コロナ危機の影響を受けたホテル・カフェ・レストラン業における賃上げ

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2022年3月

新型コロナウイルス感染拡大により営業が制限されたレストラン業では、規制緩和後の営業開始に際して、人手不足の問題に直面した。営業再開後、数カ月経過しても人手不足の問題が解消されることなく、その理由は低賃金にあるとの指摘もあり、2021年10月から産別協約の改定交渉が行われた。2022年1月17日に労組のうちCFDTとの間で労使合意が成立し、約16%の引き上げになる見通しとなった。2月22日以降、超過勤務手当の割増率などに関する条件交渉が行われている。

労相による賃上げ要請

新型コロナウイルス感染拡大により、2020年3月以降、外出制限やロックダウンが実施され、レストラン業は様々なかたちで営業が制限された。感染拡大の影響を受けて、2020年2月から2021年2月の間に、ホテル、カフェ、レストランの業種では23万人以上の雇用が失われたとされている(注1)。休業中の労働者に対する補償として部分的失業制度があり、飲食業に関しては手厚い補償が実施されたが、不安定な労働条件を嫌って、他の業種に転職した者が少なくない。特に、平日の日中のみの勤務の業種、夜間や週末を犠牲にして就労することのない職種である、流通や建設・土木、販売などへの転職が多かった(注2)。21年5月以降、新規感染の減少傾向が見られ、営業制限が解除された際、人手不足が問題化した(BLT2021年10月号71頁参照 (PDF:880KB))。その後も人手不足が解消されることはなく、9月になってボルヌ労働大臣は、人手不足の要因は賃金が就労条件に見合っていないことにあるとして、協約賃金の改定を求める発言をした(BLT2021年12月号66頁参照 (PDF:947KB))。

経営者団体の反発

これに対して、ホテル・カフェ・レストラン業の経営者団体(UMIH)は、本来、政府は労使交渉に介入をすべきではないとして、労相の発言に反発を示した(注3)。また、同業界の人手不足の第一の原因は、日曜就労やヴァカンス期間の就労など変則的な勤務形態やランチとディナーの間の中休みなどの中断時間といった労働条件の悪さのためであり、賃金の問題はその他の要因の中でも優先順位の低い要因に過ぎないと反論した。さらに、協約賃金が法定最賃を下回っている現状については、現行の協約が2018年に成立した古いものであり、2019年の交渉では経営者側の提案に対して、労組側は署名せず産別協約が改定されなかったためとしている。その上で、協約賃金の最低額が法定最低(SMIC)を下回っていても、SMIC以上の額が支払われている実態を労相は理解していないようだと指摘し、実際の平均月額はSMIC(2021年月額:1554.58ユーロ)を大きく上回っていると主張した。ただ、2018年から労使合意に至らず産別協約が改定されていないことは問題視しており、労使交渉は行うことを強調した。

約16%の賃上げで労使合意

ホテル・レストラン業の産別労使交渉は、10月5日に経営者側からの最初の賃上げ提案があり、11月18日に労使交渉を開始し、12月16日に今回労使合意した内容の提案が経営側から示された。同産業で2番目に多い30.94%の従業員を代表する労組のCFDTとUMIHとの間で合意が22年1月17日に成立した。協約最低賃金はSMICより5%高い時給11.01ユーロになり、協約賃金全体で平均16.33%の賃上げとなる。最も多い従業員数を代表するCGT(36.27%)とFO(26.57%)は協約に署名しないが、反対はしない意向を表明している(注4)。フランスでは3割以上を代表する労組が合意し、半数以上を代表する労組が反対しなければ協約が成立するとされている(注5)

カステックス首相は、2018年以降、妥結に至らなかった労使合意が今回実現したこと、同産業で就労する250万人に適用されることを踏まえて「歴史的な」合意と評価している。

ただ、CFDTは当初、協約最低賃金の25%引き上げを求めていた。経営者側が前例にない提案をしてきたことを踏まえて合意に至ったとしており(注6)、その他の労働条件については今後、具体的に協議していく必要があるとしている(注7)

今後は超過勤務手当、休憩時間等に関する交渉

CFDTによると、労働条件に関する更なる交渉が予定されており、休憩時間や超過勤務手当に関して交渉の議題になるとしている。

超過勤務手当の割増率については、協約が締結されていない場合、労働法典に従うことになり、超過労働時間の最初の8時間、すなわち、週35時間労働の場合36時間目から43時間目は25%増、44時間目以降は50%増の割増手当を支給するものと規定されている(労働法典 L3121-36)。割増率は労使合意があれば協約で規定することができることになっており、10%を下回ってはならないとしている(同 L3121-33)。ホテル、飲食関連産業では、協約が締結されており、最初の8時間は10%、それ以降は20%と規定されている。CFDTは、この割増率を引き上げることが職業として魅力を取り戻すためには必要だと考えている。この交渉は2月22日、3月29日、5月31日に実施される予定である(注7参照)。

(ウェブサイト最終閲覧:2022年2月28日)

参考レート

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