在宅就労に関する報告書を発表
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  • 国別労働トピック:2021年6月

国際労働機関(ILO)は2021年1月、「在宅就労:見えない労働からディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)へ(Working from home. From invisibility to decent work)」を発表した。ILOは本報告書において、在宅就労を、①手工芸や電子部品の組み立て等を行う「工業系家内労働」、②多くは自営や請負として発注者や仲介者の仕様に従ってサービスを提供する「デジタル・プラットフォーム労働」、③情報通信技術を使用して、被用者が定期的・恒久的にリモートで作業する「テレワーク」の3つに大別し、その特徴や課題、対策をまとめている。以下、報告の概要を紹介する。

コロナ拡大以前、在宅就労者の規模は全就業者の7.9%

2020年春には新型コロナウイルスの感染拡大防止策として各国でロックダウン措置が実施されたため、世界中で働く就業者の5人に1人近くが在宅就労していたと推定される。2019年の在宅就労者数は、世界全体で2億6000万人(全就業者の7.9%相当)と推定されており、2020年は前年の規模をはるかに上回ると予測される。

データ入手可能な多くの国では、2019年の在宅就労者の全被用者に占める割合は10%以下であった(13カ国では15%以上)。アジア太平洋諸国では在宅就労者が多く、世界全体の65%近く(1億6600万人以上)を占めている。

就業形態別に見ると、在宅就労者の59%が自営業者であり、19%が被用者である。就業形態別の傾向は、各国によって異なる。低・中所得国ではほとんどが自営業者だが、高所得国では被用者が大きなグループとなっている(図1)。こうした差異は、国の職業的差異を反映しているわけではなく、経済的発展の水準が基盤にある。

図1:在宅就労者の就業形態(所得グループ別、%)(2019年)
画像:図1
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  • 出所:ILO(2021)

また、在宅就労者の6割近くが女性である。2019年には、在宅就労者全体の56%に相当する1億4700万人の女性が在宅就労していたと推定される。また、女性就業者全体に占める在宅就労者の割合は11.5%と、男性(5.6%)より高かった。女性が在宅就労者の過半数を占める事実は、女性が介護や家事・育児などの負担の大部分を担うことを当然視する性別役割分担意識や、女性が仕事のために家から出ることを困難にする文化的規範と深く関連している。

コロナ拡大以前、テレワーカーの規模は全就業者の3%

テレワークは2020年3月以降、特に高所得国において急速に拡大した。2019年の恒久的にテレワークをしていた被用者の割合は、世界全体の就業者の3%であった。コロナ拡大以前、ほとんどの在宅就労は時折行われていたに過ぎず、多くの場合は職場での勤務時間に加え、労働時間を延長するのに役立っていた。例えば、アメリカでは2017~2018年に賃金労働者の25%が少なくとも時折在宅就労していたが、週5日在宅就労していたのは2%のみであった。オーストラリアでは2017年に在宅就労者の43%が、仕事の遅れを取り戻すために在宅就労していた。

日本では、2016年の100人以上規模の会社2032社を対象とした政府調査によると、13.2%の会社が何らかのテレワーク制度を採用していた。しかし、半数近くの会社では、テレワークをしている被用者は5%以下だった。日本では、在宅就労は非公式の傾向があり、労働者が通常の営業時間外に仕事を完遂するための手段として使用されていた。加えて、日本企業はパンデミックの間にテレワークを採用することが難しかった。日本CFO(最高財務責任者)協会が緊急事態宣言(2020年4月7日)発令前に577名の最高財務責任者および財務担当役員を対象に行った調査によると、31%の企業が事務処理のデジタル化、およびテレワークに必要な社内規則や手続きが整っていないため、テレワークを導入できないと回答した。

在宅就労者は非在宅就労者より総収入が少ない

在宅就労者の属性は、困窮した工業系家内労働者から、高度なスキルを持ったテレワーカーまで多岐にわたる。そのため、在宅就労者の職種分布、および相対的な収入は国によって異なる。例えば、出来高払いの職人が多い南アフリカやメキシコでは、在宅就労者の収入はそれぞれ、非在宅就労者の収入の64%、54%であった。一方、イタリアやイギリス、アメリカでは高度なスキルを持ったテレワーカーが多いため、在宅就労者は非在宅就労者より25~40%多い収入を得ていた。

しかし、収入に関係する教育レベルや年齢、職業、性別を考慮に入れると、イタリアを除くすべての調査対象国(注1)において、在宅就労者は非在宅就労者より総収入が少ない。在宅就労者の総収入は非在宅就労者に比べ、イギリスでは13%、南アフリカでは25%、アルゼンチンやインド、メキシコでは約50%少なかった。

インフォーマル労働、社会保障、安全・健康面にも課題

在宅就労は様々な課題を抱えている。第一に、在宅就労はインフォーマル就労の比率が高い。特に低・中所得国では、在宅就労者の90%がインフォーマル経済で働いている。また、歴史的に児童労働は在宅就労で顕著であり、この現象は今日も続いている。

第二に、在宅就労者は社会保障から除外されている可能性があり、彼らの既に不安定な雇用状態をさらに悪化させうる。社会保障法の対象であるにもかかわらず、その法律が適用されていなかったり、自営業者として分類されているため、特定の法律の対象となっていなかったりする場合がある。その結果、在宅就労者と非在宅就労者の社会保障の適用範囲の格差は、一部の国で40%に達する。

第三に、在宅就労者の場合、適切な労働環境を整備する責任は個々の労働者にあることが多いため、安全・健康面にリスクがある。主な懸念事項は、工業系家内労働者が不十分な保護環境で工具や化学薬品、製品を取り扱うことや、デジタル・プラットフォーム労働者が有害な情報コンテンツと接触すること等である。テレワーカーの場合は、筋骨格系障害や社会的孤立による心理社会的リスクが挙げられる。

第四に、在宅就労者は非在宅就労者より研修を受ける機会が少ないため、彼らのキャリア展望に影響を与える可能性がある。イギリスにおける最新の労働力調査では、過去3カ月間に何らかの研修を受けた在宅就労者の割合は16%と、非在宅就労者(28%)より低かった。

労使団体との協力が不可欠

在宅就労は今後ますます重要性を増す可能性が高い。すべての在宅就労者が見えない労働からディーセント・ワークへ移行できるよう、政府は労働組合や使用者団体と協力しなければならない。

すべての在宅就労者に対して、結社の自由と団体交渉の権利を確保する必要がある。また、特に工業系家内労働、およびデジタル・プラットフォーム労働をフォーマル経済に移行させる必要がある。工業系家内労働者については、仕事の可視性の向上、法的保護の拡大、労働者の権利意識の醸成、書面による契約の一般化や適正な出来高の設定等、あらゆる面で協調した政策行動が求められる。

デジタル・プラットフォーム労働者については、活動が複数の国境を横断するために法律等の遵守の面で特殊な課題が提起されている。また、契約書(サービス契約の条件)を理解しやすい言葉で提示すること等、政策面でも注意が必要な点がある。彼らの活動から生成されたデータを用いた労働条件の監視や、公正な賃金を設定するツールが必要である。

テレワーカーについて、政策立案者は労働者自身の法的意識の向上を含め、法律が適用されているかどうかを確認すべきである。特に、在宅就労者と同じ雇用主のもとで働く非在宅就労者との間で平等な待遇を確保することに注意を払う必要がある。また、心理社会的リスクを軽減する具体的な行動の整備に加え、労働時間を制限し、仕事と私生活の境界を尊重するための「つながらない権利」の導入が必要である。

参考資料

  • ILO資料 Working from home: From invisibility to decent work
  • ILO(13/1/2021) Working from home, Homeworkers need to be better protected, says the ILO

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