政労使、「国家継続訓練戦略」を初採択
 ―デジタル化時代の変化に備える

カテゴリー:労働条件・就業環境人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2019年10月

政府(連邦・州)、連邦雇用エージェンシー、労働組合、使用者団体は6月12日、史上初の「国家継続訓練戦略」を採択した。これまで、若年者対象の「初期訓練」について政労使が連携を図ることはあったが、「継続訓練」について政労使が国家戦略を採択するのは今回が初めて。背景に、デジタル化による労働環境の急速な変化に対応するため、求職者や在職者に対する「継続訓練」が欠かせないという関係者の共通認識がある。

デジタル化と未来予測

連邦労働社会省は「2025年までにデジタル化と技術変革によって、130万の仕事が失われると同時に、210万の新たな仕事が生まれる」との予測を出している。例えば、卸売・小売、銀行・保険の分野では、人間の仕事は技術的なソリューションによって代替される可能性高い。他方で教育、保健・医療、介護の分野では、人間の仕事への需要がさらに増加するとされる。自動車などの工業分野では、生産システムの変化によって業務内容が大きく変化し、新たな技術や資格の取得が必須になる。このような変化に適応し、求職者や在職者が、未来でも安定して働ける取り組みの1つとして「国家継続訓練戦略(Nationale Weiterbildungsstrategie)」が採択された。なお、ドイツでは「デュアルシステム(注1)」に代表される若年者の「初期訓練」は、政労使が連携して取組み、社会的に広く認知された制度として確立している。EU諸国におけるドイツの若年失業率は相対的に低く安定しており、同制度は内外から高く評価されている。他方、その次に続く「継続訓練」は、マイスター制度等のごく一部を除き、社会的に確立した制度とはなっていない。そこで、デジタル化による環境の変化に適応するための「継続訓練」に主眼を置いた政労使の連携と包括的な国家戦略の策定が求められていた。

具体的な取り組み案

採択された戦略によると、継続訓練は3つの取り組みを並行して行う。1つは「企業内の継続訓練」であり、各企業の責任において行われる。2つめは、「失業者に対する継続訓練の強化」で、今後全ての失業者が3カ月以内に受講資格を取得できるよう支援する。具体的には、継続訓練を受けると補助金が支給されるインセンティブの導入等が想定されている。3つめは、デジタル化に伴い、ビジネスモデルの変更を余儀なくされる企業の従業員に対する「職業転換訓練」である。方策としては、訓練への参加を容易にするインタラクティブな「職業訓練デジタルプラットフォーム」の設置や、これまで職場で非公式に獲得されていた職業能力を可視化するための評価・認証制度の導入が提案されている。

労組「トランスフォーメーション操短手当」を提案

労働組合もデジタル化に対応するための訓練施策を提案している。IGメタル(金属産業労組)は、デジタル化によって、生産や供給部門で大幅な構造改革が進むとして、「トランスフォーメーション操業短縮手当(操短手当)」の導入を求めている。これは、企業のビジネスモデルの変更によって、仕事量が減少する労働者の雇用を確保しつつ、新たに必要な技術や資格を取得させることを目的にしている。

操短手当(Kurzarbeitergeld)自体は、従来からドイツにある制度で、操業短縮に伴う労働者の収入低下に対して、その一部を補償する助成策の一つである。企業が経済的要因等から操業時間を短縮して従業員の雇用維持を図る場合、連邦雇用エージェンシーに申請すると操業短縮に伴う賃金減少分の一部(減少分の60%、扶養義務がある子供を有する場合は67%)が補填される。2008年の世界経済危機の際には、この操短手当と労働時間口座(注2)等の柔軟な労働時間制度を併用することで、企業内の技能維持と失業抑制を図った。両制度の活用で大量の失業者を出さずに危機を乗り切り、その後の迅速な景気回復へつながった点が評価され、当時、EUやOECD等から「ドイツの雇用の奇跡」と呼ばれた。

報道(Handelsblatt)によると、ハイル連邦労働社会相は、IGメタルの提案について、「操短手当と訓練や資格取得を結びつけることは有意義であり、今後、提案された制度の導入を含め、様々な支援策を検討する」と述べ、その進展に注目が集まっている。

参考資料

  • BMBF(Pressemitteilung:063/2019), Handelsblatt (12.06.2019)ほか。

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