最低賃金額、2021年4月から8.91ポンド

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2021年1月

政府は11月、最低賃金額を2021年4月から8.91ポンドに改定するとの方針を示した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済、雇用の低迷を受けて、例年より低い引き上げ率となった。

感染拡大に伴う雇用悪化を考慮

法定最低賃金制度は、成人(25歳以上)向けの「全国生活賃金」と、これを下回る年齢層に対する「全国最低賃金」として、年齢階層別に3種(21~24歳、18~20歳、16~17歳)およびアプレンティス(見習い訓練参加者)向けの計5種類の最低賃金額で構成される(図表)。政府は、2024年までに最低賃金額を統計上の平均給与額(中央値)の3分の2相当に引き上げるとの目標を掲げており、諮問機関である低賃金委員会が、これを達成することを前提に毎年の改定額を検討している。

2021年の改定額に関して、2020年3月に開始されたコンサルテーション(一般向け意見聴取)では、2024年時点の賃金水準に関する予測から、目標額は10.69ポンド(±30ペンス)と試算され、これをベースに次年度(2021年4月)改定額を9.21ポンド(±6ペンス)とする案が示されていた。しかし、新型コロナウイルスの影響から賃金上昇が鈍ったとみられることや、雇用に大きな影響が生じるリスクを避けるため、改定案は当初のそれを下回る8.91ポンド(19ペンス、2.2%増)に修正され、政府もこれを承認した。低賃金委員会は、低賃金層の生活水準の低下を防止するため、物価上昇を若干上回る額に設定したとしている(注1)

このほか、全国最低賃金の21-24歳向けが8.36ポンド(16ペンス、2.0%増)、18-20歳向けが6.56ポンド(11ペンス、1.7%増)、16-17歳向けが4.62ポンド(7ペンス、1.5%増)、アプレンティス向けが4.30ポンド(15ペンス、3.6%)に、それぞれ改定される。低賃金委員会は、感染拡大の影響により特に雇用状況が悪化している若年層については引き上げ幅を抑制する一方で、見直しを行っていたアプレンティス向けの額については、今後2年間で16-17歳向けと同額まで引き上げることを求めており、このため相対的に高い引き上げ率となった。

なお、低賃金委員会の提言を受けて、改定と併せて全国生活賃金の適用対象年齢の引き下げが進められ、2021年4月には23歳以上、2024年までには21歳以上が対象となる予定だ。

図表:各最低賃金額の推移
画像:図表

注:旧全国最低賃金(21歳以上)は、2016年4月の全国生活賃金(25歳以上)導入に伴い、21-24歳に対象が限定された。また、全国生活賃金は2021年4月、下限を25歳から23歳に引き下げ予定。

生活賃金、ロンドンで10.85ポンド

前後して、民間の非営利団体が実施している「生活賃金」(living wage)についても、引き上げが公表された。政府による全国生活賃金とは異なり、最低限の生活水準を維持するために必要な生活費に基づく賃金の下限を算出して、雇用主に支払いを求める運動で、市民団体や教会、労働組合などが参加して設立されたLiving Wage Foundationが推進を担っている。18歳以上の労働者に一律に適用され、年齢等による減額はないが、住居費や物価の格差を考慮し、ロンドンとそれ以外の地域で異なる金額が設定されている。雇用主は自主的に参加して「生活賃金雇用主」としての認証を受けるが、Living Wage Foundationによれば、認証雇用主は現在7000組織近く、これまでに25万人以上が生活賃金の適用により賃金が上昇しているという。

11月に発表された今年の改定額は、ロンドンで時間当たり10.85ポンド(10ペンス、0.9%増)、ロンドン以外で9.50ポンド(20ペンス、2.2%増)。算定を担ったシンクタンクResolution Foundationのレポートによれば、生活費の多くを占める住宅賃貸料が全国で下落している状況にあるほか、算定方法を一部調整したことなどで、改定額は従来よりも若干低くなったとしている。なお、生活賃金の改定と併せてLiving Wage Foundationが公表した調査結果によれば、現在およそ550万人の労働者が、生活賃金を下回る賃金水準にある。

資料出所

参考レート

2021年1月 イギリスの記事一覧

関連情報