K字型回復で格差拡大の懸念
 ―ILOモニター第7版

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  • 国別労働トピック:2021年4月

国際労働機関(ILO)は2021年1月、「ILOモニター『COVID-19 と仕事の世界:推計と分析』第7版(ILO Monitor: COVID-19 and the world of work. 7th edition)」を発表した。ILOは本報告において、2020年における新型コロナウイルス感染症拡大の影響を分析し、2021年の回復の見込みについて言及している。以下、報告の概要を紹介する。

2020年の労働時間の損失は、世界金融危機時の約4倍

最新の年次推計によると、2020年における世界の労働時間は、2019年第4四半期と比べて8.8%減少した。これはフルタイム労働者(週48時間労働)に換算すると、2億5,500万人に相当する。地域別に見ると、中南米とカリブ諸国、南ヨーロッパ、南アジアで、減少幅が特に大きかった。

2020年における労働時間の損失は、世界金融危機時の約4倍に達している。パンデミック以前(2005~2019年)は、生産年齢(15~64歳)の一人当たりの平均労働時間は週27~28時間の間で推移していたが、2020年には週24.7時間と急減している(前年比2.5時間減)。一方、世界金融危機時には、前年比0.6時間のみの減少だった。

このような労働時間の損失により、世界の労働所得は2020年に前年比8.3%減少したと推定されている。財政ベースでは前年比3.7兆米ドル減少したと推定され、これは2019年の世界全体のGDPの4.4%に相当する。所得グループ別に見ると、労働所得の減少率は下位中所得国(12.3%減)で最も大きく、他は7.6~7.9%減の水準であった。地域別に見ても大きなばらつきが生じており、南北アメリカで10.3%減と最も多いのに対し、アジア・太平洋地域では6.6%減であった。

非求職者の増加による雇用の減少

2020年における労働時間の減少の約半数は雇用の喪失によるものであり、残りの半数は雇用維持を図るための労働時間短縮によるものである。地域別に見ると、労働時間の減少に占める雇用喪失の割合は南北アメリカで最も高く、ヨーロッパと中央アジアで最も低くなっている(特にヨーロッパでは、雇用維持スキームを活用した労働時間の短縮が広く行われている)。

2020年の雇用喪失は大規模であり、2019年の雇用水準と比較して1 億1,400 万人の雇用が失われた(注1)。相対的に見ると、雇用減少率は男性(3.9%減)よりも女性(5.0%減)の方が高く、成人労働者(25歳以上、3.7%減)よりも若年労働者(15~24歳、8.7%減)の方が高かった。

図1:2020年における世界の雇用喪失の内訳:年齢別・男女別、失業・非求職者の割合
画像:図1
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  • 出所:ILO(2021)

これまでの危機とは対照的に、2020年の雇用喪失は主に失業者数ではなく、非求職者数の増加によりもたらされた(図1)。世界の雇用喪失の71%を占める非求職者の数は8,100万人増加し、世界の労働力率は前年比2.2%ポイント減の58.7%となった(世界金融危機時には0.2%ポイント減)。一方、世界の失業者数は2020年に3,300万人増加し、失業率は1.1%ポイント増の6.5%となった(世界金融危機時には0.6%ポイント増)。今回の危機は世界金融危機時にはそれほど大きな影響を受けなかった低・中所得国も含む、世界中の労働市場に影響を与え、雇用喪失が拡大して失業率が上昇した。

K字型回復で格差拡大の懸念

今回の危機の影響は総じて、経済、地理的位置、労働市場の諸産業毎に影響が不揃いであることから、最も打撃を受けた産業や労働者グループが回復から取り残され、格差の拡大につながるという「K字型回復」の懸念がある。

1)産業間の二極化

リスクの高い産業(注2)が大きな打撃を受けたが、宿泊・飲食サービス業、小売業、製造業は雇用が激減し、特に宿泊・飲食サービス業では20%以上減少した。一方、情報・通信部門と金融・保険部門では、金融市場の好調な業績に加え、デジタル・サービスに対する需要の高まりを反映して、雇用が2020年第 2・3四半期に増加した。また、同第3四半期には、特に鉱業・採石業と公共事業で雇用が増加した。

このように産業によって二極化する現象はすべての国で見られるが、産業間の違いとその変化の大きさは、国によってかなり差がある。フランス、韓国、タイ、イギリスなどの強力な労働市場支援措置を活用している、もしくはウイルス及び感染拡大防止措置の影響を受けにくい国に比べて、ブラジル、コスタリカ、スペイン、アメリカなどでは産業間の二極化が大きい。

2)国家間、労働者グループ間の二極化

入手可能な各国のデータ(注3)によると、所得支援措置(雇用維持スキーム)により危機の影響は緩和されたものの、「支援後の労働所得」(労働者が受け取る所得支援を含む)への影響は、支援規模によって大きく異なる。例えば、ペルーでは支援後の労働所得が56%減、労働時間が59%減と最大の減少幅を記録した。一方、大規模な雇用維持スキームを活用したイギリスでは影響は最も小さく、労働所得は3%減、労働時間は18%減となった。よって、雇用維持スキームは十分な規模で実施されれば、労働時間の損失による労働所得・雇用の減少を抑制するのに有効である。

また、労働者の属性によりばらつきがあった。若年労働者、女性、自営業者、低・中スキル就業者は、支援後の労働所得の損失が相対的に大きかった(表1)。例えば、若年労働者と就業者全体の差は非常に大きく、ペルーやベトナムでは約18%ポイントとなっている。雇用維持スキームによって支援後の労働所得の減少が緩やかなレベルに抑えられていたイタリアやイギリスでも、若年層の減少幅ははるかに大きかった。これは、雇用維持スキームが一般人口よりも若年労働者を保護する効果が低いことを示している。また、雇用喪失は多くの場合、低賃金・低スキル職種に顕著な影響を与えており、格差がさらに拡大する危険性を示唆している。

表1:支援後の労働所得の変化(労働者の属性別、2020年第2四半期)(%)
画像:表1
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  • 注:n.a.=データ入手不可。
  • 出所:ILO(2021)

今年後半に回復の見込み、人間中心の回復支援が必要

高所得国・上位中所得国は2021年第1四半期に困難な状況に直面すると予想されるが、ワクチン接種が本格化すると同下半期には比較的強い回復の可能性がある(注4)。しかし、回復は引き続き不均衡で大きな不確実性を伴うものとなり、国内、国家間での格差の拡大が懸念される。ワクチン接種を迅速かつ大規模に展開することでウイルスを効果的に抑えることが重要であるが、仕事の世界を回復させるためには、適切な社会・経済政策が必要である。

政策介入は、雇用、所得、労働者の権利、社会対話という人間中心の回復に取り組むことで、強固で広範な回復に焦点を当てなければならない。したがって、政策決定者は相互に関連する課題として次の5つを、2021年の政策の最優先事項とする必要がある。

  • 財政発動による刺激策や所得支援策、投資を促進する措置を含む緩和的マクロ経済政策の維持
  • 財政的理由からワクチン購入や経済・雇用政策を実施できない低・中所得国への国際的支援
  • 壊滅的な影響を受けている脆弱なグループ(若者、女性、低賃金・低スキル就業者)に対象を絞った支援
  • 最も打撃を受けた産業に支援を集中させる一方、急成長する産業で雇用を創出
  • 回復戦略の策定に向け、使用者・労働者団体との社会対話

参考資料

  • ILO資料 ILO Monitor: COVID-19 and the world of work. 7th edition
  • ILO(25/01/2021) COVID-19: ILO Monitor – 7th edition, ILO: Uncertain and uneven recovery expected following unprecedented labour market crisis

参考レート

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