失業保険の特例・加算措置を継続・再開
 ―コロナ危機の追加経済対策

カテゴリー:雇用・失業問題労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2021年1月

トランプ大統領は2020年12月27日、新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済危機対策を含む予算法案(2021年統合歳出法案)に署名した。約9000億ドルを計上し、(1)景気刺激策として1人あたり最大600ドルを直接給付する、(2)失業保険給付の特例措置を継続、加算措置を再開する、(3)中小企業での雇用維持支援の融資を再開する、といった内容を盛り込んでいる。コロナ危機対応の大規模な雇用・経済対策の策定は、昨年3月に続いて2回目(表1)(注1)。この間、民主・共和の両党がそれぞれ対策案をまとめたが、対立が続いて合意できずにいた。なお、バイデン次期大統領は1月14日に1兆9000億ドル規模の経済対策案「米国救済計画」を発表した。新政権発足後、直接給付額の増額、失業保険特例・加算措置の増額・再延長などが議会で審議される見通しとなっている。

表1:米国におけるコロナ危機対応の主な経済対策
法律名等 ①2020年3月27日トランプ大統領署名(コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法、The Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act、CARES法) ②2020年12月27日トランプ大統領署名(2021年統合歳出法、Consolidated Appropriations Act 2021、CAA) ③2021年1月14日バイデン次期大統領発表案(米国救済計画、American Rescue Plan、ARP)
直接給付 1人あたり最大1,200ドル(成人)、500ドル(非成人) 1人あたり最大600ドル(成人・非成人とも) 1人あたり1,400ドル(成人・非成人とも、)を追加支給
失業保険(※注1)
  • 週600ドル加算(FPUC)
  • ギグ・ワーカーやフリーランス向け特例支給(PUA)
  • 受給満了者の支給期間延長(13週間)(PEUC)
  • 週300ドル加算(3月14日まで)
  • 左記特例措置を11週間(3月14日まで)延長
  • 「複合所得者失業給付(MEUC)」を新設
  • 週400ドル加算(9月末まで)
  • 左記特例措置を9月末まで延長
中小企業従業員給与保護(PPP、※注2) 従業員月間平均給与の2.5倍(1,000万ドルを上限)に融資。75%(6月の制度改正※注3で60%に緩和)を給与関係費用に充てれば返済免除(免除額は雇用や給与水準の削減程度に応じて減少)
  • 同左
  • 一定の条件のもと2回目の融資(月間平均給与の2.5倍・上限200万ドル)を可能に。
  • 宿泊・外食産業への2回目の融資は、月間平均給与の3.5倍(上限200万ドル)に

(総額150億ドルの助成金、同350億ドルの低金利融資を設定)
  • ※注1:略称の正式名称は以下のとおり
    FPUC=連邦パンデミック失業補償(Federal Pandemic Unemployment Compensation)
    PUA=パンデミック失業支援プログラム(Pandemic Unemployment Assistance)
    PEUC=パンデミック緊急失業補償(Pandemic Emergency Unemployment Compensation)
    MEUC=複合所得者失業給付(Mixed Earner Unemployment Compensation)
  • ※注2:PPP=給与保護プログラム(Paycheck Protection Program)
  • ※注3:PPP柔軟化法(PPP Flexibility Act、2020年6月5日大統領署名)に基づく。
  • 出所:内国歳入庁、バイデン政権移行公式、ブルームバーグ通信、連邦議会、連邦中小企業庁、連邦労働省、各ウェブサイトより作成

景気刺激策

21年統合歳出法による個人への直接給付は前回(最大1200ドル)の半額となっている。2019年の収入が個人で75000ドル、夫婦で150000ドルを超える場合は減額される。子どもへの給付は前回の500ドルから600ドルへと増やした。12月29日から銀行口座への振込などの方法で給付が始まっている。

バイデン新政権の計画では、一人あたり1400ドルの追加支給を盛り込んだ。また同計画は、連邦最低賃金を1時間あたり15ドル(現行7.25ドル)へと引き上げることにも言及している。

失業保険の特例・加算措置

失業保険について昨年3月の経済対策では、(1)週600ドルの加算支給(連邦パンデミック失業補償、Federal Pandemic Unemployment Compensation 、FPUC)、(2)ギグ・ワーカーやフリーランス、自営業者らを対象にした特例給付(パンデミック失業支援プログラム、Pandemic Unemployment Assistance、PUA)、(3)受給期間満了者に対する最長13週間の継続給付(パンデミック緊急失業補償、Pandemic Emergency Unemployment Compensation、PEUC)などの制度が設けられた。

(1)は昨年7月末で失効し、(2)と(3)は期限を同12月26日までとしていた。(1)は8月8日の大統領令により300~400ドルを加算する措置(注2)に代わったが、その予算も底をつく状態になっていた。21年統合歳出法では、(1)FPUCの加算額を週300ドルに設定。支給期間は2020年12月27日から21年3月14日までの最長11週間とした。(2)PUAと(3)PEUCの支給期限は11週間延長した。バイデン新政権の計画では加算額を週400ドルに増やし、一連の特例措置の期限を9月末へと延長するものとなっている。

21年統合歳出法では、複合所得者失業給付(Mixed Earner Unemployment Compensation、 MEUC)を創設した。この制度は自営と雇用(給与)の双方で収入を得ている「複合所得者」を対象とするもの。前述のPUAは少しでも通常の失業保険を受給している者を対象から外している。このため、大半の収入を自営業で得ていた者が、その収入源を失った場合、わずかな額の失業保険しか給付されない問題が生じていた。このため、①通常の失業給付(週1ドル以上)を受けている、②直近年度の自営業収入が5000ドル以上ある、という条件を満たす者に対し、通常の失業保険に週100ドルを追加して給付することとした。

中小企業の雇用維持支援

21年統合歳出法では中小企業向けの緊急融資制度である給与保護プログラム(Paycheck Protection Program、PPP)のため、あらためて約2844.5億ドルを計上した。この融資を活用して従業員の雇用や給与水準を維持した場合に返済を免除する仕組みで、雇用維持目的の助成金としての性質を帯びている。連邦財務省及び同中小企業庁によると、制度ができた2020年4月3日から申し込みを締め切った8月8日までの間に、合計521万件、総額5250億ドル、1件あたり平均10万ドルの融資が行なわれ、5100万人の雇用維持に貢献したという(注3)

具体的には、従業員数500人未満の中小企業等 に対して、1000万ドルを上限に、従業員の月間平均給与総額 の2.5倍を連邦政府(中小企業庁)の保証で融資する。事業主は融資を借り入れ後8~24週間以内の従業員の給与、有給休暇、保険料、家賃、水道光熱費、通信費、住宅ローン利息の支払いなどに充てることができる。21年統合歳出法に基づく制度改正により、新型コロナから労働者を保護するための器具購入費用や、略奪・破壊行為で損害を受けた時の修理費などにも使えるようにした。

融資の返済は、融資の60%を給与関連の費用に充てることを条件に免除される。融資期間中に従業員の雇用や給与水準を削減した場合、その程度に応じて返済免除額は減額される。なお、2020年2月15日時点で事業を運営していたことも条件とされている。

申請はこれまで1回限りとしていたが、2回目の利用が認められるようになった。その要件として、(1)従業員300人以下であること、(2)2020年のいずれかの四半期の総収入が前年同期に比べて少なくとも25%減少していること、(3)過去のローンをすでに使用した、または使用予定であること、をあげている。融資額は従業員月間平均給与の2.5倍で変わらないが、上限は200万ドルとした。ただし、宿泊業や外食産業の事業者が2回目の申請を行なう場合は、月間平均給与の3.5倍(上限は最大200万ドルで同じ)としている。

また、これまで融資を利用できなかった中小企業向けに350億ドル、低・中所得地域における小規模企業(従業員10人未満)あるいは1件25万ドル未満の借り手企業に対し、初回分150億ドル、2回目分250億ドルをそれぞれ確保する措置などを講じている。

今回の受け付けは1月11日から始まっており、3月31日(あるいは予算の残額がなくなった時点)まで受け付ける。バイデン新政権の計画はPPPに触れていないが、新たな中小企業対策として総額150億ドルの助成金支給や350億ドルの低金利融資を盛り込んでいる。

いわゆるワークシェアリングの制度としてコロナ禍以前から設けられている操業短縮補償(Short Time Compensation、STC)について、21年統合歳出法は連邦政府による資金拠出の期限を2020年12月末から21年3月14日へと延長した。STCは従業員を解雇する代わりにその労働時間を短縮する場合、当該従業員に失った賃金の補償として失業給付の一部を支給するもの。制度の有無や内容は州によって異なる。昨年3月の経済対策にはSTCがある州に関連資金の100%、ない州には制度の運営に必要な資金の50%を連邦政府が負担(総額1億ドルを拠出)することが含まれていた。バイデン新政権の計画はこの制度に全額出資することが記載されている(期限は9月末まで)。

「21年統合歳出法」によるその他の施策

コロナ禍の影響を受けた中小企業に対し、事業運営の資金を低利で貸し出す経済的損傷災害融資(Economic Injury Disaster Loan、EIDL)に200億ドルを計上した。

税制面では、収入減の事業主を対象にした還付制度である従業員雇用継続税額控除(Employee Retention Tax Credit、ERTC)に200億ドルを計上し、制度の期限を2020年12月末から21年6月末に延ばした。21年1月以降、控除する範囲をそれまでの従業員給与1人あたり年間最大1万ドルの50%(=最大5000ドル)から、同四半期あたり70%(=最大1万4000ドル)へと拡大している。

従業員500人未満の中小企業等を対象にした緊急家族医療休暇(有給病気休暇・拡大家族・医療休暇、(注4))は2020年12月末で失効した。この休暇制度は、新型コロナ関連で行政や医師から隔離を要請されたりした従業員に対し、最長2週間の「有給病気休暇」を付与するもの。さらに雇用期間30日以上の従業員が学校・育児施設の閉鎖等により18歳以下の子どもを世話する必要がある場合、最長10週間の「拡大家族・医療休暇」が追加的に付与される。給与の支給率は休暇の理由によって100%か3分の2とされ、それぞれ最大1日511ドル、同200ドルを上限に税額控除で事業主に還付される。21年1月以降、こうした休暇付与の法的義務はなくなったものの、事業主の判断により同様の休暇制度を維持する場合、税額控除の措置を21年3月末まで延長することとした。バイデン新政権の計画では、制度を拡大(注5)したうえで、9月末まで延長するとしている。

参考資料

  • 全米商工会議所、日本貿易振興機構、内国歳入庁、バイデン政権移行公式、ブルームバーグ通信、連邦議会、連邦財務省、、連邦財務省中小企業庁、連邦労働省、各ウェブサイト

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