「2020年政府活動報告」と模索が続く雇用対策

カテゴリー:雇用・失業問題人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2020年9月

全国人民代表大会の初日の5月22日、李克強首相は「2020年政府活動報告 」(以下:「報告」)を発表した。同報告では国内総生産(GDP)の成長率目標に言及はないが、経済安定方針は強調されている。また、「六穏」(雇用、金融、貿易、外資、投資、予期性の安定 )と「六保」(住民雇用、基本民生、市場主体、食料・エネルギーの安全、産業・サプライチェーン供給、末端の行政運営の安定確保) で構成されており、特に「雇用優先政策は全面的に強化しなければならない」 という雇用重視の方針が示されたことが特徴である。

経済成長の鈍化と深刻な雇用状況

近年、中国経済は成長鈍化の傾向にあり、人件費が上昇傾向の出稼ぎ労働者の雇用は悪化していたる。また年々増加する大卒者の就職も厳しくなっている。その背景は、2018年の「高レバレッジ解消」や2019年の顕在化した米国との貿易戦争にあるが、状況を憂慮した政府は雇用を重要政策として位置づけるようになった。2019年全国人民代表大会の「報告」で初めて「雇用政策」をマクロ経済政策として「財政政策」や「金融政策」と共に並列させた。

そうした中、2020年初からの新型コロナウイルス感染拡大の影響は雇用環境をより厳しい状況に追い込んでいる。

国家統計局が発表した2020年1~5月の都市部新規雇用者数は460万人で前年同期比137万人減である。5月の都市部調査失業率は5.9%、前月比で0.1%低下、前年同期比0.9%増であった。

「2020年政府活動報告」と雇用対策

2020年「報告」では、「積極的な財政政策」や「穏健な金融政策」と共に「雇用優先政策」が提出された。そして財政、金融、投資などすべての政策実施においては雇用安定と連携することが必要だと明記しされている。「雇用と民生の安定確保を優先」する2020年の雇用安定のための具体的施策は、雇用維持、新規雇用の創出、失業者の再就職などの実現である。また、地方政府に対しても雇用に関する不合理な規則の取り消しや雇用促進対策の強化の取組みを提言している。

経済社会の直近の実情を全国規模でみると、現在までに約4割の中小零細企業が厳しい経営状態に陥っており、1.1億人の雇用に悪影響を与えている。雇用安定のためには企業経営の安定とそのための支援が求められる。特に、中小零細企業や個人経営者への支援が期待されている。そのような背景から、2020年は減税の実現や諸費用削減に取り組むと同時に中小零細企業向け融資の返済猶予など金融緩和策を実施することで企業経営の安定性を確保し、雇用の安定を図ることを目指す。

また、大卒者、退役軍人、出稼ぎ労働者、身体障がい者・無就職者世帯など就職困難者に対して積極的に就職支援を行う。そのためには職業訓練の拡充に重点を置く。2020年と2021年の2年間で職業訓練受講者を3500万人以上とすることを目標とし、高等職業学校の募集人数枠も200万人に拡大する。労働者の技能向上を実現することで就職を促進していく考えである。

雇用対策としての「露店経済」の可能性

李克強首相は5月28日の全人代閉会後の記者会見で雇用問題を解決するための対策の一つとして「露店経済」の解禁を提起した。「露店」の活性化による雇用機会創出の提案である。事例として成都市を取り上げ3万6000台の「露店」が10万人の雇用を創出したと述べ、推奨した。

「露店」は、かつて公道の一部を占拠することによる都市景観の侵害や空気汚染の原因や不十分な食品の不十分な衛生管理などを理由に大都市では取り締まりが厳しくなっていたが、一転して全国で「露店ブーム」が起こった。

東北財経大学中国戦略と政策研究センター主任研究員の周天勇氏は、露店経済や農産物の野外市場と都市の現代化は矛盾しないと指摘した 。その活性化は、フレキシブルな就業、非正規就業者に対して重要な役割を果たすことになり、約5000万人の雇用問題が解決できると指摘する(注1)

「露店ブーム」により、全国各都市で、五つ星ホテルから個人経営者まで、食品・服装販売から法律相談・人材募集まで、あらゆる業種、職種が露店経営に参入した。上海市や遼寧省政府などは支援策を相次ぎ打ち出した。しかし、北京市政府は6月6日、理由は不明であるが一転して「露店経済は首都のイメージを損なう」と発表し、露天商への取り締まり強化に転じた。これに端を発して、また各メディアもこれに追従するように、一斉に露店経済への批判にその論調を変えたことでこの現象は一変した。雇用創出に期待がもたれた「露店ブーム経済」は槿花一朝の様相である。

参考資料

  • 中国政府網、中国網、捜狐網リード

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