人的資源・社会保障部が「第十四次五カ年計画」を発表

人的資源社会保障部は、2021年6月、「人的資源と社会保障の事業発展第14次五ヵ年計画」(以下:「計画」)(注1)を発表した。この「計画」は、党・政府が制定した「国民経済と社会の発展の第14次5カ年計画と2035年の長期目標制定に関する中国共産党中央提議」とその「長期目標綱要」に基づき制定されたもので、中国が現在抱える課題を解決すべく、2021年から5年間の「雇用」、「社会保障」、「人材育成」、「賃金分配」、「労働関係」、「公共サービス」6分野の重点目標と指標を設定したものである。

就業優先政策の強化:質の高い就業促進、就業環境の整備を強化する

「計画」では、優先的課題として2021年~2025年の間に都市部で5000万人以上の新規雇用創出を行い、調査失業率を5.5%以下、登録失業率を5%以下とする目標を示した。実現のための諸施策として、雇用審査評価システムの構築や産業・地域連携発展をめざす「国家レベルの完全雇用コミュニティ」(注2)の構築、雇用創出プロジェクトへの政府の優先投資、雇用吸収力の高いサービス業、中小零細企業、労働力集約型企業の発展支援などの事業に力を注ぐ。

「第十四次五カ年計画」の主要指標は以下の通りである。

「第十四次五カ年計画」期間中の主要指標
画像:図表

  • 注:[]内の数は5年間の累計数

ところで、政府が唱える「就業・起業促進計画」は、①就業サービスの質の向上プロジェクト、すなわち、全国規模の就職紹介サービスの情報ネットワーク構築に力を入れ、公共の就業サービスの標準化、オンライン化、専門化水準を引き上げること、②青年の就職・起業促進計画、すなわち大卒者など若者の就職を最優先として、就職・起業支援体系を整備し、就職に必要な能力の向上や起業・イノベーション力育成をサポートし、様々なルートの就職・起業を促進すること、③就職統計に関する基礎的情報把握計画、すなわち大卒者、農民工、フレキシブルな就業者といった若者の中核的グループの移動・就職状況、市場の人材ニーズ変化の追跡に力を入れるとともに就職・起業モデルを創出すること、④労働ブランド(注3)による就職促進計画、すなわちリーダー企業を育てて、工業団地を開発することで、知名度の高い労働ブランドを作り上げることという4つの柱から構成される。

政府は、将来の就業促進の鍵は、起業による柔軟な就業の促進であると考えている。そのため、新産業・新業態に対して慎重的な監督管理を行い、創業インキュベーションモデル基地や創業パークを構築し、ビジネス環境の整備をめざしている。質の高い起業インフラを整備し、起業研修、コンサルティング、追跡支援などの起業のための支援体系を作り上げることで、新業態就職促進とのシナジーの実現をめざす。また、農民工に対しても帰郷後の起業を支援し、場所の提供、賃貸料減免、起業補助金、貸付保証金などの政策を積極的に提供していく。

柔軟な就業のための職業能力開発とイノベーション人材の育成

柔軟な就業を実現するためには、労働者の就職・起業能力を全面的に高めるため、職業技能の生涯訓練制度を整備し、大規模に展開する必要がある。そのための重点界分野の特別訓練計画を実施し、特に先進的製造業の技能訓練に力を入れ、新しいタイプの見習い訓練を導入するなど、デジタル産業を中心に新事業、新職業分野の人材の質的向上をめざす。職業訓練資金については、資金の流れを変更し、補助金等が直接企業や受講者に届く仕組みを築くとともに、訓練機構が国の職業基準に基づいて多様な訓練プログラムを提供する。訓練は、オーダー形式で、対象や方向性を明確にする。オンラインによる訓練も重視し、新職業のオンライン訓練を立ちあげる。障がい者も訓練を受けられるよう職業技能基準、訓練・研修体系の整備、職業訓練パッケージ、訓練教材の開発等を行う。

また、職業訓練特別行動として以下の3分野の重点施策が唱えられた。①職業技能向上行動:各種補助金型職業技能訓練を延べ7500万人に対して実施する。②職業基準体系の構築:国の職業技能基準、業界企業の評価規範、特定職業の審査期間など多層的で相互に連関性の高い職業基準体系を構築する。③技能人材評価の質向上・範囲拡大:雇用組織1万社を対象に全国規模で30社の社会研修評価組織を活用して延べ800万人が高級労働者以上の職業資格証書、職業技能等級証書を取得できるようにする。

「計画」は、国家レベルでの高度なホワイトカラーの人的資源管理体系を構築し、就業と起業の促進、人材の柔軟な活用を発展的に行うことが重点課題であると指摘する。その上で「人的資源市場建設計画」「中心的企業の育成計画」「産業パーク建設計画」「一帯一路の人的資源サービス行動」「就業・創業促進行動」というアクションプランにおいて今後具体的方針が示されている。特に、専門技術人材の育成には力を入れ、今期計画期間で専門技術者職業資格証書の新規取得者数1300万人、ポスドク研究員の年間募集人数2万8000人をめざす(下図「サポート計画」参照)。

専門的技術人材に対する一連のサポート計画

  1. ポスドクイノベーション人材サポート計画
    国の重要な科学研究任務・重点的科学研究プラットフォームを利用して、ポスドクイノベーションの特別ポストを設け、国内の優秀な博士学位取得者を毎年500名前後選んで資金援助を行い、ポスドク研究に従事させる。
  2. ポスドク国際交流計画
    高等教育機関を卒業し、世界のトップクラスに名を連ねる外国籍または留学経験のある中国籍の博士学位取得者から毎年500名前後を選んで資金援助を行い、ポスドクのポストを設けている国内組織でポスドク研究に従事させ、国内の優秀なポスドク100名前後を選んで国外の高水準の研究機関に送って共同研究に従事させる。
  3. 専門的技術人材の知識更新プロジェクト
    国家レベルの専門的技術者の継続教育基地を動態的に管理、構築し、毎年、国家レベルの上級研修プロジェクトを300期前後開催する。専門的技術者の能力向上プロジェクト・デジタル技術エンジニアの育成プロジェクトを実施し、重点的分野に関連して大規模な知識更新のための継続教育を展開し、毎年のべ100万人のハイレベルで急ぎ必要とされる専門的技術人材、中心的専門技術人材の訓練を行う。

また、技能人材は、高技能人材訓練基地プロジェクト、技能労働者の教育の質的向上プロジェクト、職業技能等級制度、世界技能コンテスト誘導計画などの「技能中国行動」の実施を通して、イノベーション型、応用型、技能型人材の育成に力を入れ、2021~2025年に新規に職業資格証書または職業技能等級証書取得者を延べ4000万人に増やすことを目標とする。

労働関係の安定の強化

労働関係の安定、人力資源・社会保障公共サービス体制の整備も重視する。「計画」では、2021~2025年に労働紛争の調停率60%、仲裁結審率90%をめざし、労働保障監察の通報・苦情案件の結審率は96%を目指す。

フレシキブル就業者の保険参入

社会保障については、社会保障システムを整備し、戸籍制限等の撤廃で全国民をカバーした都市部農村部社会保障の統一化をめざす。「計画」では、社会保障カード発行し、カード保有者数14億人を目指す。保険料の納付困難者に対する支援政策を整備し、加入年齢に達した者に都市・農村部住民基本養老保険への加入を積極的に促すほか、失業保険について、今期計画期間中に省レベルで統一するととともに加入者2億3千万人をめざす。中小零細企業、農民工などの組織や団体を重要な対象として加入を促進する。労災保険について今期改革期間中に加入者数2億8000万人をめざす。公務員と政府系事業組織従業員をすべて労災保険制度の対象とするほか、新雇用形態の就業者に対しても労災保険保障試行弁法を制定することで、労災保障のモデルを推進する。

このほか高齢化が見込まれるが、法定定年退職年齢の段階的引き上げを確実に実施するとともに、基本養老保険金の受給最低支給年齢を段階的に引き上げる。

「共同富裕」と所得分配制度改革

中国政府は、格差是正に向けた「共同富裕」を推進するが、その取り組みは農村部や低所得者層への所得再分配を意味する。貢献を見込んだ賃金の構成要素に、職位価値、技能水準、実績貢献、イノベーション成果などを組み込むことで、複線的な所得分配方式を模索する。

また、様々な業界や対象に対する所得分配の事前指導を強化し、異なる業界、対象の所絵分配ガイドを模索するなど所得分配に関する政府のマクロコントロールを導入する。

さらに、大学や専門学校の卒業生、技能労働者、小規模・零細の起業者、農民工などを重点として、中間所得層を拡大する。大学や専門学校の卒業生の採用マッチング率や労働力率を引き上げる。技能型人材の待遇水準、社会的地位を引き上げる。小規模・零細の起業者に対する支援政策を整備する。農民工の資質を高め、農業農村資源や現代的経営方式を運用して収入を増やす。「計画」では、「非公有制企業(民間企業)を重点として、賃金の集団交渉の実効性を高め、現場労働者の賃上げに力を入れる」と唱え、低賃金の現場労働者への合理的な賃金獲得のための提案をしている。

参考資料

  • 人的資源・社会保障部ウェブサイト

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