テレワークに関する新たな労働協約
 ―パンデミックなど例外的な状況下での実施に関する規定

新型コロナウイルス感染拡大を防ぐためのロックダウンに伴い、多くの企業においてテレワークが取り入れられた。政府によってテレワークの実施が奨励されたが、十分な準備が行われないまま、事実上、テレワークが広まっていったと言える。感染拡大の終息の兆しが見えないなか、ポストコロナの働き方を考える上で、テレワークは不可欠だと考えられている。労働組合は被用者の労働条件確保や権利保護の観点から法整備の必要性を指摘しており、産業横断的な全国レベルの労働協約の締結を要求している。労使は9月22日、11月から交渉を開始することで合意したが、経営者側は労働協約の締結には否定的で労使間の隔たりは大きかった。交渉は難航したものの、11月26日にはCGT(労働総同盟)以外の主要労組が基本合意し、新しい協約が締結される見通しがついた。

テレワークの法的環境整備に向けた労使対話

ロックダウン中にテレワークに従事した者の割合は、各種調査の結果によれば、被用者の3分の1あるいは40%に相当する(注1)。10月30日から2度目のロックダウンが実施され、労働大臣はテレワークがもはや「選択肢」ではなく、国家の方針の中に不可欠として組み込まれていると説明している(注2)

テレワークに関する現行の規制は、2005年の全国労働協約や2017年の政令によって規定されている。2005年には、被用者の自主性の原則、雇用主による費用負担の義務付けなどが明記された。2017年には、2009年の新型インフルエンザ流行の通達を法制化し、疫病の脅威等例外的な状況下では、企業の事業継続と被用者の健康確保のためにテレワークの実施を可能とする規定が設けられた。

今後のテレワークの恒久化と問題点の改善に向けた環境整備の必要性もあり、7月の新内閣成立直後、カステックス首相は、労使に対して提案を求めた(注3)。これを受けて、経営者団体・フランス企業運動(Medef)と中小企業連盟(CPME)は、事実上、普及したテレワークを現状判断するための労使対話が必要だと提案した。

労組側は既存の協約に代わる新たな協約締結の必要性を提案

だが、労働組合側は、既存の全国協約や政令では不十分だと考えており、単なる労使対話や総括ではなく、テレワークを行う雇用労働者の保護を規定する産業横断的な全国規模の労働協約を締結し、法的強制力を持たせる必要があると考えている。コロナ禍のテレワーク普及に伴って、企業レベルでは実施方法に関する労使合意が500以上締結されたことを踏まえて、使用者によるテレワークの乱用を防ぎ労働者の権利を保護する必要性を訴えている(注4)

労組側が課題として指摘しているのは、まず、テレワークの強制化の禁止や仕事の分量を規制する法的根拠である。テレワークは相応しいと判断された業務で実施されるべきであり、ロックダウンに伴い否応なくテレワークに従事したケースと明確に区別すべきと主張している。また、労働時間の規制に関連して「つながらない権利」(注5)を明確に規定する必要があることや、テレワークに従事する労働者の孤立や上司による過度の管理・監督といった問題に対応する規制も必要だと指摘している。

経営者側は既存の法律の枠組みの中での柔軟な対応を提案

その一方で、経営者側は今回の労使協議ではテレワークの現況の判断(総括)に留めたい意向である。Medefは、テレワークが労働条件や雇用労働者の生活の悪化に繋がる懸念は認めているものの、順守すべき詳細な規定を設けることには反対している。テレワーカーには個々に多様な状況や背景があるため、柔軟に対応できる環境が必要だという考え方である(注6)。CPMEも同じく規制強化に反対する立場であり、2005年の協約と現行の法規定の範囲内で労使協議すべきと考えている。「つながらない権利」を全国労働協約で規定することは、企業の自由が奪われることになると懸念している。

テレワークが抱える心理的社会的リスクに対する懸念、つまりテレワーカーが経験する孤独や不安を問題視して対処する必要があるという点では労使の考えは一致している。しかし、法的強制力を持たせたい労組と既存の法規制で柔軟に対応したい使用者の間には大きな隔たりがあった。

例外的な状況下でのテレワーク実施に関する条項

11月3日から始まった交渉は難航したものの、5回の協議を経て妥結に至った。11月26日には、CGT(労働総同盟)を除く主要労組が合意書に署名し、12月23日までにCFDT(フランス民主労働総同盟)、FO(労働総同盟労働者の力)、CFE-CGC(管理職総同盟)、CFTC(フランスキリスト教労働者同盟)の各労組が組合内における手続きを経て新しい協約が成立することになる(注7)

合意内容は、基本的には2005年の全国労働協約を補完して明確化する内容である。テレワークの実施は、原則として労使双方の合意に基づくことを改めて確認し、テレワークを実施する業務の適格基準や労働条件については雇用主が一方的に決めるものではなく、従業員代表や社会経済員会などを通じた労使の対話を経て決定するということが明記された。今回の合意には新たに、自然災害や感染症のパンデミックなど例外的な状況下における規定が設けられており、労使合意に基づいたかたちでテレワークを実施する業務を決めることができない場合に関する規定が設けられている。例外的な状況下でのテレワーク実施範囲については、事前に各企業の労使で合意し、その内容を憲章として定めておくことを推奨している。

(ウェブサイト最終閲覧:2020年12月7日)

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