報酬は、今後も操短手当の計算に算入されない(注2)
  • 操業短縮が長期にわたる場合の、操短手当の補填率引上げ措置(4カ月目の受給月から減少した賃金の70%・子のいる世帯では77%、7カ月目から80%・子のいる世帯では87%)の延長。加えて当該措置を、2021年4月以降に初めて操業短縮を開始した労働者にも拡大。

西バルカン諸国からの外国人労働者受入緩和措置の延長(就労令改正に関する第6命令)

西バルカン諸国からの外国人労働者の受入緩和措置である、いわゆる「西バルカン・ルール(Westbalkanregelung)」が2023年末まで延長された(注3)。これにより、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、モンテネグロ、北マケドニア、セルビアの国籍者は、正式な就労資格を問わず、ドイツへの入国が可能となる。ただし、連邦雇用エージェンシー(BA)の同意は必要で、引き続き、労働市場テスト(優先権審査)や賃金等の雇用条件が適切かどうか等の確認(比較性審査)を行い、外国人労働者の保護に努める。また、年間2万5000人を上限とする、数量割当制度も導入された。

法定最低賃金の引上げ―2022年1月から時給9.82ユーロ

法定最低賃金は、2022年1月1日から時給9.82ユーロに引上げられた。この引上げは、2020年6月30日の最低賃金委員会の勧告に基づき、2020年11月9日の第3次最低賃金調整令によって実施された。

<参考:2020年6月30日 最低賃金委員会勧告>

9.50ユーロ(2021年1月~)

9.60ユーロ(2021年7月~)

9.82ユーロ(2022年1月~)

10.45ユーロ(2022年7月~)

求職者基礎保障給付などの引上げ

2022年1月1日から、求職者基礎保障の新しい標準給付額(月額)が適用された。失業手当Ⅱ(ALGⅡ)に関する単身受給者の標準給付月額は、446ユーロから449ユーロに引上げられた(詳細は図表1の通り)。

表1:求職者基礎保障の標準給付月額 (単位:ユーロ)
受給資格者 2021年 2022年
基準需要額(RBS)1 単身者、単身養育者、ひとり親の受給資格者 446 449
基準需要額(RBS)2 双方とも成人(満18歳以上)同士のパートナー(カップル)の者1人につき 401 404
基準需要額(RBS)3 両親と同居する満18歳以上25歳未満の者、ジョブセンターの保証なしに転居する成人の受給資格者で満25歳未満(18歳~24歳)の者 357 360
基準需要額(RBS)4 満14歳以上、満18歳未満 (14~17歳)の者 373 376
基準需要額(RBS)5 満6歳以上、満14歳未満(6~13歳)の者 309 311
基準需要額(RBS)6 満6歳未満(0~5歳)の者 283 285
  • 出所:BMAS(2019、2020)

このほか、個人の学用品需要(注4)に対する給付は、2022年の前学期は104ユーロ、後学期は52ユーロに引上げられた。

さらに、求職者基礎保障への「アクセスの緩和(前掲:注1)」に関する認定期間も延長され、2022年3月31までに受給を開始する場合に適用される。

なお、病気や事故等で稼得能力のない困窮者の生活保障を目的とした「社会扶助(Sozialhilfe)」の給付水準も、求職者基礎保障の標準給付額と同額で設定されており、社会法典第12編(SGB XII)による基準需要額レベル改定令2022(注5)に基づき、同様に引上げられた。

  • 基準需要額(RBS 1):449ユーロ
  • 基準需要額(RBS 2):404ユーロ
  • 基準需要額(RBS 3):360ユーロ
  • 基準需要額(RBS 4):376ユーロ
  • 基準需要額(RBS 5):311ユーロ
  • 基準需要額(RBS 6):285ユーロ

また、連邦援護法(BVG)に基づく社会的補償法(SER)(注6)における補足的生計扶助や、庇護申請者給付法(AsylbLG)に基づく基準額にも、社会法典第12編(SGB XII)に基づく基準需要額が2022年1月1日から同じく適用され、引上げられた。

民間職業紹介に対する規制強化、手数料ルールの明確化

民間職業紹介の分野は、2022年1月1日から以下の法改正がなされた。

  • 民間職業紹介事業者には、国境を越える職業紹介を行う場合、当該労働者に対し、労働条件に関する情報や社会的パートナー(労使)、ドイツの公的機関の相談サービスに関する情報を提供することが義務付けられた。
  • 民間職業紹介事業者は今後、僅少労働(ミニジョブ、ミディジョブ)(注7)の紹介に対して、求職者に紹介手数料を要求したり、受け取ったりしてはならないこととされた。このことは、賃金面で僅少の場合にも、時間面で僅少の場合にも適用される。
  • 社会法典第3編(SGB III)第45条第6項の規定による、積極的職業紹介クーポン(注8)に基づく民間職業紹介事業者による社会保険加入義務のある雇用への職業紹介が成功した場合の報酬が、500ユーロ引上げられた。また、この場合、地域の雇用エージェンシー(AA)やジョブセンター(Jobcenter)が紹介手数料の支払いを負担し、労働者自身が追加的な負担をすることはない。

年金受給開始年齢

2012年から2029年にかけて、年金受給開始年齢(Renteneintrittsalter)が65歳から67歳へ段階的に引上げられている。この法定年金保険の段階的引上げ(「67歳年金支給制度」)の一環として、支給開始年齢がさらに1カ月、引上げられた。その結果、1956年、あるいは1957年生まれの被保険者は、従前より1カ月遅い65歳10カ月、あるいは65歳11カ月で標準受給年齢(Regelaltersgrenze)に達することになった。

出生年が上記以降の者は、標準受給年齢がさらに1カ月ずつ、引上げられ、将来的には、出生年ごとに2カ月ずつの引上げとなる。最終的に1964年以降に生まれた人から、法定の標準受給年齢が67歳となる。

企業年金における改善

2022年1月1日から使用者は、従業員がその賃金または給与の一部を企業年金に転換する場合に、軽減された社会保険料(注9)を、常に、15%を上限として、従業員のために年金機関(年金金庫、年金基金、または直接保険)に積立てなければならない(注10)(従来この義務は、2019年1月1日以降に新たに締結された賃金転換の場合に限り、適用されていた)。

なお、同規定は協約任意性(tarifdispositiv)を有するため、労働協約で労働者に有利または不利な形でこの規定からの逸脱が可能である。

失業届けの電子化(オンライン化)

2022年1月1日に、失業届けの電子化に関する新規定が発効した。これにより今後は、管轄の雇用エージェンシー(AA)におけるオンラインの個人面談(注11)と、電子フォームによる失業の届出が併用できるようになった。電子式で失業を届け出る場合には、身分証明書法に基づく電子式の身分証明、「オンライン証明機能(Online-Ausweisfunktion)(注12)」が用いられる。

社会保険の自治機関に対する「書面による決議規定の緩和」の延長

社会法典第4編(SGB IV)第64条第3a項の既存の特例措置、―すなわち、社会保険の保険者の自治機関が重大な事由がある場合に会議なしで書面により決議することを可能とする規定(対面会議原則の例外)―が、2022年12月31日まで延長された。これにより、新型コロナウイルス感染拡大下でも自治機関の機能・行動能力が確保された。

芸術家社会保険料の据え置きと加入制限緩和措置の延長

「芸術家社会保険」については、コロナ禍でより厳しい状況に陥ることを防ぐため、複数の措置が講じられてきた。芸術家社会保険分担金の料率は、連邦資金の追加投入により2022年1月1日以降も引き続き、4.2%に据え置かれた。さらに、芸術家社会保険法で定められる年金加入条件の最低年間所得(3900ユーロ(注13))は、2022年も引き続き撤廃された。加えて、芸術家としての活動以外の追加的な自営活動に対する月収上限 の引き上げ措置(注14)、―450ユーロから1300ユーロへの暫定的な引上げ―が、1年間延長され、2022年末まで適用されることになった。

自営業者の地位確認手続の改善

年金保険機構(DRB)の「クレアリング(Clearing)」部署では、自営業者か労働者(被用者)か等の地位判断を個々の申請に応じて行っている。今回の改正で、この地位確認手続(注15)が、以下の通り改善された(注16)

  • 予測に基づく決定(注17)の導入によって、従業上の地位の確認を活動開始前にすでに可能とし、それによって従来よりも早期の確認を可能とする。
  • 将来的に、従業上の地位の確認が、保険加入義務確認に代わって行われることになる。これにより、関係者とクレアリング機関の官僚主義的な負担が軽減され、手続が簡素化される。
  • 同一の契約関係に対しては、グループ確認(注18)が可能となる。これによって、特に同一の委託を行う場合に委託者の負担が軽減される。委託者は同一の委託に対して別個に地位確認手続を行う必要がなくなる。
  • 将来的に、特定の三者関係(注19)の審査が可能となる。これによっても、地位確認手続を別個に行うことを避けることができる。
  • 異議申立手続きにおいて、書面審理のみであったのが、口頭審理(mündliche Anhörung)も可能になった。

以上の新規定は2022年4月1日に発効した。主要な改革要素はテスト期間を設けるため、時限的に2027年6月30日まで適用される。この期限が経過する前の適時に、改革要素の評価が実施される。

ジョブセンターの役割強化とリハビリテーション参加者に対する支援の拡大

参加強化法(注20)により、2022年から、リハビリテーション対象ケース(Reha-Geschehen)においてジョブセンター(Jobcenter)の役割が従来よりも強化された。稼得能力のある受給権者は今後、ジョブセンターでリハビリテーション処置に加えて社会統合サービス(注21) が受けられるようになり、持続可能な支援はもちろん、社会参加へのアクセスが可能となる。これには、地方自治体のサービス(債務者相談や依存症相談など) (注22)や、参加機会法で創出された新たな労働市場参加(就業)のための措置(注23)が含まれる。この施策の目的は、既存の不均等な待遇を撤廃することである(注24)。さらに、社会法典第2編(SGB II)や社会法典第3編(SGB III)における積極的雇用促進の可能性を拡大し、それによって労働市場への統合機会を高める。

参考資料

参考レート

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